○デュクリアスの鏡とさまざまな事情:2
「お待ちしておりました、凛音様!」
サロンへ戻ると、ネリーがまた満面の笑顔で待ち構えていた。
そうだった。お風呂前まで付き添ってくれたジェイクに、『後でネリーに向かわせます』と言われていたのだ。
「あ、うん、ありがとう……」
何気に苦笑いでバスローブの前をきゅっと引き合わせる。
「凛音様ぁ~、新しいドレスを作ってきたんですよ。はい、こちらですっ!」
彼女は両手で抱えていた物を待ってましたとばかりに、ブサァリと大仰に広げる。
目前に晒されたのは、なぜかまたもや西洋風イブニング黒ドレスだ。
「……またドレス? もう晩餐会は終わったけど」
「お美しい凛音様には、いつもドレスをお召し頂かなくてはと思いまして!」
どうやらジェイクが言ったように、本当にこの世界の人達にとって、私はなかなかの『美人』に感じるらしい。女の子のネリーであっても、それは例外ではないようだ。
微妙な気持ちにはなるけれど、『不美人に見える』よりは遥かにお得だ。
「こちらは出来立てホヤホヤでございます! 私、はりきっちゃいました!」
そういえば、ドレスはネリーが魔力で作っていると、ジェイクは話していた。
自分の魔力の暴走を考えれば、思い通りに魔力を扱えるネリーは凄い。
「ねぇ、ネリー。そのドレスって、どんな風に作ってるの?」
私の質問にネリーは嬉しそうに二パッと笑う。
「私の場合はですね、材料が必要になります!」
「材料?」
「たとえば、お洋服の生地とかです。あとはデザインをイメージして魔法を発動させます」
「イメージするだけで、出来ちゃうの?」
「簡単な物ならイメージだけで出来る場合もありますが、凝ったものだと絵に描いたり型紙を作ったりすることもあります。切ったり縫ったりといった手間を魔法で補うといった感じですね」
ついつい、ほーっと、感嘆の息を漏らす。
「ネリーって、凄い……」
「いえいえっ! 私など!」
彼女は照れながらバタバタと片手を横に大きく振る。
「細かい所までは私の魔法では出来ませんので、手作りの部分も沢山ありまして……お恥ずかしいです」
ピンクのツインテールを揺らしてネリーが俯く。
細部まで気遣って作ってくれていたのだと知って、なおさら感謝の気持ちと嬉しさが増した。
「ありがとう、ネリー。喜んで着させて貰うね」
ついと手を出し、彼女がドレスを抱えている手の甲に触れるとネリーはパッと顔を上げ、すぐさまにんまりとほくそ笑む。
「ではでは! 次はぜひこちらを! 今度はですね、黒基調に愛らしさを加えようとピンクのおリボンを――」
一気にきゃぴきゃぴと話し出すネリーに、こちらは早くもたじたじだ。
あー、ちょっと、喜ばせ過ぎちゃったかも……。




