○魔力制御の特訓:3
そして、ぱっと目を見開くと金色の魔法陣がふわんと垂直に顔の真ん前へ浮かぶ。
――うぉ、マジででたよ!?
喜びより先に、自分で驚いた。
しかし瞬時に意志とは関係なく、ザシュン! と魔法陣の中心から空気弾が放たれる。
空気弾はふぉんっと風を鳴らして、的よりかなり斜め上へ飛び、青空へと吸い込まれて消えた。
お~~~~~~~~、おおぅっ!?
ところが、やはりというべきか、魔法陣が消えない。
「そのまま気を静めろっ!」
背後のディオンが昨日と似たアドバイスの声を上げるが、思い通りにいくわけもなく。
「き、消えない! 魔法陣が消えないよっ!」
焦れば焦るほど身体の中の熱が膨張する。
どくん、と心臓が脈打った瞬間また、どんっ! と弾丸が的とは大きく離れたあさっての方へと飛んでいく。
「焦るな! 自分の意志で熱を押さえ込め! 魔法陣が消えるのをイメージしろ!」
そうは言われても、ますます身体が熱くなる。
「で、できないっ! どうすんの!? これ、どうすんの!」
言いつつぐるんと後方のディオンへと顔を向ける。と、魔法陣まで一緒に付いて来て、ディオンと私の間に浮かんだ。
「わっ! こっち向くな!」
驚いて目を剥いたディオン目掛けてまたもや、どん! と空気弾が飛び出す。
「きゃ――――! よけて――――――――――っ!」
私の叫び声より早くディオンがザッと地面に片膝を付いてかわし、後方へ流れていった弾丸が、ドガ―――――ンッ! と塔の壁を突き破った。
あああ……また……。
それでも魔法陣はまだ消えない。
留まるところ知らずに身体は益々熱くなり、目の前でキラキラと輝く金色の魔法陣がゆらりと内側へしなる。
「ぎゃっ、また――」
空気弾が吐き出される前兆に怖くなり両手でバッと顔を覆う。
――ゴツンッ!
が、弾丸が出るより早く、頭に硬い衝撃が落ちて来た。
「いた――――――いっ!」
顔を覆っていた両手を頭の天辺へと移動させ、背後の気配へ振り返る。
そこには、使い終わったらしい拳を私の頭上に掲げたディオンが、赤い瞳で私をジロリと見降ろしていた。
「魔法陣を出したら、すぐ気を静めろ! 同じテンションを保つな!」
う……げ、げんこつ……いたいよ……。
けれどもう、さっきまで目前に浮いていた光る円陣は姿を消していた。
「魔法陣が消えてる! 消えてますよっ!」
「意志で熱を抑えられないなら、気を散らせ。それなら、出来るだろが?」
なるほど。熱をどうこうしようと考えるより、熱を忘れろということですね。
「わかった……と思います。じゃあ、次はそうやってみます」
そこでハタとして、ジェイク達の方を見る。
彼らの方には、被害はなかったはずだけど――
苦笑いのジェイクに、ベンチの肘掛で頬杖を突く呆れ顔のルディ。
そしてライアンは、自分の頭上で水平に浮かぶ青い魔法陣をぐるぐると回していた。
なに……その魔法陣は? やっぱり、昨晩と同じアレですか?
「……もう、いらないか?」
クールな面持ちのままそう訊くライアンに、首をぶんぶんと横に振って答える。
「いらないいらないっ!」
あわや、また昨晩の滝シャワーを浴びせられるところだった。やばいやばい。
ライアンは、なぜか残念そうに溜息をついて腕を下ろす。と、魔法陣がスッと消えた。
おおっ、あんなに簡単に魔法陣を消せるとは!
いや、でもなんで、ちょっと残念そうなの……?




