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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: 高槻

 血がつぅ、と手首をなぞり冷たい床に落ちてゆく。 

何かを忘れたかったのだろうか。それとも何かを伝えたかったのだろうか。

どちらも叶わぬことと知りつつ、私はまた手首を刃物で引いた。

山の泉にぽとりと落ちた血は、波打って消えて行く。赤い水跡を残しながら、それは綺麗に消えて行った。

わたしの感じる痛みなど瞬間的なもので、ただ赤い血がだらりと落ちるのを見て私は虚無感の中に居るのである。

愛してもらえない侘しさと愛し方を知らない虚しさが交互に胸の中で光るけれど、それは蛍の光のようにか細く捕まえられない。けれど諦めるわけにもいかないので、私はまた空虚に手を伸ばす。

蛍、蛍よ。ニンゲンでありながらニンゲンではない私を嘲笑え。ニンゲンにはなれない私を憐れんでくれ。ニンゲンの考え方の出来ない私に同情してくれ。

せめて化物ならよかったのに。けれど割り切れぬこの朝露に濡れた蜘蛛の巣のようなか細い希望が化物になることを恐れている。

まだ私は幸せになれると私は刹那の祈りを捧げている。

蛍よ、せめてお前のようにナニカというものであれたのならば、幸せだったのかもしれぬ。

 嗚呼、口惜しい。口惜しい。何故私は存在しているのか。

あと何十年と生きねばならないのか。蛍よ、私の命をその露を舐める舌で舐め取り、受け取っておくれ。そうでなくては私は口惜しくてたまらぬ。

今生での理不尽が口惜しくてたまらぬ。どうか私を死なせておくれ、蛍よ。



美代は明け方の明星と呼ばれるほどに美しかった。ただ、ナニカが欠けていると村人達は知っていた。年頃の女としての美貌、聡明さ、品のある佇まい、どれをとってもすぐに婿がやってきそうな女であったが、決して彼女に触れる者はいなかった。

彼女はいつも、呪を纏っていたからである。生まれたその日に母が死に、生まれて一週間で父が死に、と、美代は多くの死を纏っていた。引き取った家に必ず不幸が降った故に12の時、村人達は彼女を狐の祠にある地蔵の前に捨てた。それで村の中で死ぬものはいないと考えた結果であった。

しかし何の因果か、彼女は生き伸びた。木の根を食べ、泥水を啜って、押しつぶされそうになる暗闇の中で生きていた。そのうちに地蔵のある祠を中心に、山に入るようになった。山には木の実や水があり、木の根よりは美味だった。そうして山の中で暮らすうちに、美代は山の中の掟や、獣のあしらい方を学んでいった。尤も、美代にあまり近づきすぎると、美代の持つ邪の香を嗅ぎつけたのか、獣は逃げて行った。12つの頃に来ていた紅色の振り袖はところどころ擦り切れ、もはやただの彼女の肌を隠すための布でしかなかった。

14のとき、美代は山に入った村人が落とした鈴を拾った。それは錆びてはいたが十分な鈴の音を鳴らし、獣を追い払える事を知った。それからというものの、美代は山神に供えられた供物を食べ、村人たちが忘れたかのように落としていくものを身につける様になった。山にいる獣も、もはや美代を食うことを諦めた。そうして美代はいつの間にか、獣のようでいて、人間ではない、ナニカになっていった。

美代は獣すら近づかない洞窟を見つけ、そこを塒と決めた。行き倒れた村人の抱えている衣服をはぎ取り、冷たい岩の上にかぶせ、火を起こす事も覚えた。美代は独りで生きて行く事にだんだんと慣れていき、同時に自分の邪が濃くなっていくのを日に日に感じ取っていた。



その頃もう美代は歳を数えるのをやめていた。いつものようにアケビの実を齧りながら山道を歩いていると、少女の泣き声が聞こえた。火のついたような、必死な鳴き声だった。釣られるように美代がそっと木陰から少女を見ると、赤い半纏を被る少女の顔は真っ赤で、涙はとめどなく溢れた。そんなに泣いたら枯れてしまうのではないかと心配になる程に泣いていた。しかし美代は自分の姿を見る。人間でもなく、獣でもない自分が少女に何を云うのか。しかも人間と対話をすることなどした試しがない。捨てられた頃は覚えていた言葉も、今では無用の長物として捨ててしまっていたのだ。しかしその時、美代が首から下げていた鈴がりん、と鳴いた。その音で少女は美代のいる木陰を振り返る。まるで救われたかのようにほっとした少女の顔に、美代はこの少女を村へ返さなくてはと思ったのだ。例え捨てられたようでも、単に迷っただけだとしても、枯れそうな程に涙を流す少女はこの森にいてはならない存在だと感じた。そして森にあまりに近づくと、狐に食われる可能性も十分にあった。狐の餌にしても美代は全く困らない。けれど帰りたいと泣き叫ぶ少女を置いて去るほど、美代はまだ達観してなかったのだ。

