○リュレイナ神殿:6
「あの、これって……お魚ですよね?」
お母さんに気を遣わせないようにと、隣のライアンに少し身を寄せて小声で確認する。
「他に何に見える?」
けれどライアンの方は通常音量で、いつもの如くクールに応じた。
「いえ、モンスターじゃないのかなぁとか……」
「普通の魚だ」
ライアンはもう視線を自分のお皿へと戻して端的に答え、切り分けた魚を口へと運ぶ。
彼の無愛想さにも、もうだいぶ慣れた。
それより、お魚が普通の物だと聞いて安心する。
ディオンに勧められたのでモンスターも食べるつもりではいるけれど、そうすぐにはホイホイと食べていけない。
とにかくちょっとホッとして私もひと切れ口にすれば、その味に感激する。
おいし~~~~~~~~っ! これ!
淡泊な味わいの中にもしっかりと旨みがあり、あっさりしながらに濃厚な味わい。パリパリに焼かれた皮の下辺りの脂身がまったりとしていて、仄かな香草の風味にピリッとするスパイスが絶妙だ。
サバの味噌煮もサンマの塩焼きも鮭のレモンバターソテーも大好きだ。
でも、これもすっごくおいしい! などと表現するのは失礼か。
しかし、ふと前のお母さんのお皿を見て、中身が違うことに気づいた。
お魚ではなく、黄色とオレンジ、そして緑色の長四角で平べったいものが乗っている。
フルーツだろうか。焦げ目がついているのでグルリされたものらしい。
「フィミア様は、お魚はお嫌いですか?」
率直に質問を投げ掛けると、彼女はこちらへとあの大きな瞳を向ける。
「わたくしは、お魚やお肉は口に致しません。巫女ですので」
恐らく、お坊さんが精進料理を食すのと似たようなものなのだろう。
今更気づいて、後ろめたさを感じる。
「そうなのですね、すみません。フィミア様の前で、お魚を頂いてしまって」
「いいえ、わたしくは、このお料理が大好きですので」
「フルーツですか?」
「はい。こちらの黄いのとオレンジのものは果物で、こちらの緑色のものは野菜と果物の間くらいのものです」
緑色のものはサボテンステーキ風だ。食べたことはないけれどテレビで見た。なかなか美味らしい。
果物もソテーすると甘みが増すと聞くし、私は酢豚のパイナップルについても肯定派だ。
「おいしそうですね」
「あ、申し訳ございません! よろしければ凛音様にもいますぐお作りさせますが?」
お母さんがハッとしたように目を見開く。大きな瞳がさらに大きく見えて、いまにも零れ落ちそうだ。
「いえ! 私もお魚がとてもおいしいので、これで充分です!」
こちらも慌ててそう返すと、お母さんはホッと息をついてほんわか微笑んだ。
本当に若く見えるなー。とてもライアンのお母さんとは思えない。
そう思いつつライアンの方を見るとバッタリと目が合い、珍しく驚いたのか彼は大きく目を見開いた。
あ、その目の感じは今さっきのお母さんに似てる。
その上、私とお母さんの様子を見て微笑みでも浮かべていたようで、口元が緩んだままの余韻を残していた。
そのことに自分でも気づいたのか、彼はほんのり頬を赤らめて唇を引き締め、スイと視線を自分の手元へ落とした。
ライアンって人の見てない時とかに、微笑んでるんだね。




