○魔力の特性とライアンと:4
「な、なんですか……?」
近い距離にライアンが来ると、つい昨日のことを思い出して、なんとなく身構えてしまう。
「もう一回、的狙えるか?」
けど意外にも、ライアンは真面目に練習を再開する気らしい。
あ、そうだったんですね。スミマセン。変に警戒しちゃって……。
だって昨日のサロンで、貴方はなかなか酷かったと思うんですよ。
――などとは、決して口には出さず。
「はい、たぶん大丈夫だと思いますけど」
「じゃあ、やってみて」
端的にそう言って、ライアンは横手へと移動する。
ディオンは私の斜め後ろ辺りが立ち位置だったけれど、ライアンは私よりももっと前のサイドを立ち位置にした。
でも私が的へ集中さえすれば、視界には入らない場所だ。
「じゃあ、やってみますね」
チラリとライアンへ目を向けると、彼はもう軽く腕組みの静観態勢を取っていて小さく頷いた。
私は肩幅に開いた足でぐっと地面を踏み、まず的の中心を視線で射抜く。
それから、精神統一。
身体の底に眠る熱を感じて、魔法陣を呼び出す。そして――
――どんっ!
飛べ、と念じたタイミングで空気弾が魔法陣から飛び出す。
的を目指して宙を切り裂き少しずつ上昇し、ゴ――ンとまた赤玉に命中する。
上部から吊るされた板の的は反動でグルンと回転して弾を逃がし、その後も衝撃の余韻でクルクルと回っている。
やったぁ! もう完璧だよ!
ちょっと得意気にライアンを見ると、彼は愛想のない平坦な面持ちでこちらを見ていた。
「もう一回」
う……それだけですか。
大仰に褒めてくれなくてもいいけど、少しは労いの言葉くらいあっても?
「もう一回、やりなよ」
けれどライアンは、再度抑揚なく促すだけだ。
わかりました、やりますよー。
では――
自分の定位置で姿勢を整えた私は、さっきと同じ要領で精神統一から始める。
一度コツを掴んでしまえば、魔法陣の出し入れも的当ても、思い通りに行くようになった。
やっぱり『魔王の魂の欠片』とやらを持っているせいだろうか。
準備が整うと気を込め、魔法陣から空気の弾をどんっと撃ち出す。
この瞬間はちょっと気持ちいい。
――ヴォン!
ところが的へと飛んで行った空気弾へ、いきなり現れた小さな竜巻が襲い掛かってきた。
ゴォオオと唸りを上げた風の渦は、私の空気弾を巻き込んで空へと昇って行く。
「なっ……!」
とっさにライアンの方を見ると、やはり彼が青い魔法陣を自分の前に浮き上がらせている。彼の風の魔法で、私の空気弾をいなしたのだ。
「むー、なにするんですか!?」
せっかくまた的中させられそうだったのにと、思わず不満を口にした。
連続的中更新を、あんな形で止めなくていいじゃない~。
「お前の空気弾にどのくらいの威力があるのか、確認してみただけだ」
ところが、ライアンの返答は至極まともだった。意地悪されたわけではなかったらしい。
なるほど、考えがあったんですね。また悪い風に考えちゃってごめんなさい。
空気弾はライアンの小型竜巻に簡単に呑み込まれてしまったので、威力はまだまだだったようだと分かった。
ん~~、ちょっとしょっく~~。
しかしまぁ、ライアンの方が私より魔力が長けているのだから当然か……。
そんな風に一人で悶々としていると、ライアンがツカツカとこちらへと歩いて来た。




