○ローストモンスター:5
マジ辛いっ! なぜにこれだけ!?
「おみずっ! おみずくださいっ! たくさん!」
給仕さんがその印象通りに颯爽とやって来て、テーブルへ背高いグラスをゴンゴンゴンと三つ置くと端から順になみなみと水を注いでいき、それを私が端からごくごくごくと飲んでいく。
飲んだ傍から汗がだらだらと流れ出た。
「だ、大丈夫ですか!? 凛音様!」
さほど物事に動じないジェイクも、さすがに少し慌てた様子で、また私の背中を撫でてくれる。
私はまたもや、うんうんうんと三度頷いた。
微量だったので前回よりは随分マシだが、お肉が触れたであろう舌のところどころがピリピリと痺れている。
「わー、本当みたいだねー」
「だなー」
「そうらしい」
なのにこっちの気も知らず、三王子は呑気なコメントをしている。
「うーん、これはもしかしたら、後遺症みたいなものかもしれませんね」
「こ、こうひひょお?」
舌を出しながら訊き返したので妙な発音になってしまったが、ジェイクが眉尻を少し下げてクスリと笑ったので意味は通じたようだ。
「人間界で暮らしていた為に耐性が出来ていなくて、アレルギーみたいなものを起こしているという感じでしょうか」
……アレルギー?
そうなのだろうかと、王子達の方を何気に確認すると、ライアンが腑に落ちないという顔で口を開いた。
「でもジェイクは、『凛音の魂だけがこの世界に召喚されて、身体はこの世界で構築されたものだ』って言ってなかったっけ?」
ああ、そうだった……。こんな時にそれを思い出しちゃった。
だからもう一人の私は、今も人間界で暮らしてて、お母さんもお父さんも友達も皆、何事もなかったように普通に暮らしてるんだよね。
皆に心配掛けなくて良かったとは思うんだけど、私自身は結構切ないんだよね……。
う~~~~~~~~っ。
「文献によるとそうらしいのですが、肉体は魂の影響を受けている訳ですから」
「じゃあ、凛音には稀にそういったアレルギーが起こる可能性があるんだ?」
ほんのり顔を曇らせたルディがジェイクへそう確認をする。
どうやらルディなりに、私を気にしてくれているようだ。
「詳しくお調べしてみないと分かりませんが。おそらく、そうではないかと……」
「凛音、辛い以外はなんともないのか?」
ディオンが不安げな表情を隠さずそう問い掛けて来ると、隣にいるライアンも『自分もそれが知りたい』といった神妙な面持ちで私を見据えた。
「はい……辛さが収まれば。多少舌がピリピリしてる程度で」
ディオンとライアンは二人同時にほぅと息をつく。
わ、ちょっと感動だ……。皆、私のことを心配してくれてるんだね……。
と、思った矢先――
「なら、そう問題ないよね」
「だな、辛いだけだし」
「うん、だよね。大したことじゃないでしょ」
ライアン、ディオン、ルディ。三王子はまたそれぞれに、またお気楽コメントを口にする。
「今後は、少々味見をしてから沢山召し上がって下さいね。凛音様」
その上やんわりと腹黒さが垣間見えるにっこり笑顔のジェイクは、私の魔力安定を目指すべく殊更に前向きだった。




