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○ローストモンスター:3

 

 そうだった……。ジェイクって、ちょっと腹黒の気があるんだった。

 決してディオンが悪い訳ではないのだが、思わず恨めしくなって彼の方を見ると、ディオンは苦笑いしながらうなじを撫でている。

「でしたら、全種類を少しずつ取り分けて差し上げて下さい」

 私には決められないだろうと悟ったのか、ジェイクが宅配便風のお兄さん達にそう促す。

 お兄さん達は私のプレートへサイドディッシュのポテトやニンジンなどの温野菜と共に、薄切りのお肉を薔薇の形に盛り付けてくれた。

 うーん、見た目が芸術品。そして、おいしそう。

 お行儀悪くもお皿の両端でフォークとナイフを立てて握り締め、モンスター肉の薔薇を凝視する。

 実際、私はモンスターもおいしいと知っているのだ。

 そうであるなら、大して好き嫌いのない私には避ける理由もそうない。

 単にイメージの問題なのだ。最初のスライムの色が強烈だったから気後れしているだけだと思う。

 周りを見ると、皆も私と同じように全部を盛りつけて貰い、ごく普通に食べ出した。

 特に変わった様子もないのをきちんと確認して、ようやく私も一番手前のローストポークかと思っていたお肉を少し切り取って口にする。

「○&×△◆◎□#~~~~~~~っ!」

 ビリリッと激しく口の中が痺れて、音にもならない悲鳴を上げる。

 一瞬にしてバッと全身が熱くなった。

 ――ヴォン!

 刹那、前回の晩餐会と同じように、いきなり魔法陣が目前に浮かび上がる。

「「「バカ! 魔法陣、ひっこめろっ!」」」

 驚いて立ち上がった三王子達の見事な『バカ発言三重奏』にツッコむ余裕すらない。

 きゅっと目を閉じ身体の奥に燻った熱の塊を押さえつけるイメージをする。

 ――と、次に目を開けた時にはなんとか魔法陣は消えていた。

 しかし安堵する余裕など欠片もなく、私は傍のグラスをガシリと鷲掴んで、砂漠で遭難した人並みの勢いでグイと水を煽った。

 周りで「ふ~~~」と全員が息をついたのが聞こえたが、こっちはまだそれを気にしている場合じゃない。

「か、から~~~~~~~~~~~いっ!」

 犬が全力疾走した後のように舌を出して、ハッハッハッと息をする。

 辛いと口にしたが、味より痛みの方が強く、全身の血液が逆流してもおかしくない勢いだ。

 しかしテーブルの向こうに並ぶライアンもディオンもルディも、ただきょとんとしているだけだ。

「大丈夫ですか? 凛音様」

 背中をさすってくれるジェイクにうんうんうんと頷きながら、給仕さんがお代わりを入れてくれたお水をまたごくごくごくと飲む。

「どれ食った、凛音?」

 ディオンにそう訊かれてもまだ声がでないので、自分のお皿に乗っている白っぽいお肉をビシリと指差す。

「それ、ダルドロマロリンじゃない」

 ルディがテーブルの上に両手を突いて身を乗り出し、私のお皿を覗き込む。

「辛くないだろ。ダルドロマロリンなんて……」

「ぜーんぜん、辛くない」

「辛くないな」

「どちらかというと、淡泊な味ですよね」

 誰しもが私とは真逆の意見だ。

「か、辛いですよ! すごくっ!」

 まさかと驚き、やっとの思いで声を出した。

 それでも皆はまだ、『なにが?』と全く理解出来ないといった顔だ。

「ちょっと、失礼しますね」

 ジェイクが私のお皿を持ち上げ、私が一部を切り取ったダルドロなんとかを、指で少し引き千切って口へ入れた。


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