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○モンスターのサンドイッチ:6

「ジェイクは初代魔王の妹の血族だって話したろ。十数年前のジェイクがまだ七歳くらいの頃に家族を人間に殺されてる。ジェイクの一族ってぇのは、それでほぼ壊滅した。残ったのはジェイク以外には、さっき話したこの城で働いてたジェイクの叔父さんだけだった」

 昨夜の『デュクリアスの鏡の間』でのジェイクの話しぶりで、彼が人間に対して冷たい感情を抱いているのを感じていた。

 でも平和で平凡に生きていた私には、その凄惨な話を自分の中でどう消化すればいいか分からない。

 ただいつもにこにこしているジェイクが、人間によってとてつもなく辛い思いをさせられたのだと理解するのがやっとだった。

「ジェイクの家族の件があった時には、俺の親父が健在の魔王だったけど、まだ二十代半ば頃で大したことも出来なかったのか……。結局その数年後には、にわか勇者に封印されてるしな」

 ディオンは残りの半分のサンドイッチをやっつけに掛かっている。

「にわか勇者って……?」

「勇者血族とか、そんなんらしい。こっちでいうと、魔王血族の親父とか俺とかに当たる感じ」

「え……でも、その理屈でいくと――」

「そう、俺もライアンもルディも魔王になれば、『にわか魔王』ってことになる」

 私の思い付きを簡単に汲み取って、ディオンが先に言ってしまう。

 彼自らで、そんな風に言うとは……。

 でも、ディオン自身は案外サバサバしていて、気にしていないようだ。

「今までの魔王っていうのは、殆どが初代魔王の血族だった。でも『初代魔王の魂の欠片を持つ魔王候補者』っていうのは珍しいらしい」

「珍しいらしいって……もしかして、私以外にもいるんですか?」

「古い文献によると、何百年か前にいたって話だ。その時の『魂の欠片を持つ魔王』は『転生した勇者』と相討ちになってる。要はな、能力的に魔王血族より、『魂の欠片を持ってる方が魔王として優れている』という結論になってる」

 それって、ディオン達より私の方が魔王に向いてるって意味だ。

 えええ、魔法もまともに使えない私より、ディオン達の方が断然向いてるよー。

「だから、ジェイクはお前に拘ってる。デュクリアスの鏡もきっとお前を選ぶはずだと」

 そうか……。ジェイクがなぜ『私推し』なのか分かったよ。

 だけど、何度も考えても期待に応えられそうにないんだけどな。

 能力的にも気持ち的にも……。

「それ、全部食えるか?」

 自分のお皿をすっかりからっぽにしたディオンが、まだ手付かずの『私用モンスター抜きサンドイッチ』を目で示す。

「あ、ううん。多分、無理です」

「じゃ、半分食っていいか?」

「ああ、はいっ! ぜひぜひ!」

 もし彼が食べ足りなければ、自分の欲しい物をいくらでも注文出来るのに、わざわざこれを食べてくれるのは、私やメイドさん達への気遣いだろう。

 本当に、なかなかにマメな気遣いの人だ。

 私が差し出したお皿から、サンドイッチの半分とポテトやサラダの半分ほどを自分のお皿へと移しながら、ディオンが話をつけ足す。

「ここからは、あくまで俺個人の見解だが……。『勇者の魂の転生』と『魔王の魂の欠片の転生』は、呼応してると思う」

「呼応って……どういう風にですか?」

「どっちかが転生すると、それに応じてもう一方も転生してるんじゃないかってな。終わりのない宿敵なんだよ。死んでも魂だけ転生して、何度も戦いを繰り返してる。救われないな」

 そう言ってディオンは、モンスター無しのサンドイッチにまたパクリとかじり付いた。


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