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○魔力の特性とライアンと:6

 ライアンの提案で、彼の母親がいるリュレイナ神殿へと向かう事になった。

 ライアン達三王子が魔王候補として選出されたのがひと月ほど前で、子供だった頃を除いてのそれまではライアンも住んでいた場所である。

 まぁいわば、ライアンの実家みたいなものだろう。


「ライアン、まだかな~」

 彼に誘導されて、このリンデグレン城の最前に建つ塔の左側にある庭園に来ていた。

 ライアン曰く、右側へ回れば騎士団広場があるのだそうだ。

 けれどライアンはジェイクとディオンがいるであろうそこには顔を出さず、通路ですれ違った騎士を捕まえて、『私達がリュレイナ神殿へ行く旨』をジェイクへ伝えるようにと指示を出した。

 この庭園はさっき練習していた中庭とは趣が違って、整えられた花壇や並木はあるものの、広い芝地や土だけの更地などが幾つか並んでいる。

 赤い花を付けた小さな木の前で待っていろと言われて、私はちんまりとそこに佇んでいた。

 塔を挟んだ後方から、微かな掛け声らしきものが空を渡って流れて来る。

 恐らく騎士団広場からのようで、今日は演習があるという話だったので、騎士達がなにか剣とかで練習試合でもしているのかもしれない。

 ――ザシ、ザシ、ザシ。

 にわかに力強く砂を踏む音がしたので目をやれば、ライアンが馬に乗ってやって来ていた。

 おおっ、馬だ。馬で行くんだー。わー、綺麗な茶色い毛並だなー。

 馬の毛色は多分、鹿毛とか栗毛とかと呼ぶはずなのだけれど、私にはどっちがどんな色とかよく分からないのが残念だ。

 悠々と馬を歩かせるライアンはこの世界の衣装のせいもあって、いかにもな感じでさまになっている。

 わー、まるで『ちょっとカジュアルな王子様』みたいだよねー。

 ……いや、ごめん。ライアンは本物の魔族の王子様だった。

 一人でノリツッコミしている内に、ライアンが私の真ん前で馬を横付ける。

「はい、乗りなよ」

 事も無げに彼はスイと私へと手を差し伸べた。

 はい、その手に掴まって馬に乗れってことですね。

 でもいざ馬に乗ろうとライアンの手を取ったとしても、馬は結構大きくてどうよじ登ればいいのか分からない。

「……なにしてんの?」

 いつまでも彼の手を取らない私に焦れたライアンが眉をひそめる。

「えーと……どうやって乗るんですか?」

「だから、手」

「足は、ど、どうすれば?」

「あぶみ。こっち空けてるだろ」

「えーと……あぶみって?」

「ここだろ! 足をここへ乗せろっ!」

 彼の足元につり革みたのがぶら下がっていて、私が一時使えるようにとライアンが自分の足を退かしてそこを空けてくれていた。

 おお、そこですね。なるほど。では――

 ようやくライアンの手を掴んであぶみとやらに足を乗せる。

 男の人と手を繋ぐことにどきどきするかと思ったけれど、もはやそれ所ではなく、足にグッと力を乗せると不安定にグラリと揺れて一旦下りてしまった。

「あー、ごめんなさい。もう一回――」

「いや、待て」

「……え?」

「お前、どこへ乗る気だよ?」

「ライアンの後ろへ……」

「バカ、前だ。前」

 う……またバカと言われてしまった……。

「そう遠くないし、ドレスだから横向きに座れよ。でないと――」

「わ、わかりましたぁ!」

 わざと元気に返事して彼の言葉を遮った。続きを聞くのははばかれる。

 ライアンは普通の男性が言い辛いことでも素の顔のまま平気で言いそうで怖い。

 そうして、ライアンの指示通りになんとか馬へと乗った。が――

 げ、この鞍っていうの、結構固い。

 横乗りなので尚更身体が安定せず、座席の硬さに身じろぎしてぐらりと後方へと倒れそうになる。コツンと背中に当たった硬い物は、ライアンの帯剣の柄だ。

 この庭園に来る前に、彼が自室へ一旦戻って携えて来ていた。

 お城から出るというのは、当然多少の危険もあるのだろう。

 そこでおもむろに、ライアンが手綱を引いて馬を回転させ始めた。

 ――と、今度は身体が前へとつんのめる。

「わっ……、おおっ」

 なんとか馬のたてがみにギュッと掴まって持ち堪えた。馬がぶるると鼻を鳴らす。

 ごめん、馬くん。痛かったら、ごめんね。

「おい、落っこちるなよ」

 またもや呆れ顔を見せるライアンに、はははと苦笑いで返した。

 私も出来れば落ちたくないんですよ。命に関わりますからね。

 でも、慣れないんだから仕方ない。

「お前、本当に世話が焼けるな。子供か」

 言うなりライアンが、私の肩をグイと抱き寄せた。


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