木陰を縫うようにして移動し、村への道にたどりつくと、また鈴を鳴らした。少女はもう泣いてはいなく、ただ美代の鳴らず鈴の音を追いかけた。草履が必死に鈴の音を追う。少女はもう、泣いては居なかった。それよりも救われた鈴の音に置いていかれるほうがずずっと恐ろしかったのかもしれない。

「あなたはだあれ?」

少女は美代を追いかけながら問うたが、美代は答えずにりん、とまた鈴を鳴らした。

あなたはだあれ?美代はわたしが問いたいと思った。わたしは何者なのか。わたしの存在はどこに許されるのだろうか。どこに行けばわたしは幸福という名の甘美な空間にいられるのだろうか。美代は何度も自問自答したが、結局ただ単に森の中で死ななかった呪いを持つナニカでしかないという結果で終わるのだった。

少女の足に合わせて随分遅く木陰を歩き、鈴の音を鳴らした。何度も少女は、あなたはだあれ、どうしてここにいるの?と問うたが、美代は何も云わなかった。答えられる答えが無かったのが本音であろう。わたしは美代よ、わたしに纏えば死ぬのよ、と心の中で想いながら、美代はそれでも鈴を鳴らした。

随分歩いただろうか、二人は人の足で出来たけもの道まで来た。美代はまた木陰に隠れ、最後にりん、と鈴を鳴らした。ここまでくれば、村の誰かが燃やしている木々から立ち上る煙が上がっているのが分かる。少女はわあ、と歓喜の声をあげ、美代を探そうとした。しかし美代は何も云わずに立ち去った。鈴を握り締め、音が出ないようにそっと逃げたのだった。

しかし数日後、村は葬儀を上げていた。何故かと思い山を通りすがった村人の話によると、先日助けた少女が山から帰って以降、高熱に苦しみ、全身が真っ赤に腫れあがり、そうして苦しみながら死んでいったそうだ。まるで美代の呪いのせいだ、と村人達は呟いた。しかしもう一人の村人は、いや、美代は死んだはずだ。何年も前に森に捨てたのだ、飢えて死ぬか、獣に食われるかしたに違いない、と反論した。そんな議論を聞きながら、美代は烈しく後悔した。まさにその通りだった。美代に関わった者はそうして死んでしまう。

少女もまた美代の邪に当てられたのだ。わたしが余計なお節介をしたせいで少女は死んでしまった。いくら離れていたとしても、姿を見せなかったにせよ、美代に関わった人間は死んでいく。いっそ狐にでも食われてしまった方が少女の為に良かったのかもしれない。痛い思いをするのは一瞬だ。そうして狐は真っ赤に滴る柔らかい血肉を食べられただろうに。それ以降、美代は人がいれば逃げる様に森の奥に隠れて行った。時折聞く村の話を聞こうと彼らに近づくのも止めた。これで良かったと美代は思う。

人と関わり死んでいく自分の性より、押しつぶされそうになる孤独の中で手を握り締めるほうがずっと楽だった。せめて自分が死ねばよかったのに、と美代は呟く。けれど美代はどんなに願っても死ねなかった。森で生きて行く運命を受け入れなければならなかったのだ。



最近、とんと雨が降らなくなった。美代としては身体が冷えなくて済むので、このまま雨の降らぬ日々が続けば良いと悠長に考えていた。しかし村は違ったのだ。

雨の降らぬ事は田畑が育たぬ事。よって、烈しい飢饉が村に押し寄せた。村人たちはある歌を歌いながら、老人を背負って森に来るようになった。最初は一月に三、四回程度であったが、日に日に頻度は増し、老人は山の奥の岩山に打ち捨てられるように投げ出されていった。

老人の中には、恩を忘れたのか、裏切り者めと背負う若い倅を叩いたり、どうか捨てないでおくれと無き縋る老女もいた。しかし村人は歌を歌いながら、老人を次々に山に捨てて行った。その大半は、飢えて死ぬ前に狐や熊に食われた。

「悲しみの日に 眠るのは

 それは穏やかな老人

 これは幾度の四季の中

 優しく生きていた

 神よ願わくば

 ゆるりと死なせてくれ

 まどろみの中のように

 羊水の中で眠れるように 」

 いつしか村人達が口ずさむこの歌を美代は覚えてしまった。意味など大して分からぬ。しかし村人たちはまるで経を唱える様に、この歌ばかりを歌いながら老人を山に捨てて行った。美代は老人の最後の持ち物である着物や簪を取り、それを身につけた。擦り切れて古い香りがしたが、美代はそれで十分だったのだ。

