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飛鳥徒然短編集  作者: 日陰茸
短編
1/11

誰が嫌いなんて言ったのかしら?

「お前がやったんだ!」

その言葉を聞いた時、私はあまりのショックで気を失った。最後に聞いたのはあの子が私を呼ぶ声―――


 次に目が覚めたのは私の部屋のベットの上だった。どうやら気を失った私は部屋に運ばれて休まされているらしい。ならばもうすぐ誰か様子を見に来るのかしら?


 私の名は御堂みどう 詩織しおり宝仙高等学院に通う女子学生。ちなみに御堂家次期当主でもある。家族構成は父、母、双子の姉の4人家族。姉とは一卵性双生児で顔はうり二つなのだけれど性格は真逆といってもいい。


 社交的で誰にでも愛想がよく、天真爛漫に笑う姉は誰からも愛された。対し私はほぼ無表情不愛想で本当に同じ血が流れているのかとよく陰口・・・いや真正面からいわれたものだ。ひどいのは両親も周りと同じことを私に言ったことだろうか?姉の伊織いおりは可愛いのになぜお前はそんなにも可愛くないのかとまだ幼子の私に言うのだから相当なものでしょう?


 もちろん私だって努力はしたわ。精一杯笑おうと笑顔の練習もした―引きつった笑いになって伊織に泣かれ怒られた―し、笑顔が無理なら勉学をがんばろうと努力した―私の成績はぐんぐん上がり伊織は変わらなかった。当然である―が、両親はそれは伊織への当てつけなのかと私の努力を認めようとはしてくれなかった。


 私が次期当主なのは偏に伊織が将来の夢はお嫁さんなんてふざけたことをぬかしてくれたおかげだ。両親はその言葉を聞き『つらい仕事も多い当主は詩織がやればいい、お前は好きな人のところへお嫁に行って幸せになりなさい』などとのたまった。もちろん信じていない。その好きな人とやらが優秀なら即座に婿養子としてむかえ私は当主の座から引きずり降ろされるのだろう。


 子供だった私はそれに嘆き、悲しみ、そして諦めた。周りの愛情とは姉に注がれるものであり、私に届くことはないのだと。そうした私の嘆きはやがて形を変え、ただ一人―周りの愛情を注がれる姉―に向かうこととなったのだ。


 小中と周囲に人を当たり前のように侍らせた姉、伊織と共に宝仙高等学院に進んだ時私はすっかり人間嫌いになっていた。成績が良いだけの偏屈。それが私の評価だ。外見もずっと伸ばしていた髪のせいでどこか根暗。それでいいとも思っていた。私のことを知っているのはただ一人でいい。


 伊織は宝仙に進んでも変わらなかった。やはり人をはべらせた。不味い事態になったのはその侍らせた相手が宝仙でも屈指の人気者ぞろいだったことだ。いい男をまるで家来のように侍らせるその姿は多くの女子生徒の反感を買った。


 伊織はやがていじめを受けるようになった。


 いじめを受けても伊織は屈しなかった。背筋を伸ばして笑い続けた。やがていじめも下火になりかけたころ、全校生徒が講堂に集められた。『長い間捜索し続けてついにいじめの犯人を突き止めた』生徒を集めた生徒会長と風紀委員長―もちろんどちらも伊織の周りにいた男だ―が発表した。下火になった今、今さらだろうと呆れるものの犯人は気になるのでそのまま聞き続けることにした。それがまさかあんな・・・


 ああ、思い出すだけでも腹が立つ、奴らの勝ち誇ったような顔、お前のやったことはお見通しだと言わんばかりに蔑みを浮かべていた。


「ふ、ふふふふ、あはははははは」


――ぜったいに ゆるさない


かちゃりっ


「詩織ちゃん?・・・・」


私の笑い声を聞きつけたのだろう、ドアを開けて伊織が入ってきた。


「伊織・・・」

「あ、あのね?身体・・・大丈夫?」

「ええ、びっくりさせてごめんなさい。人って怒りと驚きが大きいと意識を失うものなのね、血圧が上がったり下がったりするからかしら?」

「・・・・そ、そう・・・大丈夫ならいいの・・・うん」


 私の言葉から怒りの深さを悟ったんだろう。伊織は引きつった笑いを浮かべながらも何も言わなかった。


「伊織・・・」

「な、なに?」

「そんなに怖がらないで?伊織に何かしようとは思っていないから。ただね?確認しておかなくちゃいけないかなって思って」

「確認?」


 思ったより低い声が出たせいで伊織を怖がらせてしまった。でも仕方ない。それほど私は怒っている。


「ええ、・・・・伊織は、彼らの中に好きな人はいるのかしら?」

「えっ!?」

「だから好きな人よ、旦那様候補。お友達としてじゃないからね?」


これは非常に重要なことだ。姉を引き取ってくれる人をつぶすわけにはいかないでしょう?


