○魔力の特性とライアンと:7
「な、なにすんのっ!」
昨日のサロンでのこともあったので余計に驚き、反射的に自分が飛び跳ねる勢いでライアンの胸を手でグンと押し返した。
ぐらり、と、当然の如く身体が傾いて背中から崩れ落ちる。
「ぎゃあ――――――っ!」
あわやのところで、背中をガシッと支えられ、ゆっくりと引き上げられた。
まだ少し身体が傾いた状態で目を上げれば、ライアンが『満面の呆れ顔』で私を見下ろしている。
「お前、バカだな。マジで」
はい……おそらくバカです。もう言い返す余地もありません。
その後ライアンの胸にしっかりと抱き込んで貰い、ようやく馬も進み出した。
正面の門まで来ると、門番の騎士達が鉄で出来た大扉を開けてくれる。
上部を頑丈な鎖で繋がれた開閉式の扉がギリギリと鉄が軋む音を鳴らしながら下ろされると、お城の周りが堀になっているのが見えて来て、扉そのものが橋となり向こう岸へと掛かった。
「行ってらっしゃいませ」
騎士達が頭を垂れる中を、ライアンは澄ました顔で通り抜ける。
実は彼が小声で「うん」と零していたのが、私にだけは聞こえた。
もっと門番さん達に聞こえるように言ってあげればいいのに……。
多分、ライアンっていつもこんな風で、無駄に周りから冷たいとか思われてそうだ。
まぁ、私もそう思っていた口なんだけども。
リンデグレン城は、多くの城が防衛の一環としてそうするらしいのと同じで小高い土地に建てられていて、周りは木々が密集した絶壁になっており、急こう配の一本道が城下へと伸びている。
幾分進むと浅い森に入ったけれど、道は確保されていて馬はカポカポと緩やかに進んでいた。
硬い鞍にはなかなか馴染めず早くもお尻が痛くなってきたのだけれど、だからといってどうしようもないので我慢だ。
それよりも気になるのは、ライアンとの異常な密着度だ。
さっき私が落ちかけたので、ライアンは片手で手綱を持ち、もう片方の腕を私の身体にぐるりと回して背中を手で押さえている。
鞍が狭いのや傾斜が真ん中寄りなのも手伝って、私はライアンへ背もたれ級に身体を預ける形になっている。
せめてこのささやかな胸がダイレクトに彼の胸へ当たらないようにと、片腕を間に挟み込んだのだが、もう自分の体重を支え過ぎた腕はダルダルでジンジンだ。
こういうのって、普通は恋人同士しかやらないよね。
知らなかった……。馬の二人乗りって、とんだ無法地帯だよ!
こんなに男の人と密着したことないんですけど~~~~!
「お前さ、なんでそんなに硬くなってんの?」
私がずっとピキーンと身を硬くしていたのを、ライアンも気づいたらしい。
「い、いえ~~、なんでも~~」
緊張しすぎてテンションがおかしくなっていて、声もうわずってしまう。
そんな私をしばし見下ろしたライアンは昨晩のサロンの時と同じように、ふっと笑った。
「ああ、意識してるんだ? 俺のこと」
「な、な、な――」
あまりの直球なセリフにこっちは言葉も出せず、ただ口をぱくぱくさせる。
「なんだ。だったら、昨日素直に一緒に風呂へ入れば良かったのに?」
ああ、もう! なんでそんなことを平気で言うかな、この人は~~~~!




