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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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7海里目 新しい日

 朝日輝く眩しい朝。

 結局昨日の午後は『力』に慣れる事に全力を注いだ。お蔭で今日はぐっすりと眠れた。


 今日はハジーサ島に近いグロフ島から商船が来る予定だ。そのため、朝から桟橋周辺では着岸の準備が進んでいた。

 とは言っても、正直自分の出来る事は無く、遠目から作業を見ているだけだ。当然そこに、俺見たさに子供や暇な大人が寄ってくる。


「ねぇお兄ちゃんのいた所ってどんな所?」

「んー、そうだな…皆が見たこと無い乗り物や食べ物が沢山あるよ」

「兄ちゃんって何の魔法が使えるの?」

「物を操るくらいかな」

「カケルの世界では魔法はどのくらい使えるんだ?」

「使えないどころか、存在すらしません。想像上ではありますが」

「魔法がなければ、何が発達してるのかしら?」

「科学が発達してますね。魔法や竜を使わなくても空を飛ぶ事が出来ます」

「へぇ、そりゃ凄い!」

「こっちの科学はどれだけ進んでるんですか?」

「帆が無くても進める船はあるぞ。原理は知らないがな」


 そんな応答を繰り返している内に、桟橋の方では準備がだいたい終わったようだ。


「あとは待つだけだし、港のそばまで行こうか」


 移動している間、この世界の科学力について考えてた。

 さっきの会話から察するに、少なくとも蒸気機関を備えた船が存在することは分かった。さらに「帆が無くても」と言っていた事から、蒸気機関が開発されたのは最近なのだろうと推測できる。

 実際の歴史を見ると、蒸気船が登場したのは十八世紀後半から終わりにかけてである。つまりこの世界の技術力は地球で言う「近代」にあたる。だから何だって話だが。


 港に着いても肝心の船が来なきゃ暇で仕方がない。そこで俺はサラと仲の良い双子の姉のリンと弟のシンと共に港周辺や島の事を教えてもらいながら、散策することにした。

 リンは「ヨロシクねぇ~」と。

 シンは「何か聞きたい事があれば僕に言ってね」と。


 早速案内して貰った。


 まずは港である。港自体は広く、そこに複数の建物が建っている。それらは主に漁をするための倉庫や物置小屋になっている。その中で最も目立つ建物は、かつてこの島が炭鉱で栄えた名残だと言う。


 元々ハジーサ島は、良質な石炭が採れる事で有名だった。20年程前に最盛期を向かえ、人口もかなり居たらしい。その後は採掘量が年々減少し、2年前に閉山。現在の人口は最盛期の50分の1以下になってしまったそうだ。

 まるで「軍艦島」のようだ。


 港を出てすぐには、長屋のような商店が建っている。とは言ってもその半分以上は住居区になっていて、実際に店を出しているのは、食料品屋、雑貨屋、被服屋、道具屋のみである。


 その先には、広場とそのほぼ真ん中に大きめの井戸がある。広場はちょっとした運動会が出来そうなくらい広い。井戸は集団浴場、いわゆる銭湯のために水を引っ張ってきているそうだ。

