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○三王子ととびきり派手な宴:8

 なんか話題……なんか話題は……。

 こういう時、どうでもいい下らないことしか思い浮かばないのはなぜなのか。

 今、唯一思い付いた話題を一応振ってみる。

「あ、あの! あれ、なんでしょうかね? あのお風呂にいるヤツ」

「……風呂にいるヤツ?」

 ディオンが怪訝な顔をして、かすかに眉をひそめる。

 すみません、下らないこと聞いて。他に話題を思いつかなかったんですよ。

 素に戻るとこっぱずかしいので、敢えて明るく話し続ける。

「あの、なんかトラみたいな彫刻ありますよね? 口からザーッとお湯が出て来るヤツ。大きな角が二本あって、牙がにょーんと長くて。やっぱり、あれはモンスターなんですか?」

「あー、あれな。あれって、エルクフェンだろ?」

「エルクフェンだな」

 ディオンがライアンへ確認すると、ライアンは涼しい顔でキッシュを口に含みながら頷く。

「なに言ってんの。やっぱり、バカなんだね」

 そしてイチイチ意地悪な言い方をする小悪魔ルディ。

 むー、バカバカ言い過ぎだよー。このいじめっ子め。

「ご存じなくて当然でしょう。まだきちんとご覧になっていないのですから」

 すかさず、またフォローに回るジェイク。

 最初は怖かったけど、今は貴方だけが頼りですよ。

「あれだよ、あれ」

 ディオンが軽く握った右拳の親指だけを立てて、自分の後方をクイクイと指し示す。

 その先にいた黒猫オーフェスは自分が呼ばれたとでも感じたのか、丸くなっていた身体を起こすなり、その場でぴょんと飛んで一回転した。

 そして足が床に着いた時にはもう、真っ黒で大きな二本の角を持つトラほどの大きさになっていて、あのお湯を吐き出す彫刻と同じように大口を開いた。長い牙がギラリと光る。

 グガオォオオオオオッ!

 空気が揺れるような雄叫びに心臓が飛び出るほど驚く。

「モ、モンスタ―――――――ッ!」

 一気に動悸が早まると身体がカッと燃えるように熱くなり、息苦しさでとっさに椅子から立ち上がった。

「はっ!」

 喉元を押さえて息を吐いた刹那、目の前が一瞬真っ赤になり、次に青白い閃光が瞬く。

 ヴォンと電子音にも似た低音が身体の中から響いて来たかと思うと、自分の顔の真ん前に大きなお皿サイズの金色の魔法陣がふわんと垂直に浮かび上がった。

「な――」

 間髪入れずその魔法陣がこちら側へ軽くしなったかと思うと、どんっと鈍い音を立ててボーリングのボールほどもある空気の弾丸を打ち出す。

 弾丸はヴンと猛スピードで黒いモンスター目掛けて飛んでいった。

 すんでの所でモンスターが身を翻し弾丸を避けると、それは窓へと突き当たり、ガシャーン! と派手な音を立てて窓ガラスを粉々に砕いた。

 と、同時にモンスターはダンと前足でフロアを蹴り、ギャオと敵意の籠った牙を剥き出しにして私へと飛び掛かって来る。

「きゃっ」

「オーフェスッ!」

 黒い獣に襲い掛かられる直前で、隣にいたジェイクが横からそれに飛び掛かり、モンスターと一緒にどかっと右横へと飛び転がる。

 ――オーフェス。そうだ、あれはさっきのあの黒猫なんだ。

 頭では判断がついたのに、身体の熱はますます高まり、また目の前に魔法陣が浮かぶ。

 金色に輝く古代文字のようなものが施されたそれは、ゆらりと回転し始めた。

「落ち着け、凛音! 気を静めろっ!」

 ライアンの声が聞こえたが、魔法陣はまたもや弾丸を吐き出し、今度はルディの方へと飛んでいく。

 

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