○リンデグレン城と厄介な事実:10
ジェイクさんと一緒に部屋を出て、ジャルードの間と呼ばれる大広間へと向かう。
もう言うまでもなく、廊下もゴージャスだ。
基本どこでも白い大理石がベースになっていて、明るく清潔感溢れるヨーロピアンとか古代ローマとかギリシャとか、そんなのが混ざった雰囲気なのだ。
そこへ所々にウッドのクラシックな物も置いてあったりして、バンパイア系っぽい魔族らしさをも演出している。
もちろん、本人達は『魔族らしさを演出しよう』とは思ってないのかもしれないけど。
長い廊下の真ん中には金縁の赤絨毯がずっと向こうまで敷かれていて、その上をジェイクさんと肩を並べて歩いていた。
晩餐会の広間では他の人達がいるはずので、今の内にさっきお風呂場で考えていた内容に沿って意志表示をしなければと気合を入れる。
「あのっ! ジェイクさん!」
歩きながらに、気迫をもってジェイクさんへグイと上半身を向けた。
「凛音様、私に『さん』は必要ありませんよ」
「……え?」
しかしいきなり笑顔で別の話を振られて、呆気なく気を削がれてしまった。
「どうぞ、『ジェイク』とお呼び下さい。私は貴方の僕なのですから」
「しもべ……」
「私の血筋であるモランディ家は代々、この初代魔王ゲールハルト様直系のリンデグレン家に仕えて参りました。ゲールハルト様の魂の欠片を持つ凛音様は、私にとっては命に代えてもお守りすべき主君です」
ジェイクさんのエメラルド色の瞳が、私を真っ直ぐに見つめている。
そんな人生賭けたような熱心な眼差しを向けられると、『私、魔王とかなりたくないんです~』なんて言い辛くなる。
なので、ワンクッション置いてみる。
「あ、じゃあ! 私も『様』は無しでいいです!」
「いえ、そういう訳には参りませんので」
「でも……ジェイクさんは、私よりは年上ですよね?」
「え、ああ! あはは! もちろんです。私はもう二十五歳ですよ」
思っていたよりも上だった。見た目の雰囲気では二十二、三歳頃だ。
「貴方は魔王の魂の欠片を持つお方。堂々としていらして下さい。そしてどうぞ、私を『ジェイク』とお呼び頂ければ幸いです」
柔らかい微笑みだけれど、意志は固そうだ。
「わかりました……ジェイク」
頷いた私へジェイクがとびきり嬉しそうな顔を見せたので、こちらも思わず和んで微笑み返してしまう。
――いやいや、和んでいる場合じゃないから!
「ところでですね、ジェイクさん」
「――『ジェイク』」
「……え?」
「『ジェイク』ですよ。凛音様」
「あ、ああ、はい。……ジェイク」
「はい、なんでしょう?」
素の表情で指摘した後の、この満面の笑み……。ギャップにほっこりしてしまう。
あっと! 早く話を進めなきゃ!
「いえ……あのですね。私が魔王になるとかどうかという話なんですが……どう考えても、私には魔王なんて無理だと思うんですよ」
「どうしてですか?」
ジェイクさん――、いや、『ジェイク』が子犬のように小首を傾げる。
そんな二十五歳、アリですか……?
しかし私もここで引けない。




