○デュクリアスの鏡とさまざまな事情:5
「とは言っても、今の凛音様や旭悠馬には人間界で培われた『魂の写し』は残っているので、人間界での魂と殆ど変わりないでしょう」
そうですか……。それを聞いて、ちょっとだけ安心しました。
でもね、実はさっぱり意味は分かってないんですけどねっ!
なんかわかんないけど、『とりあえず、大丈夫』って感じに思っておきますよ。
その方が、心もやすらかでいられそうだし……。
「旭駿馬の記憶がないのは、やはり召喚された際の衝撃によるものだと思います。あちらは魔王の魂を一部だけ持って来た凛音様と違って、勇者としての魂を全部持って来たわけですから」
「えーと……だったら、もし私が人間界に戻ったら、私が二人に……?」
「いえ、それも違います。戻るのは、やはり魂のみ。ここでの貴方自身の肉体は恐らく消滅するでしょう。まぁでも、その辺も定かではないんですが……。ただ仮に子孫を残していれば、それは別個体として存在は危ぶまれないはずですので、ご心配なく」
ジェイクはそこで意味深に、にこりと微笑む。
「い、いえ……」
でも、こちらは苦笑いを返すしかない。
「人間界に戻った魂はまた元の魂へ癒着します。ですので、今ここにいる凛音様も、人間界で暮らしているもう一人の凛音様も、その時には融合されて、どちらも貴方自身となるでしょう」
それは良いような、悪いような……。
気になることが一杯なんですけど……。
「き、記憶は? 両方の記憶が残るんですか?」
「そこまでは、実は分からないんですよね。申し訳ありません」
案外サラリとジェイクは流す。素敵な笑顔も忘れずに。
そんななんとも、中途半端というか……微妙に気になるところで……。
「凛音様の赤い星の痣は、『人間界との繋がり』を示すとお話しましたよね。その痣がある間は、貴方の魂は元の世界に戻れるはずなのですが、タイムリミットがあるようなんです」
……次から次へと、衝撃の事実がてんこもり。
もうここまで来たら驚かない――って、いや、驚くよっ!
タイムリミットって!? 聞いてないよ、そんなの!
「い、いつですか? タイムリミットはっ!?」
「いえ、実はそれも分からなくて」
ジェイクはにっこり笑顔を追加する。
あああ……こっちはもう、苦笑いすらでませんよぅ。
「調べておきますね。古い文献も沢山残っていますし、デュクリアスの鏡も何か分かれば答えてくれるかもしれません」
「はい……おねがいします……」
力なく答える。だって、今はもうなにも打つ手がないんだもの。
異世界、厳しい……なんで私だけがこんな目に……。
あ、ううん、旭先輩もだよね。
そうだ、旭先輩はこの事実をどこまで知ってるんだろう?
ていうか、記憶はまだ戻らないのかな?
「あの、だったら。その鏡で旭先輩の様子は見られますか? 同じ世界だし」
「あー、いえ……。そもそもそういった人を監視するといった類が難しいんです。ましてや、相手は人間の領土にいる勇者ですしね。結界も張られていますし……」
今度は少し神妙な面持ちに変わって、ジェイクは軽く曲げた人差し指を唇へ当てる。これは彼の癖なのだろう。
「……結界って?」
「見えない壁のようなものですが、人間側にも結界を張る術があって、私達魔族はその領土へ踏み込めません。ですので、鏡による監視も難しいのです」
「領土へ入れないって……」




