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第6話 ペアとぼっち

 さて今日を乗り切れば休日だ。

 慣れない女ばかりの学園で、そろそろ精神的にもじっくり休みたいところで、明日の休日が待ち遠しくてたまらない。


 教室についていつも通り恵に挨拶をした。相変わらず来るのが早いな。

「昨日はメールありがとうね。しかし驚いたね」

「ああ、俺もビックリだよ」

「でもよくあの東別院さんと仲良くなれたね。彼女の庶民嫌いは有名だったのに」

「ん~、いや口は悪いけど実際そこまで嫌ってるようには思えなかったぞ」

「そうなの?」

「ああ、多分前に言ってた嫌がらせ事件から引くに引けなくなってたんじゃないかな。そいつ個人にはまだ恨みを持ってるかも知れないけど、庶民全般を恨んでるようなことはないと思う」

「そうかもね、じゃあヒロくんがきっかけで素直になれたんだね」

「いや素直かどうかはわかんねーけどな」

「ヒロくんも十分素直じゃないね」

「なんだと、俺ほど素直な人間はいないぞ」

「確かに食欲には素直だったよね。だからって昨日みたいに食べ過ぎておなか壊しても知らないよ」

「うっ、まあ確かにアレはなかったな。もう二度としないように反省した」

 キーンコーンカーンコーン。

 おっとチャイムか。真面目に勉強しますかね。



 それは三時間目の英語の授業の事だった。

 ついに恐るべき時間が来てしまった。そう、ぼっちにとって地獄のような時間が。



「じゃあペアになって英会話をしてください」



 ペア。それはぼっちにとっては避けて通ることの出来ない忌まわしき記憶。

 小学校3年生以降、なぜか俺は周りに避けられる事が多くなった。変な噂によって次第に友達と呼べる人が居なくなり、特に女子生徒にはなぜか避けられた。

 当然ペアを組む相手もおらず、毎回はやく時間が過ぎるのを願っていたものだった。

 その度に思ったものだ、なぜ教師はペアを強要するのだろうか。しかも自由に組ませるとは言語道断である。職務放棄するなと言いたい。

 あぶれた奴らの気持ちを考えろと小一時間ほど説教をしてやりたいところである。

 またあぶれた者同士で組むときの気まずさや、さらにそこでも組めなかったときの絶望。

 そして最終的に誰も組む者がおらず、教師とペアを組まされた日にはもうライフはゼロよ状態。


 これに似たものとしてキャンプファイヤーにおけるマイムマイムもある。特に女子の数が男子よりも少なかった時の悪夢は思い出したくもない。


 話が逸れたが、ついに高校生活が始まって順調だった俺に試練の時が来てしまったようだ。


 だが恐るるに足らず! 今の俺はベストフレンドの恵様がついているではないか!!

 そう、やつだって男だ。きっと慣れない女生徒のクラスメイトより、このクラスで自分以外では唯一の男子である俺とペアを組むはずだ。

 さあ、今こそペアを組もうぞ心の友よ。


「白石君、ペアを組んでくれませんか?」

「あ、私もお願いしたかったのに。ね、私と組んでくれませんか?」

「ずるい~、抜け駆け禁止ですよ~。私も~」


 あれ、なんだか大人気なんですけど。

 いや、きっと俺を選んでくれるはずだ!


「あはは、参っちゃったな。じゃあ今日は最初に声を掛けてくれた朝霧さんにお願いしようかな」

「やったー。勇気出してよかったよ」

「じゃあ今度は私ね」

「えー、今度は私とだよね?」


 あっれー?

 あっさりと女の子と組んでるんですけど。メチャクチャ楽しそうなんですけど。というか俺の存在なんて忘れてるんですけど。


 ふっ、所詮人間の敵は人間なんだ。俺はそっと心の中にあるいつか復讐するリスト|(9冊目)にそっと名前を記した。


 さて現実逃避している間にどんどん周りにペアが出来ていく。一番あてにしていた恵に裏切られた今、心当たりにあるのは一人しか居ない。そう、副学級委員である俺のパートナー、瑞季さんである。

 よし、ここは勇気を出して誘うしかない。コレがダメなら今日は一人休んでいるために、必然的に先生とになってしまう。


 そして意を決して席を立とうとしたときに声を掛けられた。


「そこの庶民のヒロ、私とペアを組みなさい!」


 見上げるとそこには東別院かおりが居た。




「一体全体どういった風の吹き回しだ?」

「ふんっ、昨日の仕返しですわ」

「し、仕返し? 俺何かやったか?」

「自分で考えなさい!」

 うむー、どうやら昨日のやり取りがお気に召さなかったようだ。

「そういえば昨日の子猫には名前を付けたのか?」

 そう聞いた瞬間、満面の笑みを浮かべた。

「ええ、ピッタリな名前を付けましたわ。名前を『ヒロ』にしましたわ」

「ちょ、なに人の名前を付けているんだよ!」

「あの子は人間のヒロとは違って非常にかわいらしいわ」

「そりゃようございましたね」

「ふふ。さあ、始めますわよ」

 このお嬢様はどうやら根に持つタイプのようだ。


 結局ボコボコにされました。流石はお嬢様、海外旅行なんてしょっちゅうだから発音の流暢な事。どうやらいいストレス解消になったらしく、また今度もペアを組んでくださるそうです。

 ちなみに先生と組んだのは意外なことに瑞季さんだった。学級委員のためあえて先生と組んだのかな?




