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○三王子ととびきり派手な宴:4

 王子達は躊躇いなくおのおのにサラダを口に運び出したが、特に変わった様子もなく普通に食べている。

「次に、凛音様から向かって左側のお席にいらっしゃるのが、ルディ王子」

 ジェイクはそれが自分の仕事だと思っているのか、前菜に手を付ける様子もなく話を続けるので、私もひとます彼に合わせてフォークは手に取らずにおいた。

 紹介された金髪王子へ目をやると、彼はふとカトラリーを動かす手を止めて零れんばかりの大きな青い瞳で私を見た。

 わー、綺麗というか可愛いというか、ビスクドールみたいだよー。

「もし付けたければ、僕には『様』をつけてもいいよ」

 わー、なのに、このちょっとイラッとする口ぶりー。

「お歳は凛音様より一つ下の十六歳になられます。母君はウェルテン家のご息女ダリア様ですが、現在はマスカーニ伯ラッセル・ゲルレーヴ様に嫁いでおられます」

 うん、この際、今はその辺の名称は覚えないことにするよ。

 でもこれで、謎が解けた。

 彼らは母親が違うようだ。だから、見た目がこんなにも大きく違うのだ。

 この分だと恐らく、黒髪王子の母親も別の人だろう。

 一夫多妻制か……。正室と側室とかそんなんですよね。さすが、魔王。

 そういえば、さっきジェイクも『世継ぎを残すのが魔王にとって最も大切な仕事の一つ』とか言ってたし。

 前魔王、色んな意味で頑張ったんだなー。

「ルディ様もライアン様と同じく、ひと月ほど前にこちらのリンデグレン城へお戻り頂きました。それまでは、ウェルテン家にお住まいでした」

 ルディは割と一般的な『ぼっちゃん』という感じだろうか。

 でも義理のお父さんがいるという家庭事情は、ちょっとだけ複雑なのかもしれない。

「凛音様、どうぞ召し上がって下さい」

 前菜に手を付けない私に気づいたらしくジェイクがそう勧めてきたので、もう一度お皿に目をやる。でもやはり、花型の野菜が気になる。

「これ、なんですか?」

 ハーブの上にちょこんと乗るそれを指で示しながら小声でジェイクに尋ねると、彼は自分の手にしたフォークで「これですか」とその花型野菜を突き刺した。

「ニアミアという野菜です。きゅうりや瓜に近い味ですよ」

 言いつつジェイクが、それをぱくりと口に入れた。

 実食してみせてくれたようで、安心して彼と同じように口に入れてみると、言われた通りの味で、きゅうりより水分が少なく甘みが強い。

 ドレッシングが柑橘系のフルーティなものだったので、相性もすこぶる良かった。

「ホントだ。なかなかおいしいです」

「それは良かったです」

 ネリーが言ったように異世界とはいえ共通する部分も確かに多い。

 ちょっとした海外旅行へ来て、その国にしかない野菜を堪能しているんだと思えば、幾分気も楽なる。

「凛音はさ、どんな魔法が使えるの?」

 いきなり金髪王子がちょっと不躾ぶしつけな感じでそう訊いて来る。

 自分には『『様』を付けても良い』などと言っておきながら、貴方は私を呼び捨てですか。

 しかも年下なのに~。

 だったら、私も『様』を付けません。決定。

 そんな強気の決意の後だけれど、返答は弱々しい声になってしまう。

「魔法……全く使えないです……」

 すると他の王子達も驚いたような顔でパッとこちらを見た。

 ほらー、やっぱり。魔法使えないのに魔王候補とかって、無茶なんだもんー。

「凛音様は、まだ魔力が覚醒されていないようです。色々お調べしないとなりませんが、徐々に魔力は開花すると思いますよ」

「へぇ、初代魔王ゲールハルトの魂の欠片を持った魔王候補に、どれほどの魔力があるのか見物だね」

 ジェイクのフォローをサラリとやり過ごし、ルディは右手で頬杖を突きながら不敵な微笑みで私を流し見る。

 そんな顔すらカッコ可愛いのがしゃくだ。

 随分と棘のある言い方するなー。ちょっといじめっ子ですか。

 ルディは見た目の天使っぽさと相反したわがまま意地悪タイプといった感じだ。

 ――ギィイ!

 そこで不意に大広間の扉が重厚な音を響かせて開き、全員が同時に扉へと目を向ける。


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