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好きだった人が突然勇者になっちゃって、私の命を狙ってきます  作者: うさたろう
第二章、リンデグレン城と厄介な事実
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○リンデグレン城と厄介な事実:5

「こちらが、サロンになります」

 メイドさんに連れられて来た場所は、浴室の前室となるらしい。

 要するに脱衣所なのだろうけれど、さっきまでいた部屋と同じく白亜仕様で豪華なことこの上ない。

 床も壁も白ベースの大理石で、ふかふかクッション付きの白い籐製ソファセットに、繊細な彫模様の施されたこれまた白い猫足のガラステーブル。幾つもあるデザイン違いの真っ白なクローゼットに、ドレッサーや長椅子やスツール、そして額縁付の大きな鏡や装飾品の数々。

 それらの全てがロココ調で統一されている。

 魔族は『黒』ってイメージだったけど、そう単純でもないんだなぁ。

「そして、この扉の奥が湯殿になります」

 ちょこんと小首を傾げた彼女が、薔薇模様の擦りガラスで出来た大きなスライド扉をバスガイドさんみたいに掌で示した。

 彼女のピンク色の髪はツインテールにされていてちょうど肩に掛かる長さ。大きな茶色の瞳に舌足らずな話し方。メイド服は濃紺で白い襟袖と白エプロン付き。

 いかにも萌えキャラ風の彼女は私より一つ年下の十六歳で、名をネリー・スーレアというらしい。私のお世話係なのだそうだ。

 よもや、世話係がつく身分になろうとは夢にも思わなかった。

「ああ、はい~。ありがとうございます~」

 当然慣れないのでお嬢様っぽくも振る舞えず、愛想笑をしながらこちらも敬語になってしまう。

「凛音様、私がお背中をお流しいたしますね!」

 ぴょんと一歩前へと飛び出て来たネリーへ私は掌を向けて制する。

「い、いえ! お構いなくっ!」

「これも私の仕事ですので! どうぞお気遣いは無用です!」

 それでもネリーは自分の両手を胸の前できゅっと組んで瞳をキラキラとさせる。

「い、いいええぇ! ホントにお気持ちだけで! 全然! 全然大丈夫なのでっ!」

 誰かに背中を流して貰うとか全然いらない。お風呂は一人で入る主義だ。

 頑強として拒否の意思を示すと、ネリーが酷く残念そうな顔でしょんぼりする。

「そうですか~。楽しみにしてたんですけどね~。ざんねんですぅ~」

 なぜに、楽しみにしていたの……? そっちのが謎だし、怖いよ……。

 とはいえ、彼女はさっきからずっとこんな調子で、とても明るくて愛想がいい。

 年も近いし女の子同士というのもあって、話しているとホッとする。

 魔王城にこんなに可愛い女の子がいるとは……。

 どうやらここは、私が想像していたおどろおどろしい場所でもなさそうだ。

「タオルやバスローブ、ガウンなどはあちらのクローゼットにも常備しておりますし、凛音様がご入浴なさっている間に、お着替えと一緒に凛音様専用の物をご用意してこちらのクローゼットへ入れて置きますので、お好きな物をお使い下さいませ」

 もうニコニコ笑顔になったネリーがそう説明しつつ、右や左のクローゼットを掌でピシリピシリと指し示す。

「また、いつでもご入浴なさいます時には、どうぞ私にお知らせ下さいませ。お着替えの準備からお背中流し、お肌のお手入れ、マッサージ、お化粧と御髪の結い上げまで、全て誠心誠意心、お尽くし致しますっ!」

「よ、よろしくお願い致します……」

 お風呂に入るだけなのにこの物々しさ……。今後は出来るだけこっそり入ろう。

「凛音様がリンデグレン城に来られた時も、ずぶ濡れで気を失っておられたので、私がお体を拭いてお召し替えをさせて頂いたのですよー」

「あ、そうだったんですね。その節はありがとうございます」

「お肌がとーっても白くてすべすべでたわわな黒髪が綺麗に映えて、それはそれはお美しくてぇ! ぜひ今後もお肌のお手入れなどお手伝いしたいんですぅ」

 ……今後は出来るだけ、気を失わないようにしよう。

「で、本日のお背中流しは?」

「だから! いらないってば!」


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