○三王子ととびきり派手な宴:7
程なくして前菜を食べ終えると、次のお料理が運ばれて来た。
二番目の前菜といった感じで、今度は色んな物が少しずつ乗っている。
凄いなー、フランス料理のフルコースってこんな感じなのかな。
怖かったり哀しかったり不安だったり、目まぐるしい一日なのに、お腹って空くんだな。まぁ、それはそれでなんか幸運なような、切ないような。
とにかく、しっかり食べておくに限るよね。いざという時の為にも。
ところが、またお皿に見慣れないものが乗っていた。
茶色とピンクのは、多分なんかのパテだ。それとキッシュと生ハムは分かり易い。
試しに生ハムを食べてみると、すこぶるおいしい。
塩味の加減とまったりしつつしっかりとお肉の味がする。今まで食べた中でも、一番といえるほどだ。
でももう一つ、でろーんとした緑色のジャムみたいのが乗っているのだ。
スライスしたパンが添えられているので、塗って食べろという感じなのだが。
「あの……これ、なんですか?」
またもやこのジャムみたいなのを指差して、隣のジェイクへ訊いてみる。
「ああ、リリークですよ」
「え……リリークって……?」
「スライムの一種です」
「スライム!? って、あのよわっちぃモンスターの!」
「食用ですから、大丈夫ですよ」
いやいやいやいや。食用とかそういう問題じゃ――
いやぁ、やっぱりいるんだ、モンスター! しかも食べたりもするんだー!
そうだよね、似て非なる世界なんだね、異世界って……。
「味は敢えて例えるなら、イクラといった感じですね。おいしいですよ」
言いつつジェイクが、それをパンに塗ってぱくりと口に入れた。
また実食してみせてくれた……。
けど、安心して食べるとか出来ないから! 今回は!
「人間界でも、生で食うもの沢山あるだろ?」
ライアンが『なにが気に食わない』とでも言いたげな顔をする。
「な、生なの!? これ!」
「そりゃ、そうだ。イクラを煮て食わねーだろが」
ディオンも当然といわんばかりに説明するが、それはなんか全然違うと思う。
「モンスター、食べられないの?」
カトラリーで生ハムを切り分けながら、ルディがそう訊いて来た。
オーフェスはルディ達の後方にある大きな窓に掛かった赤カーテンの下で気持ち良さそうに丸くなっている。
「た、たべたことないから……抵抗があるというか……」
「今、食べてたじゃない。これ、ソレティっていうモンスターの燻製だよ」
ルディが自分のフォークに突き刺して翳したのは、生ハムだと思ってたヤツだった。
ぎゃ! マジですかっ!?
たべちゃったー。知らないうちにたべちゃったよー、モンスター。
「ふ、ちょっとバカなんだね」
ルディがまた不敵な笑みで言い、
「バカというか、抜けてるというか」
ディオンが追い打ちを掛け、
「思慮が浅いな」
ライアンに冷たくいなされる。
三王子……慣れない異世界で苦労してる者に対して……言いたい放題ですか……。
「ですが、凛音様はとてもお美しいでしょう?」
――と。脈略なくジェイクがそんな妙なフォローを入れて来た。
ぎゃぎゃ! なんでそんなこというの!? 笑い飛ばされるよ!
けれど予想に反して、王子達は一瞬にして顔を赤らめ、それぞれに目を逸らした。
……なぜにそこで赤くなる? しかも、すごく分かりやすいツンデレ風に。
するとジェイクが、ついと私の頬へと顔を寄せて来て囁いた。
「凛音様は、この世界では大層お美しいです。特に白いお肌に映える艶やかなその黒髪は、魔族にはとても魅力的なのですよ。私もうっかり、みとれてしまうほどに」
ち、近いですよ……ジェイク……。
また、貴方の吐息が耳に掛かってくすぐったいというか、私には刺激が強過ぎますので……。
それにしても……異世界補正(と言っていいのかどうか)が、凄すぎる。
ここでは私、結構いい感じに見えるらしい。
おう! なんて、ありがたい!
でも普通に暮らして来た私にはそういうのは慣れないので、妙な沈黙に誰も口を開かないこの空気に耐えられなくなってきた。