「え、えっと・・・あのね?あたし・・・」


ああ、これはいるわね。誰かしら?できれば愚か者じゃないといいのだけれど、愚か者だったら躾が大変だもの。


「あたし、海斗くんのことが・・・」


 あら?これは意外だ。彼は伊織が侍らせているメンバーにはいない。ごくごく平凡な普通の男性で私のクラスメイトでもある。どこで伊織と接点を持ったのだろうか?


「海斗って私のクラスメイトよね?知り合いだったの?」

「うん、いじめられてた時にね?声をかけてくれたの。詩織ちゃんのお姉さんだよねって・・・」


 海斗とはたまに世間話をする程度だったけれど・・・それだけで私の身内だからと伊織のことを気にかけてくれたらしい。それがきっかけでときどき話をするようになり、私のことも好意的にみてくれる海斗に徐々にひかれていったとか。うん、それなら良し。彼なら合格だ。それにそれならば私は奴らに遠慮することもなくなる。


「そう、それならいいのよ?海斗はとてもいい人だし私も安心できるわ。人嫌いの私が話せるんだもの、相当な善人よ」

「詩織ちゃん・・・でもまだ告白はしてないの。迷惑がかかるんじゃないかって・・・」

「あら?迷惑ならあたしにも伊織にも話しかけないわよ。好きなら堂々と告白しちゃいなさい。他は私が片づけておくから」


 にっこりと久しぶりに微笑むと伊織は嬉しそうな顔をして私が目覚めたという報告もしてくるねと言って部屋を出て行った。海斗は倒れた私の心配もしてくれていたらしい。本当にいい人がいたものだ。


「さてと・・・それじゃあ遠慮なく掃除しちゃいましょうか・・・」


 この後の展開を考えると無表情と言われたこの顔に笑みが浮かぶのが分かる。ああ、私って本当に性格が悪い。でも仕方がないのよね?だって、私をそうしたのは周りだもの。


 どうして私が伊織をいじめるという妄想に取りつかれたのかは知らないが完全に見当違いだ。だって私は伊織を愛しているのだもの。両親にも周りにも愛を与えてもらえなかった私。そんな私に伊織だけは愛を与えてくれた。無表情で不愛想な私にも笑いかけてくれて、私の気持ちを聞いてくれた。ただ気持ちの表現が不器用なだけなんだよねと頭をなでてくれた。ただ一人、私を救ってくれた伊織。そんな誰よりも大切な姉を私がいじめる?


「なんて屈辱。誰がいじめを抑え込んだと思っているのかしら?大切な伊織がいじめにあっている間奴らは伊織を助けるどころか自分たちで牽制し合って何もしなかった。伊織を慰めたのは海斗でいじめた馬鹿を締めたのは私よ?何の役にも立たなかった屑どもがいまさら出てきたから何を言うのかと思えば私がいじめた犯人って・・・ふふふ。ああ、本当に愚か、愚か過ぎて笑いが止まらないわ」


 おそらくこの後奴らは私を断罪するためにこの部屋に来るのだろう。何を断罪できるのかは知らないけれどこちらとしても言いたいことは山ほどある。自分たちの愚かさの付けを私や伊織にかぶせた罪は重いわ。


「この後の展開を考えるとわくわくが止まらないわ。久しぶりに心の底から笑えそう。満面の笑みで迎えたら彼らは喜んでくれるかしら?だって愛しの伊織と同じ顔なんだものね、きっと喜んでくれるわ。伊織も私が笑うと喜んでくれるし一石二鳥・・いいえ、伊織に好きな人が出来たのだから今回は一隻三鳥・四鳥くらいの効果だわ」


 廊下から複数の足音が聞こえる。彼らが来たのだろう。さあおもてなしをしなければ、どうぞいらして?おバカさんたち。最高の喜劇にご招待するわ―――


かちゃり


ドアの開く音がして・・・・






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