○リュレイナ神殿:3
ライアンから説明を聞いたお母さんは、私とライアンを例の青い噴水前へと連れて行ってくれた。これが『星見の器』なのだという。
「凛音様は、こちらへ」
お母さんに言われた通り、器に向き合い姿勢を正して正座する。
青いフロアラグは結構ふわふわで気持ちいい。
私に寄り添うようにお母さんが座り、ライアンは私を挟んだ反対隣のやや距離を空けた位置で腰の帯剣を外し、私と同じように正座して剣を自分の横へ置いた。
へー、異世界の人でも正座するんだね。人間界でも、欧米ではしないらしいのに。
いえ、今はそれどころではなく。なんだかものものしくなってきましたよ……。
器の中には八分目ほどに水が蓄えられていて中央には小さな塔があり、その先端から水が沸いてまた器へと水を返している。構造的にも普通の噴水と良く似ていると思う。
ただ器の底には細かい不揃いのビーズのような石粒が一面に沈んでいた。
色は白や青系が多いものの赤やピンク、紫、黄色と種類は多く、光の反射でチカチカとそれぞれが輝く。まるで空気の澄んだ夜空に光る星の様相だ。
じゃあ、星見の『星』って、この石のことか……。
「凛音様、どうぞお気を楽にしてお待ち下さいませ」
「は、はいっ!」
お母さんに声を掛けられ思わず緊張してしまい、既にピンと伸ばして背を、更にピンと伸ばしてしまった。
『気を楽にしろ』と言われているのに、これでは反対だ……。
ふと視線を感じて目の端でライアンの方を覗くと、また『呆れた』といわんばかりの半目でこちらを見ていた。
なぜお母さんにはあんなに優しいのに、私にはその態度なのか。
「それでは、はじめます」
お母さんはそう宣言した後、すっと目を閉じ両腕を開いて頭上へと掲げた。
すると、フォン、と噴水と同じサイズの魔法陣が、噴水の真上へ水平に浮かび上がる。
ライアンの操るものより幾ばくか薄い青色をした魔法陣は、ゆっくりと回転を初めて明滅し出した。
わー、やっぱりライアンのお母さんも魔法が使えるんだねぇ。
不意に魔法陣はスイと垂直に下がり、噴水全体と自身をぴったりと重ね合わせると、スッと水へ吸い込まれるようにして消える。
途端に水面がパァアと白く発光し、それが収まると、光りを取り込んだままの水だけが残った。
微かに揺れる水は澄んでいたはずなのに、今は白い光で一杯に満たされていて底のビーズも見えないほどだ。
「凛音様、どうぞ片手を水に浸してください」
「片手……み、右ですか!? それとも、左を?」
急に言われてオロオロしてしまい、右手と左手を交互に出したり引っ込めたりする。
「どちらでも」
ふんわりと微笑むお母さん。
なんて、優しい人……。
また隣から視線を感じてチラリとライアンを見ると、『バーカ』と声を出さずに口だけを動かした。
なんて、優しくない人……。
「じゃあ、右手でいきます」
「はい」
そっと右手を伸ばして光った水へと手をつける。
ひんやりとした中に、ほんのわずかにチリリとする痺れを感じた。
――ブオン!
刹那、弦が震えるような振動と低音を響かせて、水が一瞬にして濃い藍色に染まった。




