○デュクリアスの鏡とさまざまな事情:6
「正確には、もし魔族が人間の領土へ入ると身体に異常をきたします。人間の結界内では、魔族は生きていけないのです」
「え……それって……私もですか?」
「実はそれも、良く分からなんです。凛音様は成り立ちが私達のような一般の魔族と違いますし。とはいえ危険には違いないですから、本日のお昼は慌ててお迎えに行ったのですけどね」
えええ! だったら、私があのまま人間エリアに入ってたら、死んじゃってたかもしれないの!?
それにもしそうなら、私は旭先輩を訪ねて行くことも出来ないんじゃないの?
えええええ~、そんなぁ~~~~。
「逆に、私達魔族の領土であるサーラルウォン全体にも結界が張られていますよ」
私の内心のこの取り乱しぶりに気づいているのかどうか、ジェイクは尚もトントンと話を進めて行く。
「ここには……人間は入って来られない……?」
「はい」
きっぱりと言い切るジェイクに、疑いの余地もない。
あああああ。
私は先輩のところへ行けないし、先輩を呼ぶこともできないんだー。
「多少の例外はありますが」
「……例外?」
「結界封じの魔法を使えば、人間でもこの場で過ごすことは可能です。ディオン様の母君のように」
そうか。ディオンのお母さんは人間だったんだ。
じゃあ、先輩でもここに――
「ただその魔法は、魔王ほどの魔力がないと使えませんが」
う……厳しい……。そう簡単にはいかないんだね。
「結界は水神リュレイナの加護により強力に張られています。それも、巫女のお力があればこそですけれども」
ああ、その名前聞いたことありますよ。えーと、確か――
「その巫女って、ライアンの……」
「ライアン様の母君であるフィミア様です」
えー、ライアンって、何気に凄い血筋なんだ。
となるとフィミアさんは、前魔王の奥さんってことにもなる。
「まぁ、では。一度やってみましょうか。今の旭駿馬を見られるか、どうか」
「ぜ、ぜひ! ぜひ、おねがいしますっ!」
ジェイクが「はい」と穏やかに返事をして鏡にそっと手をやる。
今度はこちらを向いたままでスッと睫毛を伏せて、精神統一した。
心臓がトクトクと高鳴る。せめて先輩が無事かどうかだけでも知りたい。
しかし、そんな期待は敢え無く砕かれ、どーんと『検索不可』という文字が出て来た。
ガクリと肩を落として、ソファに両手をつく。
う……。いや、無理だってジェイクも言ってたし、分かってたよ。
でもね、なんかその妙な『ネット検索ダメだった』的な表示に脱力させられるんですけど~~~~。
「ですが、旭駿馬は人間の町で元気にしているようですよ。おそらく今はクレーバール城にいるのでは、と思います」
意外なジェイクの言葉に、パッと顔を上げた。
「え……なんで、そんなの知ってるんですか?」
「オーフェスに調べて貰っていて、さっきの晩餐会の時に戻って来たんですよ。でも凛音様にお伝えする間もなく、あの騒ぎになりましたので」
「え、じゃあ、オーフェスは人間の領土に入れるんですか?」
「モンスターは各結界に順応出来るものと出来ないものがいます。オーフェスの場合だと魔族の結界は問題なく順応していて、人間の結界には短時間なら耐えられます」
ああ、そうだったんですね。
く……あの騒動さえなければ、もっと早く教えて貰えてたのに~!
ともかく、先輩は無事なのだと分かった。それだけでもホッとひと安心だ。
「それから肝心の魔王選定についてですが、選定日は約一ヵ月後の三日月の夜です」
ジェイクが真剣な表情に変わる。私は身を起こして息を呑んだ。
「もし仮に……魔王に選ばれた場合の拒否権は……?」




