○リンデグレン城と厄介な事実:1
――目が覚めると、知らない天井だった。
なんて、どこか聞いたセリフが浮かんだけれど、今間違いなく私の目前には知らない天井が広がっているわけで。
……豪華だなぁ。ヨーロピアン調だよね。
アンティークホワイトの枠の端が二重になってて金箔のラインが入ってるし、真ん中はキルティング調で……。
あ、そうか。これって、天井じゃなくて天蓋ってヤツだ。白いシースルーのカーテンが付いてるもんね。
天蓋付のベッド、憧れてたんだぁ。一回寝てみたいなぁって――
「っていうか! ここどこっ!?」
勢い良くカバッと起き上がると、天蓋なんて比じゃないくらいにここは豪華絢爛な部屋だった。
ベッドで上半身だけ起こした状態で、目の前に広がる空間を呆気に取られて眺める。
壁も天井も家具も全て白亜ベースのロココ調で、所々にナチュラルウッドの調度品も添えられているのでシックな印象も残している。
家具や装飾品のセンスは素晴らしく、どれも全部高そうで、『もし壊しても弁償とか出来ないからうかつに触れないよ』的なヤツばかりだ。
ひと言で表すなら、超一流ホテル仕様とでもいうべきか。
いや、泊まったことはないんだけど、テレビとかで見たのがこんな感じだった。
……で、なんなのこの部屋? なんで、私はこんなところに――
そこで違和感にハッとして、自分の服を確かめる。
ぎゃっ!? なんかピンクのバスローブみたいの着てるし!?
なんでなんでなんで! まさかまさかまさか!
まったくなにもおぼえてない~~~~~~~~っ!
「ああ、お目覚めですね」
結構近い場所から声がして心臓が飛び出すほど驚いた。
こわごわその声の方へ目を向ければ、手前のソファに野原で私の腕をがっしり掴んでいた赤茶髪の人が腰掛けている。
彼は古い羊皮紙を眺めていたらしく、それをソファの空いた場所へ置くとおもむろに立ち上がってこちらへと歩み寄って来る。
もう、こっちは大パニックだ。
えーと、えーと、えーと、えーと、えーとっ! 私はどうしたんだけっけか~~!?
火柱に襲われて、先輩に抱っこして貰って、豪風に煽られて、それから水浸しに――
とにかくお粗末ながらも防衛反応的に、自分の腰まで掛かっていたベッドカバーを両手で胸元まで引き上げた。
「服が濡れてしまいましたので、お着替えをさせて頂きましたよ」
「きっ! き……き、着替え……って?」
意味もなくカバーで胸元をきゅっと抑えて、ベッド脇に立った彼を下斜めの角度から見上げる。まっすぐに見る勇気がないからだ。
「もちろん、女性のメイドに頼みましたよ」
私の考えなど簡単に読み取ったのか、彼は的確な一言を放ってにっこりと笑顔を見せた。
赤みの強い茶色の髪はとても繊細で柔らかそうで、この人の雰囲気にとても合っている。瞳は深い海を思わせるようなエメラルドグリーン、柔和で端正な顔立ち。背が高くて均整のとれた肢体。
とっても、大人っぽくて、優しそうでカッコイイ……。
いや、だめだめ! ちがうちがう! しっかりしろ、私!
イケメンが全て『正義』に見えるのは困りものだ。
なんたって、私はさっきこの人達に殺されかけたんだった!
「移動魔法が今の貴方にはご負担が大きかったようなんです。既に疲れておられたでしょうし。城へ着くなり気を失ってしまわれました」
彼は両手を身体の前で軽く組んで話を続ける。身に着けている衣装はさっき見たのと同じ青ベースのものだ。
「し……しろ……?」
「ここは、リンデグレン城。つまり、魔王城です」