○契約魔法と召喚魔法:4
「まず、契約魔法を使えること、次に召喚魔法を扱えること、それと今のお前が唯一使える攻撃魔法である空気弾の強さを調整出来ること。この三つだ」
ディオンは親指と人差し指、そして中指を順に立てて見せる。
力強く開かれた彼の指は節ばっていて屈強そうなのに、しなやかでもありスラリと長い。
「モンスターと契約を結ぶには、相手の動きを止めなきゃならねー。普通の場合は、モンスターも精霊も大抵はじっとしてねーからな」
「じっとしてる場合もあるんですか?」
「ごく稀にな。モンスターの場合は、俺達から魔力を得られると食い物の代わりになるから自分で狩りをする必要が無くなるし。まぁ、それでも好んで狩りをするヤツもいるけど。精霊の場合は、気まぐれで契約を結びたがるヤツもいる。とはいえ普通は、そう簡単にはいかない」
ディオンの話をライアンとルディも隣合わせに並んで聞いている。
「とにかくだ。相手の動きを止めるには、相手を打ち負かすしかない。精霊は交渉出来るケースもあるけど、モンスターとは対話は難しいからな」
だとすればオーフェスもそうだったのかと、ルディの後方にいるジェイクへ目を向ける。
「ジェイクは、オーフェスと戦ったんですか?」
「エルクフェンは利口ですし、私の場合は交渉で」
へー、交渉とかも出来るんだー。
「「バカ、お前には無理だぞ」」
心の中で思っただけで、すかさずライアンとルディが同時に指摘して来た。
寸分違わず声が揃ったことに二人は少し驚いて顔を見合わせたが、お互いで『だよね』的に目で意思疎通して、悪びれもせずまた私へと同時に目線を戻す。
相変わらず、この王子達は……。
「ジェイクは特殊なんだ。ベースは魔力なんだろうけど、そういった特殊効果を持ってるらしい」
ライアンが話を継ぐと、ジェイクは「定かではありませんが」とにっこりと微笑んだ。
なんだかんだで、ジェイクも結構凄い人だ。
「ま、ジェイクみたいにそういった特殊能力がない限りは、やっぱ多少の戦闘は必要」
ディオンが説明を続ける。
「で、お前の場合は空気弾が武器になるわけだが、強さを調節できねーとダメだ」
「強さ?」
「強過ぎると相手が死ぬだろ。気絶させるレベルでいい」
「気絶させるだけ……」
「その後に契約魔法だ。大物が相手だと結構な死闘になるけど、ケガを負わせても契約を結べば、相手の傷はこっちの魔力を与えることですぐに治癒してやれる」
ほー、なんとなく上手く出来てるわけですね。
などと感心している場合じゃない。
『死闘』とか、怖いこと言ってるよ……。
「じゃ、まずは空気弾の威力コントロールからだ。その後、契約魔法と召喚魔法の練習だな」
ディオンは随分簡単に話を進めるけれど、こっちは不安で一杯だ。
「コントロールとか、そんな色んな魔法……私に出来るんでしょうか?
「そう難しくない。気持ちの持ちようだから」
いやいや、そんな安易な。ディオンって前向き過ぎというか大雑把というか……。
そこでライアンが「でもさ」と口を開く。
「契約魔法は練習できても、召喚魔法は肝心の『召喚するモンスター』を持ってなきゃできないけど?」
「うーん、問題はそこなんだよなぁ」
ディオンが腕組みをして小首を傾げると、ルディがにんまりと悪戯っこばりの笑顔を見せる。
「凛音の練習用だったら、虫でいいんじゃない? 花壇のその辺になんかいるでしょ」
虫っ!? 最初の契約相手が虫!? ルディってば、またなんてこと言うかなっ!?
いやー、なんか、虫は嫌だなぁ……あ、でも蝶とかならいいか……。
て、やっぱ、なんかちが―――――――うっ!
でも自分の実力を顧みれば、そう偉そうなことも口には出来ない。
ディオンとライアンとルディは、またもや三人であーだこーだと議論を始めた。
当人だというのに今回も蚊帳の外になった私は、ふといつまでもジェイクがこっちに来ないのを不思議に思い、彼の方を覗いてみる。
するとオーフェスがジェイクの足の上に半分身体を乗せて気持ち良さそうに寝ていて、そのせいでジェイクは動けなかったらしい。
か、かわいい~~~~。ジェイクもオーフェスも~~~~~。
契約するなら、いざという時には強くて、でも普段はあんな風に可愛いのがいいよねー。
そう思ったら、つい嬉々として誰へともなしに口走ってしまった。
「あのっ! 私もいずれ強いモンスターや精霊と契約出来たら、オーフェスみたいな猫に擬態する使い魔とか持てたりしますよね!?」
しかしそのコメントに、三王子は一斉に私の頭へと目を向ける。
「お前……自分が猫なのに、なんで猫欲しいの?」
彼らを代表してそう答えたライアンの視線は、しっかりと私の猫耳を捕らえていた。




