○三王子ととびきり派手な宴:9
「わっ!?」
大きな青い瞳で弾丸の軌道を読み取ったルディがそれをかわすと、弾丸は、ドガンッ! と壁を突き破った。
「やっ……な……」
パニックになり、なんとかしなければと思ってもどうしていいか分からず、また意に反して目前に魔法陣が浮かんだ。
「ち、魔力が暴走してやがる!」
魔法陣が吐き出す弾丸のその横を掠めながら、ディオンがテーブルへ飛び乗って、私側へ飛び込んで込んでくる。
そしてガシリと私の両肩を掴み、二、三度強く揺さぶった。
「俺の目を見ろっ! 意識を集中しろ!」
まっすぐに見つめる彼の赤い瞳に視線を向けても、目の前が白くチカチカして意識が定まらない。
「だ、だめ……まわりが……よく、みえな――」
瞬時にまた、フォンと新しい魔法陣がディオンと私の間に浮かび上がる。
ディオンの顔が、金色に透けて光る魔法陣を通して見えた。
「――っ!」
お互い声が音にならない。容赦なく魔法陣がしなる。
グォンと空気の塊が飛び出るすんでに、ディオンが下へと頭を沈めてそれを避けた。
奔放に放たれた弾丸はまた壁を打ち砕き、闇夜に包まれた庭園の景色を露わにする。
「息しろ! 息! 深呼吸して気を静めろっ!」
再度顔を上げたディオンが真剣な眼差しを向け、必死に私を諭す。
「は……はっ……っ……」
言われた通りにやろうと思っても上手く空気が吸えない。
息苦しくて心臓がどくどくと激しく脈打ち、身体の中にどんどん熱が蓄積される。視界が虚ろになって頭がクラクラする。
「で、できな……い、いきが……ねつが……あつくて……」
「やれっ! 魔力をコントロールしろ! 熱を押さえ込め!」
お腹の奥に熱い塊を感じ、それが膨らまないようにと懸命に堪える。
でも気持ちとは裏腹に、またぶわりと熱が膨張してきて――
ザッパ―――――ン! バシャバシャバシャ―――――――――ッ!
突然、真上から激しい滝に打たれて、その水圧でディオン諸共床へと膝をつく。
ザバザバとたっぷり水浴びさせられた後、スッと嘘のように水が引いた。
髪や服からビシャビシャと大量の水を滴らせながら、向かいあって跪いているディオンと一緒に、緩慢な動きで頭上を見上げた。
透き通った光を放つ青い魔法陣が私達の真上で水平に浮かんでいて、白く青く明滅しながらくるんくるんと回っている。
……えーと、これは……やっぱり……。
「もう、熱は冷めたか?」
低くクールに響いた声色に視線を移せば、テーブルの向こう側に立っているライアンが『今、魔法陣出してそっちへ放り投げましたよ』的な感じで自分の頭の上に右手を上げていた。
……確かに、熱は落ち着きました。
ありがとうございます、助かりました。
ただ、助けて頂いてこんなこというのもどうかなとは思うんですけど。
もう少し――
「お前なぁ……もうちょっと手加減しろよ……」
ディオンが私の気持ちを継ぐように、やるせなさげな顔でライアンを軽く睨む。
だよね。なにもこんなに、滝みたくしなくてもいいよね。
首が軽く鞭打ち状態ですよ……。
でもライアンは眉一つ動かさず、また『なにが悪い』といった起伏のない顔だ。
「ご、ご無事でなによりです……」
少し先では、床に仰向けに転がったジェイクが苦笑いを浮かべている。
彼のお腹の上には、もうすっかり黒猫姿に戻ったオーフェスが身体を丸めてしっぽをパタンパタンと左右に振っていた。
――良かった。と、色んな意味で安堵の息を吐く。
ああ、でもっ!
そういえばルディは無事だったろうかと、バッと彼の方へと振り返った。
するとルディは、いつの間にか私とディオンのすぐ傍まで来ていて、軽く腕組みしながらこちらを半目の呆れ顔で見下ろしていた。
「凛音……お前……本当、バカだな」




