○リュレイナ神殿:5
目の前には、ハーブとナッツのサラダが置かれている。
こんなに自然溢れる場所だからオーガニックなのかなーなどと思い、いやこの世界なら全部がオーガニックなのかもと、一人でぐるぐる考えた。
「ドレッシング、どっち?」
隣の席のライアンが、テーブルの真ん中に二つ置かれていたドレッシングピッチャーの片方を手に取りながら訊く。
てっきりお母さんの隣に座るのかと思っていたけれど、彼は私の隣の椅子を選んでいた。
「それ、何味ですか?」
「リスレッド味」
「……じゃ、もう一つのは?」
「カーラルゴール味」
……わかりませんよ、さっぱり。
ライアンは素の表情を装っているけれど、ほんのり笑っている気がする。
それはあれですか。私が分からないのを承知で、わざとなんですね。
「ライアン、凛音様は人間界のお方なのでしょう。こちらにしかない食べ物はお分りにならないのでは?」
私の戸惑った様子を見越して、お母さんが助言してくれる。
本当、お母さんは良い人だぁ。
なのに、なぜ息子さんはこんな感じなの?
「リスレッドは、野苺の一種です。カーラルゴールはオレンジより少し甘い果物です。人間界にも野苺やオレンジはございましたか?」
「あ、はい! ありました!」
即答すると、お母さんはたおやかに微笑む。
あー、なんて親切丁寧で素敵な人!
そりゃ、ライアンもお母さんには甘くなるよねー。
「で、どっち?」
ライアンはまだ『リスレッド』とやらの方のピッチャーを手に持って待っていた。
『早く決めろ』と彼の目は訴えているが、こんなに時間が掛かるのはそもそも自分の意地悪のせいだと気づいて頂きたい。
「じゃ、リスレッド味で」
私が答えると、ライアンはピッチャーを私のサラダの上に持って来て、ドレッシングをとても丁寧にまんべんなく回しかけてくれた。
「これでいい?」
「はい……ありがとうございます」
なぜ、意地悪したり、優しくしたり?
ルディもかなりの意地悪だ。ディオンは思ったほどでもないみたいだけど。
それって、やっぱり兄弟だからかな?
だとすると、お母さんが違うんだから、お父さん似ってことになるよね。
そういえば、魔王って封印されてるんだっけ。『亡くなった』わけではないんだよね。
一体、どういうこと?
とはいえ、元奥さん(のはず)の前で、そんな話題を持ち出すわけにもいかない。
またその内、ジェイクにでも聞けばいいか。
自分の考えごとに決着をつけて、白いお皿に乗るグリーンをひと口頬張ってみれば、サラダもドレッシングも絶品だった。
ここに来てから食べた物って、おいしい物ばかりだ。
いや、食べられなかったスライムとかの、味はわかんなかったけど。
リンデグレン城での食事も含めて、勿論調理も素材も抜群だからだろうけれど、この世界の食物は人間界に比べておいしいような気がする。
だって、自然が一杯で空気も澄んでいて……。
だからと言って人間界に帰りたい気持ちは消えないけれど、この世界にはこの世界の良さがあると気づき始めている。
住めば都とはよく言ったものだ。食べ物がおいしいからって、絆される私も単純だけれど。
次に運ばれてきたのはお魚料理だった。白身の切り身でスズキっぽい。
水辺でお魚料理! これ、最高の贅沢だね!
あ、しかし――




