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好きだった人が突然勇者になっちゃって、私の命を狙ってきます  作者: うさたろう
第一章、先輩と異世界に来たけど拉致られました
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○先輩と異世界に来たけど拉致られました:5

「きゃっ!?」

 あまりの強風に煽られて先輩諸共足が地面を離れ、ふわっと身体が宙へ浮かぶ。

 風に巻かれて視界が阻まれる中、少し先に立つ銀髪の男が操る青い魔法陣から、この風が湧き起っているのが垣間見えた。

 彼らは明らかに、私達を狙って攻撃して来ている。

 ――ドサッ!

 数メートル吹き飛ばされて地面に転がった。

 が、思ったほどの衝撃も痛みもないのは、旭先輩が私を抱きかかえてクッションになってくれたからだ。

「先輩っ! 大丈夫ですか!?」

 下敷きになってくれていた先輩の上から慌てて身体を下ろすと、先輩は少し痛そうに片目だけしかめて微笑み、「大丈夫、キミは?」と上半身を起こした。

 こんな時でも他人への気遣いを忘れない旭先輩は素敵過ぎる。

「もしかして、俺が狙われてるのかな? だったら、キミは俺とは離れていた方が安全かも――」

「駿馬様――――――――っ!」

 先輩が話し出したところへ、ニコラスさんが血相を変えて駆け寄って来る。

 そのニコラスさんの後方では、またもやあの銀髪の男が冷淡な面持ちでこちらへ右掌を掲げ直し、新しい魔法陣を呼び出した。

「ニコラスさん! あぶないっ!」

 叫ぶや否や魔法陣から水しぶきが噴き出し、一気に大波となって押し寄せて来る。

「――っ!?」

 一拍の間もなく身体は波に巻かれて、上も下もなくなる。

 もうダメ、溺れるっ!

 ――と、思うほどでもなく、案外あっさりと水は引いた。

「ごほっ……ごほごほっ」

 とはいえ、水を飲んでしまい咳き込んだ。しょっぱくなかったから真水らしい。

 私は芝に両手両膝を突いた状態で、咳を治めながら息を整える。

 髪や制服からバシャバシャと滝のように滴り落ちる大量の水。

 もう、濡れたとかそんなレベルじゃない。

 はっ! 先輩は!?

 ハタと横手に目を向けると少し先に先輩とニコラスさんがいて、二人とも無事なようだ。

 私と同じく息を整えた後、先輩が心配げな顔をツイとこちらへ上げて目が合う。

「せんぱ――」

「この方は私共の客人です。返して頂きましょう」

 けれどそこで唐突に、グッと二の腕を掴まれた。

「……え?」

 嫌な予感がして、というか、ほぼ確信して――

 ゆっくりと振り返ると、赤茶髪の男が笑顔でガッシリと私の腕を掴んでいた。

「では、行きましょう」

「え、な、え、え、え……?」

 あまりの緊急事態に声すら出ない。

 しかし、有無を言わせず引き立たされた。

 気づけば傍には最初に見た大きな魔法陣が浮いていて、その両脇には黒髪と銀髪の男が、私をそこへ迎え入れようと準備万端の状態だった。

「待てっ!」

 駆け寄ろうとし先輩の腕を、ニコラスさんがとっさに掴んで引き止める。

「なりません! 駿馬様っ! あの女も恐らく魔族です!」

 ――え? 今……なんて言ったの、ニコラスさん?

「そちらのご説明はのちほど、ゆっくりと」

 私の左腕に自分の両腕を絡めた赤茶髪の男が、まるで私の内心を読み取ったように言う。

 そうしておよそこの場に似つかわしくないふわりとした笑顔を見せた彼は、私を連れて魔法陣へと歩を進める。

 恐怖と混乱で身体が硬直して動けず、ただ引き摺られていくしかない。

 私と赤茶髪男の両脇を黒髪と銀髪の男に固められて、金色の魔法陣へ吸い込まれるきわに、やっと先輩へと振り返った。

 ――旭先輩

 声は出なかった。

 瞬時に金色の光に包まれて、もう何の音も聞こえない。

 でも旭先輩が酷く哀しそうな瞳でこちらへ向かった何か叫んでいる顔が一瞬見えて、それもやがて金の光に掻き消され、あとは色も失い、私の世界は真っ暗になった。


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