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好きだった人が突然勇者になっちゃって、私の命を狙ってきます  作者: うさたろう
第四章、デュクリアスの鏡とさまざまな事情
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○デュクリアスの鏡とさまざまな事情:3

 そこは城内の他の場所とは趣が違って、とても重厚な雰囲気の部屋だった。

 床はベージュの大理石、ものものしい彫飾りが施された壁や幾つも並んでいる大きな丸い柱も同系色。

 部屋の所々に置かれた背の高い金の燭台にも繊細な装飾がされていて、薄ぼんやりとした灯りで室内を照らし出している。

 だだ広い空間の最奥には赤い絨毯敷きの雛壇があり、その上の壁には映画のスクリーンの如く大きな鏡が据えつけられていた。

 やや縦長のその大鏡は、これまたゴテゴテとした彫飾りの金縁でおごそかな様相ようそうには年代の古さが伺える。

 雛壇より少し手前には落ち着いた朱色の豪華な横長ソファが中央にデンと置いてあり、左右には揃いの一人掛け用の椅子が長ソファを挟んで二つずつゆるい弧を描くようにして添えられていた。

「こちらが、デュクリアスの鏡です」

 壇上へ立ったジェイクは鏡の右端まで行くと掌でその大鏡を指し、長ソファにゆったりと腰を落ち着けていた私へ彼特有の柔らかい笑みを向けた。

 お風呂を済ませた後、私はジェイクに連れられてこの『デュクリアスの鏡の間』へやって来ていたのだ。

 この部屋を大雑把に表現すれば、まるで歴史のある映画館へ来たような気がしないでもない。

「古来より魔族に伝わるこのデュクリアスの鏡から、魔神デュクリアスの神託がなされます。私達魔族はその神託に沿って生きています」

 ジェイクの話を汲み取れば、いわば宗教社会といった感じなのだろう。

「魔王候補が選ばれた折も、このデュクリアスの鏡により候補者が知らされました」

「……鏡が教えてくれるんですか?」

「ええ、そうです。では少し、お見せしましょう」

 ジェイクは鏡の真ん中辺りまで歩を進め、鏡へと向かい合う。

 長身のジェイクでも頭が大鏡の下方をちょっと隠す程度だ。

 彼はおもむろに鏡へ手を付き、祈るように顔を伏せる。

 その背中からは気でも込めるように精神を集中させているのが滲み出ていた。

「――魔王候補を」

 鏡はジェイクが手を付いたその場所から水面に小石でも投げ込まれたような波紋を映し、それを二重三重へと広げて、最後には鏡全体がポワンと白く光った。

 ジェイクがこちらへと振り返る頃には光は消えて一旦黒くなり、次に鏡面にはパッとライアンの静止画が映し出された。

 映像の下方には、おそらく魔法陣に描かれていたのと同じ種類の古代文が浮き上がっている。

 けれどその文字は瞬時にゆらっと形を変えて私にも読める字となり、『ライアン・リンデグレン』とフルネームを明示した。

「……すごい……」

「まだ続きますよ」

 言いながらジェイクは、鏡の横手へと移動する。

 その後は同様に、ディオン、ルディが映し出され、最後には私が映し出された。

 一つ大きく驚いたのは、使われた私の映像が人間界の学園にいた時の制服姿の自分だった。


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