○三王子ととびきり派手な宴:2
「凛音様をお迎えに上がった際に関しては、全て私の責任です。申し訳ありません」
隣のジェイクがこちらへ身体を向けて頭を下げる。
「い、いえいえいえっ!」
慌てて手をぶんぶん横に振ってジェイクを制すると、彼は頭を上げて微笑む。
「あの時は人間の騎士達がいたので、少々手荒になりました。こちらも危険を負っていましたので、陽動作戦を講じたんです。なにせ、旭駿馬という勇者がいましたからね。幸い覚醒したばかりで、まだ戦闘は無理だったようで助かりましたが」
あの時の私としては、先輩と同じ立場のつもりだったので、今こうして魔族側から聞く話には複雑な気持ちになる。
「だったら、その時ついでに勇者も仕留めれば良かったんじゃないの?」
突然そんな言葉を投げ掛けて来たのは、黒髪王子の隣に座っている金髪王子だ。
彼だけは、あの昼間の騒動の時にはいなかったので、今が初対面となる。
金色の髪は巻き毛でふわふわ、大きな瞳は突き抜けるような空の色で、お人形みたいに見事に整った顔立ちだ。
衣装は他の王子と同じくクラシックな王子服。白を基調として金や青の差し色が入っている。
年は他の王子達より少し若く、恐らく背も一番低いだろうか。
まさに金髪碧眼の天使といった容貌なのだが、彼も魔族の王子で且つ魔王候補。
そして、内面の魔族っぽさを表すような口から出る言葉の辛辣なこと。
全く、先輩に対してなんてこと言うのよー!
「まずは、凛音様の奪還が最優先でしたので。勇者の能力も未知数だった為、戦闘は避けました。うかつに仕掛けて、無駄に勇者の覚醒を速めては元も子もありませんからね」
金髪王子は「ふーん」と適当な相槌を打つ。
自分から話題を振っておいて、興味があるのかないのかわからない素振りが、可愛くない。見た目はあんなに可愛いのに。
そこで話が途切れたタイミングを計ったように、給仕係が私の前にオレンジジュースっぽいものを運んで来た。
でも私以外は皆、細長いグラス入った透明で炭酸の飲み物が配られている。
「ここではアルコールに年齢制限はありませんが、凛音様のものは、一応オレンジジュースにしておきました」
なんとそんな細やかなところまで、ジェイクが気を利かせてくれたらしい。
すみません。お気遣い助かります。
「シャンパンの方がよろしければ、ご用意させますが?」
「いえいえ! オレンジジュースがいいですー」
「そうですか。もし他にも何かありましたら、どうぞご遠慮なく」
いつもの柔らかい笑みを浮かべながら、ジェイクがシャンパンで喉を潤す。
彼のその優雅な仕草は違和感を覚えるほど凄くさまになっている。
私も彼にならってオレンジジュースに口をつけたところで、ふと思い当たった。
ジェイクは皆と一緒にこの席についているけれど、普通は従者的な立場の人は王子達とは一緒に食事をしないのではないだろうか。
最初から感じていたけれど、ジェイクには普通の従者とは違うなにか特別な雰囲気が漂っている。
そんな疑問に思考を巡らせながらもう一度チラリとジェイクの方を見ると、視線に気づいたのか彼もこちらを見た。
「どうかしましたか?」
「い、いえ……」
訊くには失礼な気がするし、私的にはもうジェイクに慣れて来ていて、彼が一緒の方が落ち着くので隣にいてくれたほうがいい。敢えて訊かなくても――
「ああ。私、いつもご一緒させて頂いてるんですよ。構いませんか?」
しかし勘が鋭いジェイクには、一瞬で悟られてしまった。
ていうか、銀髪王子の言うように私の顔を見たら、やっぱり丸分かりなんだろうか。
「も、勿論です!」
逆に私の方が『ここに混ざっていいんですか?』と訊きたいくらいなんですよー。
「ジェイクは、一応王族だ」
場の空気を読んだのか、そうフォローしてきたのは向かいの黒髪王子だ。




