○先輩と異世界に来たけど拉致られました:1
「……あ……れ……?」
私が回想に耽っていると、急に目が覚めたらしい先輩がむっくりと起き上がる。
おおぅ!?
驚いてびくっとし、私も飛び跳ねる勢いで身を起こした。
「あれ……え……なに? 俺、一体……?」
髪に芝を付けたまま寝ぼけ眼で、キョロキョロと辺りを見渡す旭先輩。
あうー、可愛過ぎる~。かっこいいのに可愛いなんて反則だー。
しかしうっかり見とれていて、カチリと先輩と目が合った。
寝起きのせいか先輩は潤んだ瞳で私を見つめている。
踊り場の続きのようなドキドキ感が蘇って来た。
「せ、先輩……大丈夫ですか?」
「…………せんぱいって?」
「え?」
お互い芝生の上にちんまりと座り込み膝を寄せ合って見つめ合う。
先輩の透き通った青みを帯びた茶色の瞳が見開かれている。
「……キミは、だれ?」
…………え?
えええええ―――――――――っ!?
「俺は……あ、あれ……? 俺って……俺の名前って……? ていうか、俺、いままでなにしてたんだっけ?」
う、うそ……先輩……き、記憶ないの?
でも、いきなりこんな見知らぬ場所にいるんだから、そういうダメージあっても可笑しくはないんですよね。
だけども、私はどっこもなんともないんですよー。
いやいや、だから! まずはなんでこんなところにいるのかってこと!
実は薄々そうかも……とか、頭の片隅で思っていたのだけれど……。
やっぱりそうなんだろうか?
だって周りはのどか過ぎるし、あの西洋風の建物が――
ついと建物の方へ目を向ければ、その方角から馬が数頭こちらへ向かって走って来ている。
ドッドッドッドッドッ!
馬達が土を蹴る音が小さな地響きを伴い、騎乗にいる人達の衣装も徐々にはっきりと見えて来る。
……ああ、やっぱり……。
ああいう服、見た事ある。映画とかアニメとかゲームとかで。
まさに中世ヨーロッパ風の騎士衣装風だ。格好良いとは思うけど、リアルで見ると慣れない分ちょっと引く。
えええ。ということは、これは、やっぱりあれなのかな。
最近稀にあると聞く、異世界トリップ?
「ねぇ、あのさ……あれってなんだろ?」
馬達の方を目配せして、旭先輩が不安げな顔で私を見る。
ですよね、お気持ちよく分かります。私もかなり不安ですよ。
「なんでしょう……でも、こっちへ来るみたいですよね」
先輩は「うん」と頷いて、また馬達の方へと視線を戻した。
心なしか先輩が私より少し前へ動いたので、不審者から私を庇おうとしてくれているのかもしれない。
先輩ってば、なんて優しい……。
もし異世界トリップならば、あの人達はもう既になにかが分かっていて、私達を迎えに来たんだろうか。
だったらあの人達と上手く交流出来れば、話は流れのまま進んで行くのだろうけど。
とにかく、あの人達が良い人達であることを願うしかない!