ある、こんな日があった。それは寒い冬の日で、美代はねぐらにしている洞窟の中で火を焚いていた。食糧としてかき集めた木の根はまだあり、また山神への供物も異臭がしたがまだ食べられる。いつもの冬の日だった。しかしその日、若い男が泣き咽びながらいつもの歌を歌いながら雪の山道を歩いているのが聞こえた。やれ、また捨てるのか、と思い放っておこうと火に木をくべた。雪がやめばなにか良いものが得られるかもしれないという打算もあった。しかしいつまでも若い男が泣いているので、いい加減耳障りになり、洞窟から出た。男は美代の居る場所からでも見える山道を歩いていた。背中には老女を背負っていた。美代は面白い、と思った。役に立たぬ老人を、飢饉で己が生きる為に捨てる男に邪を当てれば、それはさぞかし面白い結果になるのではないかと思ったのである。

「ごめん、ごめん、ごめんなぁ…」

男はしきりに謝っていた。歌はいつしか止み、背中に背負う老女をしかと背負い、鳴き咽びていた。けれどこれから捨てられる老女は嫌がりもせず、ただ愛おしそうに男の背に乗っていた。最後の人の温もりを覚えていられるようにと、老女は男に背負われていた。

しかしあまりにも男は泣いている。昔鈴の音で導いた少女のように顔を赤くして、涙すらも凍りそうな雪道を、老女を背負いながら歩いていた。そっと美代が追いかけると、丁度いつもの捨て場に男は老女を置いた。

「ごめんなぁ、母ちゃん…母ちゃん…――これ、最後の米だ。食ってくれ」

そういって笹の包みを老女に渡そうとしたが、老女は皺の多い顔をくしゃくしゃにして笑った。

「それはあんたが食べんしゃい。骸に米があったってしょうもないんね」

「……母ちゃん。 守ってやれなくて、ごめん」

「気にすることはないけん。あんた、私を捨てなければ村八分にされるとこだったんだべ。丁度いいさ。最後にお前の顔を見れただけでも婆ちゃんは幸せだよ」

そうして渡された笹の包みを大事に男の手に握らせた。男は泣きながらその最後の笹包みを懐に入れ、立ち去った。涙は半分凍り、頭は真っ白だった。美代は男が見えなくなるまで見た後、老女のすぐ近くの茂みに隠れた。老女はどこか諦めたような、それでいてほっとしたような顔で牡丹雪をながめていた。このまま老女は雪と共に眠るのだろう。独り孤独に死ぬのだろう。せめて捨てられたのがこの冬で良かったと美代は思った。獣はいないし、この寒さならば数時間もすれば老女は楽に死ねるだろう。

美代は、久しぶりに聲を出した。

「悲しみの日に 眠るのは

 それは穏やかな老人

 これは幾度の四季の中

 優しく生きていた

 神よ願わくば

 ゆるりと死なせてくれ

 まどろみの中のように

 羊水の中で眠れるように 」

いつも村人が歌う歌だった。美代は喉を震わせ歌を歌う。

老女はその歌を、妖のものだと思ったのだろうか。静かに目を閉じた。そうして、美代に問うた。

「御嬢さん、あんたの聲は綺麗だね」

美代は歌うのを止め、茂みの奥から老女を見つめた。

「よかったら、ここにきてくんしゃいな。独りは寒ぅくて、手が冷とうなっとる」

美代は何も云わずに立ち上がり、老女の頭を膝に乗せ、手を握った。凍えて震えている手に対して、老女の顔は穏やかだった。美代は老女はどうせ数時間で死ぬのだから、邪を纏った自分が近付いた所で関係無いと思ったのだ。

「老人の出来る最後の子供んための仕事だからね、きちんと死なねばならん」

そうして老婆は目を閉じた。美代は凍える手を握り締めながら、歌を歌った。ひとつしか知らない歌を歌った。

「優しい聲だねぇ…」

そうして老女は、雪に埋もれたまま、息を引き取った。美代は老女の顔にかかった雪をはらい、そのまま目を閉じた。美代が生まれて初めて見た、邪に関係の無い死だった。それは穏やかな死だ。苦しむことも、痛がる事もない。ただ自然に身を任せ、雪に体温を食われながら穏やかに死んでいくのだ。

わたしも雪なら良かったのに、と美代は思った。しかし美代の邪も雪が体温を食うように相手に対して徐徐に食って行くのと同じだと思った。そうか、わたしは雪なのか、と美代は思った。邪が命を吸い取って行く。それは雪と同じく、今まで忌々しいと思っていた生まれ持った邪でさえ、愛おしく感じた。それはきっと、老女の死に顔があまりにも穏やかだったからだ。



