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○リュレイナ神殿:7

 バルコニーでの食事を満喫した後、お母さんのお見送りをライアンが断ったので、さっき通って来たホールをまた二人で肩を並べて出口へと歩いていた。 

「すっごく綺麗なお母さんですね!」

 本人を前にして口に出来なかったことを、やっとライアンへ告げる。彼は素の表情だけれど、素早い反応で私へ顔を向けた。

「……そう?」

「お母さん、何歳ですか?」

「えーと……三十七歳か」

「え! 見えない! 全然見えない!」

「巫女だからな。神に仕える者は歳取らないっていうし……」

「えぇっ! そうなんですか!?」

「……バカ、言い伝えだって」

 定番の呆れ顔に、歯に衣着せぬ『バカ』発言。ライアンはもうすっかり付条運転だ。

「まぁ、でも実際に、魔族の土地を護る結界を張るのに魔力をかなり使ってて……そういうのも少なからず関係あるんだと思う」

 彼は急に神妙な面持ちになって、元より低めの声がもっと沈む。

「そのせいか、昔から身体も弱くて――」

 ライアンは、そこで言葉を切った。

 ああ、だからなんだ。ライアンがあんなにお母さんに優しいのは。

 彼が全部を言わなくても、お母さんの身体を心配しているんだと、私にも分かった。

 お母さんはその貴重な魔力を私の為に使ってくれて、ライアンもわざわざ私の為にここへ連れて来てくれたんだ。

 出来れば私は、魔王にはなりたくない。選ばれなければいいのにと思ってる。

 でも今の自分が求められてることや出来ることがあるのなら、一生懸命やらなきゃいけない。きっと。

 旭先輩と一緒に人間界に戻ること、この世界の人間チームの人達と仲良く出来ること、それは私の願いだけれど、叶える方法はこれから探さなきゃいけない。

 それにはきっと他の人の助けも必要だろう。

 だったら私も、皆の為に少しは役立つ人間――もとい、魔族にならなくちゃ。

 でも、できるだけ人間チームと敵対しないように! これ大事!

 そう心に決めた私は、まだ無言のままで自分の歩く少し先の床を見つめているライアンの顔をそっと覗き込む。

「ライアンのお母さん、とても素敵な人でした。私、大好きになっちゃいました」

 するとライアンは一瞬だけまたお母さん似た驚いた顔で目を見張り、その後すぐとても嬉しそうに笑った。


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