 それに、広場からは島のそれぞれの方向に道が延びてる。この広場は島の中心になっているようだ。


 井戸を挟んで大体反対側の一際大きな通りは、石炭を運ぶ為に整備された、いわば専用道路のような道だ。

 今じゃ、島の畑に行くために使われているらしい。


 そんな解説も程々に港に戻ると丁度商船が島の湾内に入ろうとしていた。

 遠目から見れば、それはまさしく帆船だ。甲板上にいる人と比べると、全長は100m無いくらい。よく見る少しずんぐりとした船体をしている。


 港では帆船を係留しようと、男たちが忙しく動き回っている。船は桟橋ではなく、整備された岸壁に泊めるようだ。


 約30分後、無事に係留作業が終了、赤い学ランみたいなものを着た2人が船から降りてきた。

 そして、島長と対面する。


「お久し振りです。ベイエル島長」

「いつも済まないね、ベルグラ船長」


 二人は日常茶飯事のように、挨拶を交わす。


「さて…荷物はいつも通りの種類と量です。あと、ちょっとした文書が島長宛てに」

「はぁ、また国からお達しが来たのか…」

「えぇ。それと後ろの少年は?」


 ベルグラ船長は俺の方を向き、そう聞いてくる。

 突然聞かれたので、思わず背筋が伸びる。


「あぁ、彼はカケル君じゃ。一昨日転生したばかりでの」


 ベルグラ船長は自分に近づいて、じろじろと体中を見てくる。


「外総館に連絡は?」

「それなんじゃが、昨日連絡しようとして通信機を使おうとしたら壊れとったわ。悪いんじゃが、お主の所のやつ使わせてくれんかの?」

「…分かりました。副長、案内をお願いします」

「はっ!」


 ベルグラ船長の後ろにいた副長と呼ばれた男性が島長を連れて、商船の中に消えていく。

 その商船では荷下ろしが進んでいる。


「カケル…でしたか?」

「は、はい」


 ベルグラ船長は、俺の耳元でつぶやく。


「流浪者だからって何でも上手くいくと思ったら、大間違いだ。気を付けろ」


 そのまま踵を返して、荷下ろしの指揮をする。

 その様子を見ていた島民が寄ってくる。


「カケル、ベルグラさんはあんな事言ったけど気にする程でもないさ」

「彼なりの気遣いだよ」




 その後も、特に何事もなく作業が進む。

 島長のほうは無事に連絡がつき、申請が済んだそうだ。

 俺も何か手伝えないか聞いた結果、降ろした荷物を港そばの倉庫に運んでくれと言われたので、『力』を使いつつ仕事をこなす。

 島民のみんなや一部の船員は最初驚いたが、俺が流浪者なのもあってすぐ慣れてしまった。

 しばらくすると、俺は商船の方に呼ばれる。


「悪いけど、船に入って荷物を出してくれないか?」


 俺は船に乗ろうと、縄で出来た梯子を懸命に登る。

 見ると人一人入れそうな程、大きな荷物をどうにかして運ぼうと4人の男たちが奮闘している。しかし角度が悪いのか、上手く動かせていない。


「ちょっとどいててください」


 そう言ってどいてもらった後、俺は『力』を使ってその荷物をゆっくりと持ち上げる。

 そのままゆっくりと船外に出す。その様子を見た人は『おぉー』と歓声が上がった。


 そんなこんなで夜になる。

 荷物は日が暮れる前に降ろし切り、明日の朝には主に食料の補給が始まるという。


 そして今、俺は集団浴場にいる。船員たちの疲れを取るために今日は湯を沸かしていたのを見て、『入ってみたい』と言った所、特別に許可を得て入らせてもらっているのだ。

 集団浴場とは言ったが、3,4人入ればいっぱいの大きさである。湯は五右衛門風呂のように、下から火を焚いて沸かす。煙は床下を通って洗い場全体を温めるように作られている。それでも浴場全体がなかなか温まらないのか、風呂の隅に熱した石を投入して蒸気を噴き出させていた。


 俺が風呂に姿を現すと、船員たちからいろんな事を聞かれる。そんなもんで俺は答えられる範囲の事は答えてあげた。

 それにしても、久しぶりの風呂である。こっち来てからそんな余裕なかったもんな。

 湯に浸かっていると脱衣所の方から話し声が聞こえる。


「奴らの動きはどうなんだ?」

「艦長が話してるのを聞いたんだが、今のところは問題ないみたいだ」


 何やら俺の知らない話が展開されている。そりゃそうだろうな、俺こっち来たばかりなんだから。


 そんな感じで今日も一日が終わる…。

『物語を1.3倍位楽しむための豆知識コーナー』

~ハジーサ島の歴史~(年号は創生歴)

1684年  ハジーサ島にて石炭発見

1702年  採掘のため移住

1710年  本格的な採掘開始

1720年代 炭鉱最盛期

1733年  採掘量減少

1740年  閉山・島民の流出、1745年までに島民全員を移住と国から通達

1743年  海原駆転生

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