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好きだった人が突然勇者になっちゃって、私の命を狙ってきます  作者: うさたろう
第四章、デュクリアスの鏡とさまざまな事情
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○デュクリアスの鏡とさまざまな事情:5

「とは言っても、今の凛音様や旭悠馬には人間界で培われた『魂の写し』は残っているので、人間界での魂と殆ど変わりないでしょう」

 そうですか……。それを聞いて、ちょっとだけ安心しました。

 でもね、実はさっぱり意味は分かってないんですけどねっ!

 なんかわかんないけど、『とりあえず、大丈夫』って感じに思っておきますよ。

 その方が、心もやすらかでいられそうだし……。

「旭駿馬の記憶がないのは、やはり召喚された際の衝撃によるものだと思います。あちらは魔王の魂を一部だけ持って来た凛音様と違って、勇者としての魂を全部持って来たわけですから」

「えーと……だったら、もし私が人間界に戻ったら、私が二人に……?」

「いえ、それも違います。戻るのは、やはり魂のみ。ここでの貴方自身の肉体は恐らく消滅するでしょう。まぁでも、その辺も定かではないんですが……。ただ仮に子孫を残していれば、それは別個体として存在は危ぶまれないはずですので、ご心配なく」

 ジェイクはそこで意味深に、にこりと微笑む。

「い、いえ……」

 でも、こちらは苦笑いを返すしかない。

「人間界に戻った魂はまた元の魂へ癒着します。ですので、今ここにいる凛音様も、人間界で暮らしているもう一人の凛音様も、その時には融合されて、どちらも貴方自身となるでしょう」

 それは良いような、悪いような……。

 気になることが一杯なんですけど……。

「き、記憶は? 両方の記憶が残るんですか?」

「そこまでは、実は分からないんですよね。申し訳ありません」

 案外サラリとジェイクは流す。素敵な笑顔も忘れずに。

 そんななんとも、中途半端というか……微妙に気になるところで……。

「凛音様の赤い星の痣は、『人間界との繋がり』を示すとお話しましたよね。その痣がある間は、貴方の魂は元の世界に戻れるはずなのですが、タイムリミットがあるようなんです」

 ……次から次へと、衝撃の事実がてんこもり。

 もうここまで来たら驚かない――って、いや、驚くよっ!

 タイムリミットって!? 聞いてないよ、そんなの!

「い、いつですか? タイムリミットはっ!?」

「いえ、実はそれも分からなくて」

 ジェイクはにっこり笑顔を追加する。

 あああ……こっちはもう、苦笑いすらでませんよぅ。

「調べておきますね。古い文献も沢山残っていますし、デュクリアスの鏡も何か分かれば答えてくれるかもしれません」

「はい……おねがいします……」

 力なく答える。だって、今はもうなにも打つ手がないんだもの。

 異世界、厳しい……なんで私だけがこんな目に……。

 あ、ううん、旭先輩もだよね。

 そうだ、旭先輩はこの事実をどこまで知ってるんだろう?

 ていうか、記憶はまだ戻らないのかな?

「あの、だったら。その鏡で旭先輩の様子は見られますか? 同じ世界だし」

「あー、いえ……。そもそもそういった人を監視するといった類が難しいんです。ましてや、相手は人間の領土にいる勇者ですしね。結界も張られていますし……」

 今度は少し神妙な面持ちに変わって、ジェイクは軽く曲げた人差し指を唇へ当てる。これは彼の癖なのだろう。

「……結界って?」

「見えない壁のようなものですが、人間側にも結界を張る術があって、私達魔族はその領土へ踏み込めません。ですので、鏡による監視も難しいのです」

「領土へ入れないって……」


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