○魔力制御の特訓:2
「えーと……今朝、ネリーが新しいドレスを持って来たんで……ダメ、ですか?」
叱られそうな気がして上目使いにディオンを見上げると、彼はちょっと顔を赤らめて横を向く。
「いや、まぁ。別に、似合ってるから……いい」
あ、また分かり易くツンデレな……。
助かるなぁ、異世界補正!
かくいうディオンは、最初に会った時と似た黒ベースに黒いアームカバーの動き易そうな服装だ。
ライアンも同じく最初の時に見たのと似たグレーベースのスリムタイプ。
ジェイクは昨日と同じ青い服を着ている。多分、彼専用の制服なのだろう。
ルディは昨日ほどクラシックではないけれど、白地に金糸の刺繍が入った王子服だ。見た目がお人形のようなルディには、そのスタイルがとてもさまになる。
「よし、それでだな。あの的を狙って、昨日と同じ魔法を使ってみろ」
ディオンが私の目線へ高さを合わせようとして頬を寄せてくる。
彼の跳ねた髪の毛先がツンツンと耳に当たって、どっきんとこっちの心臓まで跳ねる。
目を合わせたら妙に照れるのに、そういうのは平気なんだね、この人は。
いや、真剣に教えてくれてるからか。
ダメダメ、集中しろ、私。
この立ち位置より数メートル先には、上部を鉄棒で固定された大きな板の的が立てられている。そしてその板を支える鉄棒の両端が、地面に突き立てられた両脇の鉄ポールへと繋げられていた。
的は射的や弓道なんかで使うのとほぼ同じ柄で、真ん中に的中すれば板が反動で揺れて空気弾を後方へ逃がす仕組みだ。
的の後方はオープンスペースで、随分先に並木があるだけなので安全確保されている。
「外れてもいいから、とりあえず気持ちでは真ん中を狙え。わかったな?」
耳元でそう囁かれ、的を凝視しながらこくんと頷と、ディオンはスッと離れて行く。
「え、それだけ?」
あっさりと私の後方に下がったディオンへぐるんと振り向いた。
「は? 他に何かあるか?」
ディオンは既に静観態勢で腰に手を当て、素の表情だ。
「えーと……どうやって、魔法陣出すんですか?」
「……マジか……そっからか?」
次には遠慮のないあからさまな呆れ顔。
「だって……あの時は、勝手に魔法陣出ただけなので……」
「意識集中、念じろ! 昨日出来たんだ。同じ感覚を呼び起こせ!」
……う、なかなかのスパルタだな。
でももしかしたらライアンの方が厳しいかもしれないから、ディオンで良かったかも。
ルディは絶対意地悪だろうし……。
そういえば、ルディの魔法ってどんなのだろう?
あ、ジェイクの魔法も見たことないな。ジェイクは魔法使わないのかな?
「集中! 凛音! よそごと考えてんなよ!」
「は、はいぃ!」
さっそくディオンにどやされ、姿勢を正して板の的をまっすぐに見つめる。
ナチュラルウッドに黒白の円が五重に描かれていて真ん中の丸は赤い。
あの赤へ昨晩意に反して使ってしまった空気弾を狙って撃ち込むのだ。
ディオンの炎やライアンの風や水と違って、いささか恰好良い魔法とはいえないが、威力はそこそこ。
私としてはこれを使いたいというよりも、これが無意味に出ないようにしたい。
ディオンに言われた通り、意識を集中して昨日の感覚を思い出す。
……えーと、あの時はどんなだっけ?
モンスターが出たと思ってビックリして……身体がカッと熱くなって……。
そっと目を閉じて身体の奥底に静まっているはずの熱を探すと、みぞおちの奥の方がじんわりと温かくなるのを感じた。




