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好きだった人が突然勇者になっちゃって、私の命を狙ってきます  作者: うさたろう
第七章、いちごみるくと終わりのない宿敵
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○いちごみるくと終わりのない宿敵:1

「うー、お腹一杯過ぎる……」

 ディオンとの昼食を終えた後、自室へと戻って来た。

 彼に半分以上食べて貰ったとはいえ、大皿のサンドイッチセット一人前半は、なかなかにベビーだった。

「ふー。それになんか……すごくねむい……」

 部屋へ入る前辺りから足取りがフラフラしていて、ベッドまでやっとの思いで行き着き、バフンとうつ伏せに身体を投げ出した。

 身体が泥のように重くて、沼の底へと沈んでいく気がする。

 ……ディオンが『休め』って言ったの、納得だ。

 ひどく身体が疲れて……ねむくて……ねむくて……。

 モンスターのサンドイッチ……意外に……けっこう……おいしかったよ。

 人間でも……モンスターを食べるって……ディオンは言ってたけど……。

 旭先輩は、もう食べたかな……ギ、ギンドラ……ギンドラ……なんだっけ……。


 『終わりのない宿敵なんだよ。救われないな』


 微睡まどろむ意識の中で、ディオンの言葉が脳裏に蘇る。

 じゃあ……私と旭先輩は……宿敵……なの?

 おわりのない……すくわれない――


「ああ、弓月さん。来てたんだ?」

 不意にガラリと生徒会室のスライドドアが音を立てて開き、ひょいと顔を覗かせたのは旭先輩だった。

 お昼休憩を利用して自分の割り当て分の生徒会仕事をやっていたのだけれど、まさか先輩が来るとは思わなかった。

「は、はい! 美術部の展示会のパンフレットを急がなくちゃいけなくて」

「あれ、それって来週末の提出だったんじゃないの?」

 後ろ手にドアをガラガラと閉めながら、旭先輩が不思議そうな顔をする。

 私と先輩以外は誰もいないこの部屋でドアを閉め切ってしまったら、本当に二人きりになってしまうのに。

 い、いいんでしょうか? そんなこと……。

 心臓がどっきんどっきんと激しく跳ね出した。

「か、会場の伝手つてで……宣伝用パンフを置いて下さる場所が幾つか見つかったそうで。印刷部数を増やすらしくて……」

「だから、急いで欲しいって?」

「は、はい」

 コツコツと靴音を鳴らしながら、先輩が部屋の中ほどへと歩を進める。

 いつもは一番奥の会長席を使っているのに、なぜかその会長席前へコの字型に並べられた机の右角に座っていた私の方へとやって来る。

 な、な、なんで……?

「そうか、大変だよね。ごめんね、無理させて」

「いえ……あと少しで出来ますので。先輩は?」

「俺は、文化祭の企画書作成」

 先輩が手に持っていた黒ファイルを掲げて見せる。分厚く膨れたそれには、沢山資料が挟まっているようだ。

「わぁ、もう作り始めるんですね」

「うん、文化祭は準備期間長めに必要だからね」

 目の前まで来た先輩がにこりと優しげに微笑む。その笑顔は、王子様そのものだ。

 もし、私が舞踏会で旭王子にダンスを踊って貰えたら、嬉しさとパニックの極みで靴を片方だけとはいわず、両方残しちゃうと思う。

「ここ、座っていい?」

 先輩は私の隣の席の机に手をついた。

 もちろん良いに決まっている。

 でもなぜそこに座りたいのかと気になって、返答出来ずにただ先輩を見た。

「迷惑?」

「いえいえ! そんな! どうぞどうぞっ!」

 思わずどこかの三人組のお笑い芸人さんのように椅子を勧めてしまった。

 はずかしい~~~~!

「あはは、ありがと」

 それを知ってか知らずか、先輩が笑ってギィとパイプ椅子を引いて腰を下ろし、手に持っていた購買の袋とファイルを机の上に置くと、こちらへと顔を向ける。

 開け放した窓から爽やかな風が流れ込み、オフホワイトのカーテンがふわっとなびいた。

 先輩の薄茶の髪もサラリと流れ、青みがかった色素の薄い先輩の茶色の瞳がじっと私を見つめる。

「俺に、なにか手伝えることあったら言って?」

「……はい……」

 緊張して目を合わせていられず、つい視線を落としてしまった。

 先輩はいつも私を含めて、皆に気遣ってくれる。

 けれども、生徒会長の先輩の方が誰よりもずっと仕事は多い。

「弓月さん、もうお昼ご飯食べた?」

 先輩は自分が持って来た購買のビニール袋の中身をガサガサと探り出す。

「あ、いえ。もうそろそろ食べようかな、と思っていた所です」

「お弁当?」

「はい、先輩は?」

「俺もこれから。今、パン買って来たとこ。じゃあ、一緒に食べない?」


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