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好きだった人が突然勇者になっちゃって、私の命を狙ってきます  作者: うさたろう
第七章、いちごみるくと終わりのない宿敵
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○いちごみるくと終わりのない宿敵:3

 内容は茹でたブロッコリーに、卵焼き、ソーセージ炒めと、アスパラベーコン。勿論、たらこふりかけも忘れずに。

「わー、全部おいしそうだなー。でもさ、ソーセージがタコとかカニじゃないんだね?」

 …………え?

 じゃあ逆に、先輩のお弁当にソーセージ入ってる時は、タコとかカニなんですか?

 とか、なんとなく訊けない~。

「タコとかカニじゃないと……ダメですか?」

「え、いや! ううん! ダメとかじゃないよ!」

 先輩は慌てて右手を自分の顔の前でぶんぶんと振る。

 焦った顔が、これまたカッコ可愛くて素敵~。

「なんか女の子ってさ、ソーセージをタコかカニにするもんだと思ってた。なんでも可愛くするのが好きじゃない」

 それはある意味、微妙な発言な気がする。

 『女の子を良く知らない』風にも取れるし、『元カノがそうだった』とも取れる。

 先輩は、今は誰とも付き合っていないはずなんだけど、こっそり付き合ってる人がいたとかいないとか、今もいるとかいないとか、などと噂になっている。

 いるのかいないのか、いるのかいないのか、どっちなのか気になり過ぎる……。

 いかせん旭先輩は人気があるので、そういった話題が出るのも仕方ないけど。

「えーと……じゃあ、今度はペンギンさんにしてみます!」

「……ペンギン? え、ペンギンなんて出来るの!?」

 先輩、こんな話題なのに意外に食いつきいいなぁ。そんな先輩も(略)。

 ソーセージの飾り切りは、私が幼稚園や小学生の頃には母が良くやってくれた。

 中学生になると教えて貰って自分でもやっていたのだけれど、高校生になってそのマイブームは落ち着いたので、もう私も母もやらなくなっていた。

「できるんですよ。ペンギンに見えるかどうかは、微妙かもですけど」

「……それ、俺も食べられる?」

 一瞬、言葉を失う。

 だって……それって……それって……。

「あ、ごめん、図々しいよね……」

 即座に頬を赤らめた先輩がパッと視線を前に向け、またぱくっとサンドイッチを頬張った。

「た、食べられます! 沢山! 嫌というほどっ!」

 力み過ぎて、バンッと机を右手で叩いてしまった。先輩はびくっとしてこちらを向く。

「え……えーと……一個で充分だよ……」

「あ、あのっ! 先輩の分も、お、お、お弁当を――」

 『作らせて下さい』という、たったのあと一言が続かない。

 あ~~~~、自分のいくじなし~~~~~。

「ああ、あの! よ、よろしかったら、このソーセージ食べませんか? これはカニとかじゃないですけど! た、卵焼きもアスパラベーコンもっ!」

 うっかり考えが先走って斜め上にいってしまい、返事すら聞く前にバッとお弁当箱を両手に持って先輩へと突き出す。

 やや面食らったという顔をした先輩は、でもすぐにっこりと笑う。

「俺がそんなに貰ったら、弓月さんの分がなくなっちゃうよ」

「い、いいんです……おいしくないかもしれないですけど……」

 私の分とかはどうでもいい。

 ただ自分でも無茶したなと、ツッコみたいのだが、出したお弁当箱をどう引っ込めていいのかも分からない。

「あ、じゃあさ。物々交換しない?」

「……え?」

「俺はソーセージと卵焼きとアスパラベーコンを一個ずつ貰うから、弓月さんにはメンロンパンかコロッケパンをあげる」

「いえ! そんなの貰えません!」

「でも、俺だけ弓月さんのおかずを貰えないし。ていうか、もう貰った」

 先輩はひょいとお弁当箱から摘みあげたソーセージを、ぽんと口へと放り込む。

「うん、やっぱおいしい。ありがと。はい、今度は弓月さんの番。どっちがいい?」

 旭先輩はいつも優しくて、時々こんな風に強引だ。先輩のそういうところが、いつも私をドキドキさせる。

 こんなに少しのおかずとパンを丸々一個なんて、トレードとして成立しないと思う。

 それにもし、わがままが許されるなら、先輩と同じのが食べたい。

「だったら……先輩のサンドイッチの半分を……下さい」


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