○リンデグレン城と厄介な事実:11
「お昼に野原で見た、火とか水とか使うあんな魔法なんか、到底私には出来ないですし」
「まだ魔力が覚醒していないだけだと思います。少し時間は掛かるかもしれませんね」
「いやー、でも、私はそういう器でもないですし」
「魔力が高い者が自然と選ばれます。ご心配には及びません」
「いえ、でも、私は女ですし?」
「魔王の魂の欠片を持っているのですから、性別などなんら問題にはなりません」
お互いで笑顔を向け合っているのだが、ジェイクは余裕の笑顔で、こっちは完全に苦笑いだ。
うー、手強い。
「凛音様、先ほども申し上げましたが、リンデグレン家を支えるのが私の使命です。勿論、他の魔王候補の方々は素晴らしいのですが、私の立場としては、出来れば貴方に魔王を継いで頂きたい」
遠回しにごちゃごちゃと説明しなくても、ジェイクはちゃんと私の気持ちを分かっている上で、敢えて私の意志を退けているのだ。
「……でも、私は出来れば帰りたくて……」
「そのお気持ちは、私も一応分かっているつもりなのですが……」
私がやや目を下げると、ジェイクもさっき部屋でもやっていたようにゆるく伸ばした人差し指を唇に当てて視線を床に落とした。
彼の立場と私の希望は、相容れない状態だと私にも分かる。
「あ、でも。もし魔王に選ばれなければ、私は帰れるんですよね?」
パッと顔を上げてジェイクへ希望の眼差しを向けると、今度は彼が苦笑いをした。
「魔王候補になって、魔王に選ばれない者は、魔王補佐となります」
――衝撃の事実だ。
思わず、ガクリと肩を落とした。
はすかいにこちらを眺めているジェイクも、さすがに申し訳なさそうな顔をしている。
「え……じゃあ、私はどうなっても帰れないんですか?」
気持ちはもう半泣きだ。
すがるような瞳でジェイクを見ると、ジェイクはまた苦笑いになる。
「いえ、帰る方法が分かって、その時の権力者の許しがでれば可能かと……」
「え!? ジェイクにも人間界への帰り方は分からないの!?」
「はい、残念ながら。私は単に、リンデグレン家に仕える補佐人のような者ですので」
えええええっ!? それも衝撃すぎる! ど、どうすればいいの!?
「ですが、今はまだ時空は繋がっていますので、方法は探せば見つかるかもしれません」
「今はまだ……?」
ジェイクがついと目線で私の左手首を指した。
彼の視線に誘われるようにして左手首の内側を表に向ければ、そこには星型の痣が鮮明な朱色で刻まれている。
「これって……人間界との繋がりを示す痣……」
「そうです。その痣が出ている間は戻れるはずですので、後でデュクリアスの鏡に訊いてみましょう」
おお、そのデュクなんとかの鏡とやらは、そんな事も出来るとは!?
ジェイクは『私が帰れない方が良い』と考えていそうだと感じていたけれど、あながちそうでもないのだろうか。
「それに凛音様ご自身が魔王になれば、『権力者の許し』という問題もクリア出来るかと思いますので、どうぞ、まずはぜひ魔王に」
……なるほど……そこへ繋がる訳ですね。
「一時期でも魔王になって頂ければ、私も報われます。その間に世継ぎを残して下されば、早目の魔王退任も可能かもしれません」
「世継ぎ!?」
「魔王にとっては、最も大切な仕事の一つですよ」
いや、マズい……。
これは本格的にマズいよ~~~~~~。




