○先輩と異世界に来たけど拉致られました:3
――勇者。でた、究極のキーワード!
聞こえて来た彼らの話を総合すると。
『勇者が転生して、それを召還して、そして旭先輩が良く似てる』って事は――
じゃあ、先輩が勇者様ってこと!?
おお~、そうか~、なるほど~! 先輩は王子様じゃなくて勇者様だったんだ~!
なんだー、そうだよね。旭先輩は万能で、確かに普通の人じゃないと思ってたもん。
さすが、旭先輩! なにからなにまで全部かっこいいっ!
……えーと、でも。だとするとなぜ、私までこんなところへ?
「駿馬様、私はニコラス・スプリンガーと申します。私共が貴方様をこの世界にお呼びしたのです」
ニコラスと名乗った緑髪の騎士が、また馬をついと先輩の前へ進める。
「この世界に……呼んだ?」
旭先輩はまだ草場にちょこんと座ったまま、不思議そうな顔で騎士を見上げた。
「あのぅ、すみません。では、私は一体、どうしてここに?」
ここで訊いておかないとタイミングを逃しそうだったので控え目に訊いてみる。
ニコラスさんは私の方を見て、申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「おそらく……駿馬様を召還した際に、巻き込まれたかと」
「……巻き込まれた」
なるほど。そうだよね。それ以外、どう考えても他に理由もないんだし。
「しかし、全く関係のない者が次期勇者様と一緒に召喚されてしまうなど、あり得るのでしょうか?」
右後方の騎士が釈然としない様子で隣の騎士にそう問いを投げ掛けている。
「うーん、確かに妙だが……城に戻ってから確認してみないことにはなんとも」
彼らにも原因ははっきりしないらしい。
「とにかく、城へご案内致します」
ニコラスさんが馬からひょいと飛び降りて先輩の傍までスタスタと歩み寄り、先輩の腕を支えて立ち上がらせる。
「お話は城でごゆっくりと。この辺りは物騒ですので」
物騒? この、のどかな場所が? あ、モンスターとかでるのかな?
『勇者』とくれば、『モンスター』と『魔王』だもんね。
そうか、ここって弱いモンスターとか出そうな感じだよね。
「どうやら貴方は、勇者様のお知り合いのようですね」
頭の中でごちゃごちゃ考えていたら、ニコラスさんが優しい笑顔を向けて私にも手を差し出してくれていた。
「では、貴方もご一緒に城へ」
私も連れて行って貰えるんだと、ホッと胸を撫で下ろした。
「どうか、ぜひ一緒に来て? 俺もキミには色々話を聞かせて貰いたいんだ」
私の前に立った旭先輩が、にっこりと微笑んでくれる。
ああ、勇者様の笑顔は神々しいほどに眩いです……。
お母さん、お父さん、ごめんね。
少し心配掛けるかもしれないけれど、でも私、今ちょっと幸せです。
まずはこの人達とお城へ行って、出来れば門限までには帰れるようにして貰うね。
……ていうか、帰れるよね……?
か、帰れないとか言われたら……どうしよう?
でももし、先輩だけが一人でこんな所に飛ばれていたら、きっと大変だった。
記憶も失くしちゃってるのに……。
そう考えれば、私が巻き添えになって良かったのかもしれない。
不安は色々あるけれど、旭先輩と一緒ならきっとなんとかなる。
それに私は、旭先輩があの階段の踊り場で言おうとした『話』を、まだ聞いていないから――
「では貴方は、こちらの馬に」
ニコラスさんが私の手を引いて、右後方の馬へと案内しようとした。
その時――
ビカッ! と、金色の閃光が瞬いた。