○魔力制御の特訓:5
「ね、これならどう? 昨日と同じ気持ちになるでしょ?」
ふふんと鼻を鳴らして、得意気な顔をするルディ。
……ふ……嫌味ですか……?
「ま、いいんじゃね?」
即、ディオンが同意。
「だな。単純な凛音にはちょうどいい」
ライアンも言いたい放題。
「オーフェスを思うと複雑な心境ですが、凛音様が必要とあらば」
ジェイクも苦言を呈することなく、にこにこと賛同だ。
皆して、何気に酷い……。
まぁ、能力不足な私が一番悪いんですけどね、ぐすん。
「魔力さえ高ければ、魔法は気持ち次第なとこあるからな。やってみ?」
ディオンに軽く促され、こっちも気が抜ける。
そうですか、じゃあ、やってみますね。
ところが実際に、エルクフェンの的が良かったのか、気を抜いたのが良かったのか。
次に意識を集中させると、簡単にヴオンと目の前に魔法陣が浮き上がった。
「あ、魔法陣出たなー」
「出ましたねー」
「出たな」
「出た出たー」
ディオン、ジェイク、ライアン、ルディの順で、皆それぞれに感想を口にしながら、パチパチと拍手する。
く……褒められてるのか、バカにされているのか……。
「よし、撃て!」
ディオンに号令を掛けられ、無心でそれに従った。
魔法陣がゆるやかにしなり、びゅんと空気弾が飛び出る。
ばぴゅーーーーーん、と若干間抜けな音を立て、弾はエルクフェンの右上を掠めて並木へと飛んで行った。
おお~~~~! 外れたけど、ちょっといい感じだったよ~~。
「まぁまぁだな」
一応認めて貰えたようで、ディオンがそう評価する。
嬉しくなって、「ですよねっ!」と機嫌良くディオンへ振り返ったが、魔法陣がまだ消えていなかった。
「わ、バカッ! だから、まだこっち向くなって!」
「え、わ、ぎゃっ!?」
どん! と、またもや飛び出た弾丸は、慌てて飛び退いたディオンの肩をギリギリ掠め、塔のやや左側の壁にど――――――んっ! と激突して大穴を空けた。
「殺す気か! バカ!?」
速攻、ゴツンとディオンのげんこつが飛んで来たのは言うまでもない。
その後に何度か練習を繰り返し、魔法陣の出し入れ的なことはなんとか思い通りに出来るようになった。
ただやはりコントロールはなかなか上手く制御出来ず、エルクフェンの彫刻は今も無傷に鎮座している。
「なんとか暴走しなさそうだな。じゃ、俺はもう行くから」
静観していたライアンが左手で右肩を押さえて腕をぐるんと回すと、ルディも「僕も」とベンチから立ち上がった。
「ああ、悪いな。さんきゅ」
ディオンが彼らへ言葉を掛けるとライアンは軽く手を上げて応え、ルディは頷くともつかない程度の中途半端さで首を傾げる。
ジェイクもディオンに続いて、「ありがとうございます」と笑顔でライアンとルディに謝意を示した。
それでようやく、彼らはただ見物していただけでなく、私の魔法が暴走した際にサポート出来るよう付いてくれていたらしいと気づいた。
「ジェイク、少し相談があるんだけど、時間いい?」
「ええ、いいですよ。では、私の部屋へ」
ライアンの誘いに、ジェイクが応じる。
「僕は、これからちょっと出掛けるから」
ルディはジェイクへそう告げると、踵を返して歩き出した。
ジェイクはルディの背中へ「いってらっしゃいませ」と一礼した後、今度は私とディオンにも「では、一旦失礼致します」と軽く頭を垂れ、ライアンと共に塔の方へと向かって行った。
あっという間にディオンと二人きりで取り残され、お互いで顔を見合わせる。
空気が『しーん』と音を立てた気がした。
すると、ディオンが思い出したかのようにパッと顔を赤らめたので、こっちも釣られて恥ずかしくなり、お互いで目を逸らした。
「あー、えーと。じゃあ、俺達もそろそろ昼飯にするか」
「あ、は、はい。お願いします……」




