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好きだった人が突然勇者になっちゃって、私の命を狙ってきます  作者: うさたろう
第四章、デュクリアスの鏡とさまざまな事情
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○デュクリアスの鏡とさまざまな事情:2

「お待ちしておりました、凛音様!」

 サロンへ戻ると、ネリーがまた満面の笑顔で待ち構えていた。

 そうだった。お風呂前まで付き添ってくれたジェイクに、『後でネリーに向かわせます』と言われていたのだ。

「あ、うん、ありがとう……」

 何気に苦笑いでバスローブの前をきゅっと引き合わせる。

「凛音様ぁ~、新しいドレスを作ってきたんですよ。はい、こちらですっ!」

 彼女は両手で抱えていた物を待ってましたとばかりに、ブサァリと大仰に広げる。

 目前に晒されたのは、なぜかまたもや西洋風イブニング黒ドレスだ。

「……またドレス? もう晩餐会は終わったけど」

「お美しい凛音様には、いつもドレスをお召し頂かなくてはと思いまして!」

 どうやらジェイクが言ったように、本当にこの世界の人達にとって、私はなかなかの『美人』に感じるらしい。女の子のネリーであっても、それは例外ではないようだ。

 微妙な気持ちにはなるけれど、『不美人に見える』よりは遥かにお得だ。

「こちらは出来立てホヤホヤでございます! 私、はりきっちゃいました!」

 そういえば、ドレスはネリーが魔力で作っていると、ジェイクは話していた。

 自分の魔力の暴走を考えれば、思い通りに魔力を扱えるネリーは凄い。

「ねぇ、ネリー。そのドレスって、どんな風に作ってるの?」

 私の質問にネリーは嬉しそうに二パッと笑う。

「私の場合はですね、材料が必要になります!」

「材料?」

「たとえば、お洋服の生地とかです。あとはデザインをイメージして魔法を発動させます」

「イメージするだけで、出来ちゃうの?」

「簡単な物ならイメージだけで出来る場合もありますが、凝ったものだと絵に描いたり型紙を作ったりすることもあります。切ったり縫ったりといった手間を魔法で補うといった感じですね」

 ついつい、ほーっと、感嘆の息を漏らす。

「ネリーって、凄い……」

「いえいえっ! 私など!」

 彼女は照れながらバタバタと片手を横に大きく振る。

「細かい所までは私の魔法では出来ませんので、手作りの部分も沢山ありまして……お恥ずかしいです」

 ピンクのツインテールを揺らしてネリーが俯く。

 細部まで気遣って作ってくれていたのだと知って、なおさら感謝の気持ちと嬉しさが増した。

「ありがとう、ネリー。喜んで着させて貰うね」

 ついと手を出し、彼女がドレスを抱えている手の甲に触れるとネリーはパッと顔を上げ、すぐさまにんまりとほくそ笑む。

「ではでは! 次はぜひこちらを! 今度はですね、黒基調に愛らしさを加えようとピンクのおリボンを――」

 一気にきゃぴきゃぴと話し出すネリーに、こちらは早くもたじたじだ。

 あー、ちょっと、喜ばせ過ぎちゃったかも……。


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