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○モンスターのサンドイッチ:5

「結構いけるだろ?」

「は、はいぃ!」

 ぱくぱくとおいしそうに食べているディオンへは、満面の笑顔で答えつつ内心は若干パニック。

 でもギャオーとかチーズの元を想像せずにいられれば、病み付きになりそうな味だ。

「こっちの世界の人間も、多少はモンスター食うんだぞ」

「へー、そうなんですね」

 『詳しいですね』と言いそうになって、またハッとする。

 ディオンは人間の生活に造詣ぞうけいが深くても不思議じゃない。

 でもなら、ディオンにとっては、人間と敵対するのは辛くないのだろうか。

 私は人間界では人間として暮らしていたし、旭先輩が今も人間側にいるから敵対したくない。

 ディオンにとっては、もう一つの祖国で母親の生国でもあるのに。

「ディオンって……人間と対立するのは、平気なんですか?」

 すると彼は少し眉をひそめて顔を曇らせた。余計な話題だったろうか。

 けれど私はディオンと通じる物を感じていて、どうしても訊いてみたかった。

「俺は……身体的にもメンタル的にも魔族なんだ。少なくとも、自分ではそのつもり」

 彼は細長いポテトフライを一本手に取って、端の方をカジカジと小さくかじる。

「人間に対して、他の人とは違う思い入れってないんですか?」

「思い入れというか……他の普通の魔族にはない、特別な感情は持ってる」

「ですよね、やっぱり――」

「俺の母親は人間に見放されたんだ。魔族……つまり親父に攫われたんだろうけど、誰も助けようとしなかったみたいだ。母親は俺がまだ六歳の頃に死んだから、俺も詳しいことは理解出来なかったけど……」

 ディオンの言う特別な感情とは、好意的な物ではなく負の感情だと、その言葉で気づく。

 予想外だった。

 ううん、私はなんて自分本位に考えていたんだろう。

 彼は魔族としてここで生きていて、魔王になるつもりだと今も話していたのに――

「母親は天涯孤独だったみたいだけど……。でもな、友達くらいはいたろうし、人間側にも騎士団や行政機関だってあるんだしさ……」

 ディオンは次のポテトフライを親指と人差し指で摘み、ゆっくりと右と左に振る。

 それは、内心では彼の心が揺れているのを示しているのか、ただの無意味な行為なのかは、私には分からない。

「……人間を、恨んでるんですか?」

「それ……自分でも良くわかんねー……」

 そして揺らしていたポテトを思い切り良くぱくんと口に放り込む。

 曇っていた表情はふっきれた雰囲気に変わっていた。

「だからな、人間は魔族を非情だと言うけど、人間もなかなか非情だろ。俺は両方の血を持ってるけど、魔力があるから人間じゃないし、精神的にもそう。人間側も決して俺を人間だとは認めない。シンプルに言えば、そんだけだ」

 ディオンの話は私にはショックだけれど、仕方ないのかもしれない。

 そういえば、ジェイクも似た話をしていた。

 人間側がいつも正しいとは言えない。自分が魔族側になって初めて、そんなことに気づくなんて……。

「凛音、『ちょっとショックだ』って、顔してるな」

「……え、そ、そうでも……」

 ズバリと言い当てられてドキリとする。間に合わせに取り繕う言葉も出ない。

「お前はすぐに顔に出る」

 ディオンは手にした新しいポテトの先で、ピシリと私の顔を指す。

 もう苦笑いを返すしかない。

 ライアンにも言われてたけど、やっぱり顔に出てるか……。

「なら、これも先に教えておいてやる。その方がショックも少ないだろうしな」

 意味深な前置きをしたディオンは、くるんとそのポテトの先を自分に向けて頬張り、オレンジジュースで喉へと流し込む。

 私はサンドイッチの続きを食べながら、その間をやり過ごした。

「人間に対する気持ちってぇのは、俺もそれなりだけど、ジェイクの方はもっと根が深い」

「……ジェイクが……」


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