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好きだった人が突然勇者になっちゃって、私の命を狙ってきます  作者: うさたろう
第四章、デュクリアスの鏡とさまざまな事情
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○デュクリアスの鏡とさまざまな事情:4

「これって……人間界にいた時の私じゃ……」

「そのようですね」

「人間界の様子も、この鏡で見られるんですか?」

「……一応は」

 言いよどんだジェイクが、さっきと同じように鏡へ向き合い手をつく。

「人間界を――」

 瞬時に波紋が広がり、それが凪いだ大鏡に、人間界が映し出された。

 まだ一日も経たないのに酷い懐かしさにソファから乗り出してしまい、黒ドレスのスカートがシャナリと音を立てる。

 けれど、動画も混ざっているというのに、まるでスライドショーの如く色んな場所が映し出されては切り替わり、目で追うのすら難しいほどだ。

「これ、もっとゆっくり見たり、好きな場所を見たりとか……」

「人間界を希望通りに見るというのは難しくて、大抵こんな風にランダムに映し出されるんです。場所や人を特定するというのは、今のところ出来ないようで……。ある時は断片を、ある時は長く同じシーンをといった風にしか……」

 期待が大きかった分、大きく落胆した。

 家の様子が見られるかと思ったのだ。

「その鏡を扱えるのは、ジェイクさんだけですか?」

「いえ、王族か、それに近いリンデグレンの血縁者になら反応します。凛音様は血縁者ではないのかもしれませんが、魂の一部が初代魔王そのものです。おそらく問題ないでしょう」

 そういうシステムゆえにジェイクは、鏡に手をつける必要があったのだ。

 誰かが触れただけで、鏡はその血や魂までも選別する。

 素直に凄いと思う気持ちもあるし、薄ら寒くもあった。

「凛音様は、人間界への戻り方を知りたいのですよね?」

「は、はい! そうです!」

 自分の想像を絶することばかりで思考が追いついていなかった。ジェイクからそう切り出して貰って助かった。

「では、人間界への戻り方を――」

 どきどきと鼓動が音を立てる。

 まずはそれが最も重要事項。分からないことには何も始まらない。

 なのに――

 鏡にどーんと『ドヤ顔(あくまで主観です)』で映しされたのは、『検索中。後日お試しください』という文字のみ。

 そ……そんな……なんでちょっとハイテク風なの……?

「残念ながら、今は答えがでないようですね」

 言葉とは裏腹に、壇上で腰に片手を当てながらこちらへ振り返ったジェイクは、なかなかの笑顔だ。

 もしかして、こういう結果だと予想してたんじゃないだろうか。

 だから、敢えて訊いてくれたとか?

 ジェイクは良い人っぽいんだけど、何気に腹黒な気もして来たよ。

「えーと、それは……帰る方法がないと……?」

「いえ、まだ望みはあるかと。時が経てば、なにか情報が得られるかもしれません」

 また半泣きな気持ちになったけれど、当面は諦めなくて済みそうだ。

 ひとまず胸を撫で下ろす。でも――

「今頃……人間界では私や先輩がいなくなったって大騒ぎになっていますよね?」

「凛音様。『人間界からこの世界へ来る』というのは、『肉体そのものが来る』わけではないんですよ」

「……え?」

「昔の文献によると、『魂というエネルギー体』がこちらへ来ると、同じ肉体を具現化するんだそうです」

「……え……?」

 バカみたいに同じ『訊き返し』を繰り返してしまう。それくらい訳が分からない。

「つまり、人間界にはもう一人の凛音様と旭駿馬がそのまま存在していて、今まで通りの生活を続けているはずです」

「え、え、え、え、え――――――!?」

 そのワンワードを、連呼しても仕方ないと思う。

 そりゃあ、連呼ちしゃうよ~~~~~。

「いえ、『そのまま』というのは語弊がありますね。そもそもなぜ、凛音様と旭駿馬がこの世界に召喚されたか。元はこの世界の存在である魂を持っているからです。それが、人間界で生まれた魂と癒着していたのです。貴方は魔王の魂の一部を、そして旭駿馬は勇者の魂そのものを――」

「じゃあ……今人間界にいる私や旭先輩の魂って……?」

「本来のあるべき姿、人間界で生まれた純粋な魂のみとなった、凛音様であり旭駿馬です」

 いやいやいやいや、まってまってまって――――っ!

 じゃあ、お父さんもお母さんも、全く心配してないってことだよね!?

 小夏ちゃんときららちゃんも、明日からもう一人の私とお弁当食べるってことだよね!?

 う……じゃあ、私の存在って、一体……?


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