美代は最近、自分が恐ろしいものだということを痛感し始めた。長い冬のうちに春が来て雪の止んだ山道を獣が歩くようになった。美代は近づかない獣に、自ら近づいてみるのだ。すると美代の気配を感じて獣たちは逃げて行く。それをどこまでも追いかけて行った。そうしてするりと捕まえて、抱きしめる。獣は抵抗するが、美代は力を込めて獣を抱きしめた。そのうち獣は悶え苦しむようになった。口からは血を流し、身体は痙攣していた。もはや美代から逃げれず、苦しみ、血を吐きながらそれでも動かない身体を動かそうとする。美代はそれが愉快でたまらなかった。

そうして最後には悶絶した顔で死ぬ獣をみて、はっと自分のしたことを思い出す。そして己の持つ残虐性に後悔と光悦を感じたのだ。

こうした癖がついた始まりは兎だった。春に野兎が駆けまわっている姿を見て、どうしても追いかけたくなったのだ。全身の血がみなぎるのを感じた。美代の存在に気付いた野兎は文字通り脱兎のごとく走り去ったが、美代はその野兎のみに神経を集中させた。それをすることで獣がどこに行くのか、大体分かり始めていた。血が騒ぐ程身体中から熱を感じ、美代は逃げた兎を追いかけた。兎と鬼ごっこを始めた訳だが、どんなに逃げたとしても追いかけてくる美代に兎はつかまってしまった。襟首を掴むと、走った後の爽快感と興奮が溢れた。そうして美代は兎の柔らかい首筋に歯を立てた。まだ暖かい兎の体温、暖かく新鮮な血肉。美代は兎にかぶりついた。興奮しながら、毛皮を毟り取り血肉を貪った。首は血で汚れ、肉もそれほど美味ではなかったが、逃げて行くものを殺してしまいたいという欲求だけは満たされた。以来美代は、自分が何か恐ろしい存在だと自覚しつつ、動物を縊り殺していたのだ。仕留めた獲物は洞穴に持ち込み、火で炙った。それはなかなかに美味だった。こうして美代の邪は強くなるばかりであった。




ある夏の暑い日、木陰で獲物を探している最中に女性が通りかかった。綺麗な簪と美しい着物を着た女性を見た美代は、この女の持ち物が欲しい、そう思った。だからこそ、女性をめがけて走り、蹴り飛ばした。一瞬女は訳のわからないという顔をしたが、その直後美代に首を折られてしまった。美代は女性の着ている着物を纏い、美しい装飾をした簪で伸びた髪を結った。まるで昔話の姫のようだと自己満足した。死体はそのまま捨てておいた。そうすれば狐や他の動物達が食いちぎってしまうだろう。

 この日始めて美代は、利己主義的な欲求をいうものの為に動いた。美しい着物を纏い金色の簪を刺したその日から、美代は布切れしかない衣服ではなく、美しい自分を着飾るものを手に入れた。それは素晴らしい満足感だった。



こうして美代はだんだんと姿を姫に、心を修羅へと変わって行った。欲しいものあるのならば手に入れる。たとえどのような形であれ。要らない物は山に捨てた。肉片だろうが血肉だろうが、欲しがっている獣たちはたくさんいたからだ。そうして美代はいつしか伝説的な存在になった。山に女が出る。やれ、恐ろしや。美代の祟りではあるまいか。そんなことが村中、噂になっていた。

ある、暑い日の夕暮れ、村に行った。美しい着物に簪。最初は誰もが道に迷った哀れな女性として見つめたが、村の真ん中に来て、美代は笑った。

「あはははははははははははははははははは」

美代は笑った。

「あはははははははははははあああはははっはははははは」

美代は笑った。

「あはははっはあははっははははははははっははははっは」

瞬く間に村は沈むかのようにぼとりぼとりと人は膝を付いた。

目の前にいる若者が見つめているので、美代は笑いながら近づいた。

「ねぇ、怖い?怖い?怖い?怖い?怖い?」

稚拙な言葉使いで美代派笑った。

「死んじゃうんだよ、怖い?怖い?怖いよね、あははははははっははははは」

若者は口から血を流して事切れた。

村は地獄絵図と化し、それでも美代は笑った。笑い続けた。




数刻経った頃、空はもう暮れていた。美代はそのまま、村の外れにある池に行った。そこには蛍が見事に飛んでいた。それを見て、美代はどこか虚無感を覚えた。

どんなに獣や人を苛めたって、私はこのような綺麗な光にはならないのだわ。

美代はそう思った。

懐から小刀を持ちだすと、首筋に当てた。

ぴりっとした痛みと共に、血が溢れた。

その血を見て、美代はああ、私は汚れていると感じた。

美代はそのまま池に入った。蛍は輝きを忘れどんどんと沼に死骸として落ちてきた。そのまま美代は目を瞑って沼の中に入って行った。

いつかまた生まれ変われるのなら、蛍になりたい、と、思った。

それは声にならず、ごぽりと空気だけが水面を揺らした。


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