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好きだった人が突然勇者になっちゃって、私の命を狙ってきます  作者: うさたろう
第二章、リンデグレン城と厄介な事実
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○リンデグレン城と厄介な事実:3

「……なに……これ……」

 右の手首には獣の爪のような三日月形の黒い痣、そして左手首には赤い星型の痣だ。

 大きくはないけれど、くっきりとタトゥの如く浮き出ている。

「タトゥ、校則違反なんですけどっ!」

 バッとジェイクさんへ顔を向けて訴える。

 最初に出た言葉がそれかと自分でも思ったが、女子高生には重大事項の一つだ。

 そんな私を見て、ジェイクさんはまたクスリと笑った。

「ふ、それは困りましたね」

 いやいや、また他人事のように。まぁ、他人なんだけれども。

「黒い三日月の痣は魔王候補の証です。その証が貴方に浮き上がったお蔭で、やっと凛音様を見つけ出すことが出来ました」

「……やっと?」

「先日、魔王の魂の欠片を持つ者が既に転生していると神託がありました」

「神託?」

「ま、私共の崇める神とは勿論、魔神デュクリアスですが」

 うん、戦闘ロボっぽい名前なのはツッコまずにおこう。多分通じないし。

「ですが、場所もその人物もなかなか特定出来ずにいたんです。それがやっと分かったので、先ほどお迎えに上がりました」

 ということは、やはりジェイクさん達は本当に私をここに連れて来る為に、あの草原に現れたのだ。

 そして私は旭先輩と離ればなれに――

 先輩、無事かな。あんな風にいきなり別れてしまって……。

 先輩は勇者様だし、ニコラスさん達の様子からすると、きっと大切にされてるだろうとは思う。でも、記憶を失くしてしまっていたのが心配だ。

「それから、赤い星型の痣は人間界、つまり凛音様の世界との繋がりを示します」

 まさかジェイクさんの口から『人間界』などという言葉が出るとは思わず驚く。

 だったら、話は早い。

「人間界!? 分かるんですか? 私がどこから来たとか」

「こちらの世界では、私共にとっての異世界である『人間界』を把握していますよ」

「私、人間界に帰りたいんですけどっ!」

 上半身をグイとジェイクさんの方へ回転させ、身を乗り出す勢いで意志を伝える。

「ああ、はい。それは困りましたね」

 が、ジェイクさんはまたにっこりと笑って流す。

 しかも私がそう言うだろうと察していた顔で、口だけ調子を合わせているのが丸分かりだ。

 むー、他人ごとだと思って~! いや、彼にとっては他人ごとなんだけども。

「私としては、凛音様に魔王になって頂きたいのです」

 ジェイクさんはベッド脇に垂れるカバーの端をなんとなく整えながら答える。

 几帳面というよりも、そうしながら自分の心の中を整理しているようにも感じた。

「私にって……?」

「凛音様の他にも魔王候補者は三人おられます」

 そうだった。私はあくまでも『魔王候補』なんだ。

「あの、だったら! 私、魔王候補は辞退させて頂く訳には……?」

「それは、私におっしゃられても困ります。神託は『デュクリアスの鏡』によって告げられますので」

 何かにつけて小難しいキーワードが出て来るのが困る。

 話が全然進まないし、分からないことが増える一方だ。

「えーと、デュ、デュクなんとかの鏡……というのは?」

「デュクリアスの鏡や、他の三人の魔王候補については、後ほど改めてご紹介致しますね」

 そうやってどんどん深みに嵌っていくのが怖い。

 私には魔王なんて出来るとも思えないし、なる気もないし。

 大体、私が魔王になんて、そんな――

 あ、ちょっとまって。私、今、重大なことに気付いちゃった。

 旭先輩は勇者。で、勇者って……基本的に魔王を倒す人じゃなかったっけ?

「あのー、私と一緒にいた人のことなんですが……」

「旭駿馬。勇者の生まれ変わりですね」

 ピタリと手の動きを止めたジェイクさんの顔にうっすらと影が差す。

「そうみたいなんです……。ジェイクさんもご存知でしたか?」

「はい、情報はそれなりに。同じ学園に通っていて、貴方の先輩に当たる人なのですよね?」

「そうなんです。それで、旭先輩は――」

「残念ながら、彼は私共の最大の敵となります」

 ジェイクさんは少し神妙な面持ちになってスッと睫毛を伏せた。

「…………敵」

 ああ、やっぱり~~~~~~~~。

「じゃあ、もし私が……魔王になったら……?」

「勇者の最終目的とは魔王を滅ぼすこと。つまり鈴音様は魔王候補ですから、旭駿馬に命を狙われる立場となりますね」

 何かを吹っ切ったように、顔を上げたジェイクさんがまたにっこりと微笑む。

 いや~~~~~~~~~~っ!


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