○リンデグレン城と厄介な事実:4
衝撃過ぎる! あり得ない! 好きな人に命を狙わるなんて~~~~~!
それにジェイクさん、サラッと言い過ぎだからっ!
「しかし、私共が鈴音様をお迎えに行った際、旭駿馬は鈴音様を庇っているようでしたから、彼らはまだ鈴音様が魔王候補であるとは気づいていなかったようですね」
「うー、そうだった……みたい……です」
まだ衝撃から立ち直れずに生返事をしてしまう。
「幸いでした。お迎えが遅れてしまい心配していたんです。もし気づかれていたら、その場で危うく屠られるところでした」
『屠られる』って、『殺される』ってことですね。
この人は、またあっさりそんな怖いことを……。
ジェイクさんってば、柔らかいタッチで切れ味鋭いですよー。
「あの騎士さん達の話だと、旭先輩が召喚された時、私は単に巻き込まれたんじゃないかって……」
するとジェイクさんが、はははと声を立てて笑う。
「いえいえ、まさか」
「……違うんですか?」
「私共も凛音様の所在が分かった後、この城へと何度となく召還を試みておりました。ところが上手くいかない。それは勇者側も同じだったのでしょう」
「先輩側も……?」
「先方も勇者の生まれ変わりをクレーバール城へ召喚していたはずです。ところが実際には、境界地区に当たるリロマルク原野などに飛ばされてしまった。貴方と一緒に」
ややこしいキーワードは、ひとまずスルー決定。
今は大筋だけを把握して、後で必要になったら詳しく訊いた方が良さそうだ。
「原因は凛音様と旭駿馬の存在が近い場所にあったからかと。人間界とこちらの時空を繋げるのに、『双方にとっての異物が近くにあったせいで歪が生じていた』といったところでしょうね」
「じゃあ、先輩達はまだ私が魔王候補だと気づいていない……?」
「いえ、クレーバール城に戻った後にはなんらかの確認が取られて、もう周知されているでしょう。魔族であるこの私共が、派手に貴方を連れ去りましたしね」
う……。じゃあ今頃は、旭先輩は私を敵だと認識してるんですね……。
「そういえば、旭先輩は記憶を失ってたみたいなんです。人間界にいた頃の」
「おや、そうですか」
「どうしてだか、分かりますか?」
ジェイクさんはゆるく曲げた人差し指を唇に押し当てて考え込む。
「うーん、あくまで私の見解としてですが……。恐らく、こちらの世界に召喚された際に勇者として覚醒したからかと……」
やっぱり、ニコラスさん達が言ってた通りだ。
「もしそうだとしたら、先輩の記憶は戻るんでしょうか?」
「そうですね……そればかりはなんとも……。元々、旭駿馬の魂そのものが、勇者ジュラルド・ウェンディラムですから。勇者としての姿が、本来の旭駿馬といえますし」
……そうですか。
ジュラなんとかさんというのが、たぶん初代勇者様のお名前なんですね。
はい、そこはなんとか把握しましたよ。
「人間界でのかりそめの姿である旭駿馬としての存在が、どこまで勇者として覚醒した彼の中に残るのかは、定かではありませんね」
そ、そんなぁ! 哀し過ぎる……。
旭先輩と一緒に過ごした日々は? あの階段の踊り場での話の続きは!?
全部……全部、なにもかも……先輩はわすれちゃうの?
ああ、なんてこと……。
つい、がっくりとうなだれると、ジェイクさんがつっと斜め下から顔を覗き込んで来た。
「凛音様、お疲れでしょう?」
優しく響く声色と、少し心配気げに柔らかく微笑む彼に、うっかり絆されそうになる。
でも、こんなに優しそうなジェイクさんなのに、魔族なんだよね。
てゆーか、私も魔族らしいんだよね。
それで、旭先輩にとってのラスボスになるかもなんだよね。
ははははは。うー、もう、笑うしかない。
「まずは、ご入浴とお着替えでもして下さい。さっき濡れてしまいましたしね」
濡れたってレベルじゃなかったですけどね。
その前には火あぶりにもされそうになったけどね。
思い返せば、あんな風に火や風や水を操ったりするのが、きっと『魔力』とかいうヤツなのだ。
ゆえに彼らは『魔族』なわけで――
「それから、お食事にしましょう。お話の続きはその後で」
まだまだ色々聞きたいことはあるけれど、既に頭はパンク状態で、私もひと息つきたい。
こくりと頷くとジェイクさんはまた優しく微笑んで、『湯殿へ案内させる』とメイドさんを呼んでくれた。




