○薔薇風呂と水の人:3
「お前、なんでこんな時間に風呂?」
「え、えーと……寝てしまって……」
「寝てたのって、昼だろ。ネリーとジェイクがそう話してた」
「あー、えと、一度起きて、また寝て……」
「ああ、魔力使い過ぎてバテたんだ」
「そ、そうみたいですね……」
「で、的には当たるようになったのか?」
いやいや、ていうか! なんでそのまま普通に話し掛けてくんのっ!?
「あ、あの……とにかく……服を……早くなにか、来て下さい」
苦笑いでやんわり訴えてみる。
「別にいい。俺、気にしないし」
「いやっ! 私が気になるのでっ!」
なにを言うかと、こっちがびっくりする。
でもライアンは、ふっと小さく息をついて笑った。
「凛音、お前、男の裸見たことないんだ?」
あからさまな質問に顔がバッと熱くなる。今きっと耳まで真っ赤だ。
なぜ、そんなことを指摘するかっ!? 当たってるけど!
「じゃ、見れば? 見ていいよ」
くすくすと笑いながら、ライアンが私の背後の壁に腕をペタリと付けて、私へとにじり寄る。薔薇の芳香がふわりと漂って来た。
な、なに……普段クールなのに、なんで今、そんなに楽しそうなの?
「い、いいです……え、遠慮します……」
「遠慮なんてしなくても。俺と凛音の仲なんだし?」
どんな仲ですか!? 全くどんな仲でもないですよっ!
ライアンは更にずいと近寄って来て、鼻先が付くほど顔を寄せて来た。
彼の綺麗な青緑色の瞳に、私の顔が映っているのが見える。
ち、ちかいです……ちかすぎますよ……。もはやそれでは、見たくとも、なんに見えないですよ……。
いやっ! 見たいわけじゃないけど! 全然! 全然違うけどっ!
「風呂、一緒に入ってやろうか?」
「えっ!?」
「凛音も早く脱げば? 脱ぐの手伝ってやろうか?」
ライアンの吐息が頬に掛かり、彼の手が私の背中へと伸びる。
「なぁ、知ってる? 魔力の強い相手とキスとかすると、自分の魔力も上がるんだ」
「え……?」
「今は俺のが、お前より魔力が強いと思うんだよね。ちょっと、試してみる?」
ツイと唇を寄せて来たライアンの肩を、ガッと鷲掴んで押し返した。
「な、なにすんのっ!」
でもライアンは、またふっと笑っただけで、あっさり離れた。
「バカ、冗談に決まってるだろ」
薄い笑みを見せたライアンは、何事もなかったかのようにするりと横手へと歩いて行く。
こちらは固まったまま、動けない。
こんな事態は初めてで、心臓がバクバクしている。
ライアンは奥の右手にある彼用らしいクローゼットを開け、そこから青いガウンを取り出すとふわりと軽やかに羽織った。
「じゃ、お先に。どうぞ、ごゆっくりー」
そうして彼は普段は見せないような妙に朗らかな笑顔を残し、上機嫌な様子でサロンを出て行った。
な、な、な、な……なに、あの人……。
どこまでが本気で、どこまでが冗談? それとも全部が冗談だったの?
そして、なんで裸を見られても平気なの?
そりゃあ、まぁ、人に自慢できる肉体美ではあったけれども……。
いやいやいやっ! なに考えてんの、私!
首をぶんぶんと横に振って、雑念を払拭する。
ヨシ! 今起こったこととか見たモノは、なるべく早く忘れよう!
そう心に誓いつつ、私はサロンのドアにガッチリと内鍵を掛けた。




