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○魔力制御の特訓:4

「凛音、もう一回やれ」

 ディオンにグイと腕を引かれて、元の立ち位置へと引き戻される。トトトと片足でふらつきながら地面を踏んだ。

「でも……また、暴走しちゃったらどうしよう?」

 斜め下からディオンを見上げると、彼は二マリと笑って拳を自分の顔の横まで上げる。

「大丈夫だ。また、げんこつしてやる」

 う、それは勘弁して欲しい。でもまぁ、暴走するよりはマシか……。

「いいから、気にせずやれ」

「……はい」

 再度、さっきと同じ場所に立ち、的をまっすぐに見据える。

 ディオンは本気でげんこつする気らしく、さっきより私に近い位置の斜め後方に下がって待機中だ。

 もしかして、ここの人って、皆S系なの? それとも、魔族だからSなの?

 などという下らない疑問はひとまず置き、意識を集中。

「…………あれ?」

 なのに、今度は魔法陣そのものが出ない。

「ふ、く、む、う、はっ――」

 仁王立ちして足を踏ん張り、お腹にギュッと力をいれても、もうさっきのような熱を感じないのだ。

 え~~~~~、なんで~~~~、なんでなの~~~~~!?

「なにやってんだ、お前?」

 目の端で捉えられる位置で、手持無沙汰に右手を首の後ろに手を当てているディオンの視線を感じながら尚もトライしてみるが、魔法陣が浮き上がる気配すらない。

「う~~、魔法陣でなくなっちゃいました~~~~」

「……マジか……また、そこからか……?」

 ディオンはさっきと似た呆れ顔で、さっきと似たセリフを繰り返す。

 なんと言われようと、でないものはでない。

「はー。やっぱ、メンタル面の強化が先かぁ?」

 頑張っている私を差し置いて、ディオンが見学者達へと意見を求める。

「どうかな。なんかもう、そういうレベルでもないような」

 と、ライアンの心無い返事だ。

「だよなー。こんな基本中の基本からとは……」

「魔族としては、最低レベルだな」

 今、人が一生懸命やってる傍でそんな冷めた会話って、酷くないですか?

「凛音様、リラックスリラックス~」

 ジェイクが口の両側に手を当てたやまびこスタイルで叫ぶ。結構近い距離ですけどね。

 ありがとう、ジェイク。貴方だけが今の私の心のオアシスですよ。

「的が悪いんじゃない?」

 すると思いがけず、ルディがそんなことを言い出した。

 彼は肘掛に頬杖をついたまま、おもむろにもう片方の空いた手でパチンと指を鳴らす。

 瞬時にふわんと半透明の蛍光緑色をした魔法陣が水平に浮かび上がり、ルディがスイと手を払う動きをすると、魔法陣はそれにならって動いて地面へと舞い降りる。

 スッと地中の浅い個所へと吸い込まれた緑色の魔法陣は光が透けて見ており、その場でチカチカと明滅した後、的の方へと地中を一気に走り出した。

 そしてその軌跡には、土をボコボコと膝丈ほどに隆起させていく。

 わっ! ルディの魔法初めて見た! なんか凄い!

 これは多分、土属性ってヤツだね。便利そうでいいなぁ~。

 などと羨ましがっている間に、的の真下へと辿り着いた魔法陣は、そこで一気ににょきにょきと土を盛り上げ始めた。

 ぐんぐん上へと伸びる土山は、空中に掲げられた板の的の赤玉前まで成長すると、ボコボコと四方八方に土が出たりへこんだりしながら何らかの形へと変貌していき、ついには『新しい的』を生み出した。

 いつのまにやら地中の魔法陣は消えていて、地面を隆起させた余分な土山も綺麗に元通りになっている。

 見事に形を整えた『新しい的』も、気付けば色まで変わっていた。

 どーん、とそこに鎮座するしているのは、お風呂場にあるのとそっくり同じあのエルクフェンの真っ白い彫刻だった。


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