 昼休み、いつものメンツで昼食と摂っていた時だった。

「黒田くん、いつの間に東別院さんと仲良くなったんですか?」

「いや仲良くはないと思うぞ。さっきだって散々な目にあったし」

「いえ、東別院さんがその、普通の方とおしゃべりしている所なんて初めて見ました」

「ただのストレス解消だろ。そういや恵、よくも裏切ってくれたな!」

「え、何のこと?」

「とぼけるな、親友である俺を差し置いてさっさと他の女の子とペアを組みやがって!」

「えええ~、だって誘ってくれた子に悪いじゃない」

「むっ、確かにそうだが」

「それにボクはてっきり瑞季さんが誘うと思ってたから遠慮したんだよ」

「えっ!?」

「はい、私もはじめはそのつもりでした」

 えええっ、驚愕の事実!

「声をお掛けしようとしたら、東別院さんとペアを組まれてしまいましたので、お二人をずっと見ていました。その後、気が付いたら私一人だけ残ったので先生とペアを組むことになりましたけど」

 学級委員の責任感からじゃなかったのかい。とはいえ悪いことをしてしまったな。

「悪かったな瑞季さん。今度機会があれば是非組んでくれ」

「はい、その時は宜しくお願いしますね」

 よかった、これで今度ペアの授業があってもぼっちにならなくて済むぞ。

 と、その時は東別院の事などすっかり忘れて瑞季さんに返事をしていた。


 さて席に戻って早速スマホを見てみた。

 実はあれからも鞍馬とメールでやり取りすることが頻繁になり、休み時間のたびに色々返信をしていた。

 もっとも実際に会うと全然喋らないんだけどね。

 しかし鞍馬は実質クラスに男子一人の状態でよく平気だな。こっちは見た目はアレだけど、一応男が居るからまだ平気だけど。

 あっ、この前メールで書いていたっけ。三次元の女に興味がないって。ということは所謂二次元が至高な人種なんだろうか。だからこそ耐えられるのかね。


 そうして本日も授業が終わった。この日もまた副学級委員としての仕事がやってきてしまった。

 今日は新瑞先生とふたりで集めたアンケートの集計作業。

「仕事を手伝って貰ってごめんね~」

「いえ、いいですよ。どうせ家に帰るだけですし。それにこれでも副学級委員ですからね」

「ううん、助かるよ~」

「しかしこのアンケートって全クラスでやってるんですか?」

「うん、そうだよ~。今年男子生徒が入ってきた3クラス全部でやってるよ。やっぱり学園としてはどんな影響があるのか知りたいしね~」

「なるほど、確かにそうですね」

 そういえば先生にずっと聞きたいことがあったんだった。

「あの、先生。ちょっと不躾な質問をしてもいいですか?」

「うん?」

「先生って実際には小学生だったりしますか?」

「ふへ!? せ、先生は立派な大人です!」

 頬を思いっきり膨らませて先生が怒っていた。うん、かわいい。

「ほら、これを見てください、運転免許証です」

「最近のおもちゃはよくできてるな~」

「ち、違います。本物です」

 ますます頬を膨らませる先生。うん、さすがにこれ以上弄るとかわいそうだな。

「はははっ、先生冗談ですよ。しかし本当に成人してるんですね」

「ううっ、人一倍気にしてたのにぃ」

 やばい、本気で落ち込んでいる。

「すみません、余りにも見た目が幼かったもので」

「いつも言われるんです。これでも今年で24歳なのに」

 そりゃ信じられないだろうな。俺も年齢を聞いても信じられないもん。

「だ、大丈夫ですよ。これから成長する可能性も」

「適当なことを言わないでください! 毎日身長を測ってるのに去年より0.5mm小さくなったんですよ!」

 ちょ、伸びずに縮んだのかよ!

「いや、先生多分計ったときの誤差ですって。大丈夫、ちゃんとカルシウムを摂って運動して十分睡眠を取れば」

「やってるもん。毎日牛乳飲んで、ここに来るのにも自転車だし、ちゃんと9時には寝てるもん」

 9時に寝るって小学生かよ。いや、今時の小学生でももっと遅いはず。

「あー、つかぬ事を聞きますがご両親も先生と同じような感じなんですか?」

「お父さんは普通だよ。でもお母さんは・・・・・・やっぱり小さい方かな」

「具体的に言うと?」

「背は私よりもちょっと大きいくらい」

 遺伝か? とにかくここは慰めなければ。よしここは理論のすり替えだ。

「そうですか、ですが大丈夫です。先生には教師として立派な志があるじゃないですか」

「ふぇ、そ、そうかな?」

「はい、この学園に来て先生の凛々しい姿に感銘を受けました」

「ほんと? えへへ~照れるな~」

 チョロい。だけど助かった。

「あれ? そういえば最初委員を決めるときに居眠りしてた私に・・・・・・黒田く~ん、あの時はよくもやってくれたわね~」

 ヤバイ地雷を踏んだ。

「ははっ、いやあまりにも先生がかわいらしくてつい」

「か、かわいいっ。せ、先生をからかうんじゃありません!」

 うむ、なんだか妹みたいでかわいいな。そんなことを思いながら集計を続けていった。


 そろそろ6時というところでやっと終わり、なぜか先生と一緒に帰ることになった。

 そういえば駐輪所に駐まっていた謎の子供用自転車の持ち主は先生だった。うん、似合ってるんだけどね。

「自転車通勤ということは先生の家は近いんですか?」

「はい、実は自転車で5分なのです」

 近すぎ。それ自転車じゃなくても徒歩でいいんじゃ?

「滅茶苦茶近いですね」

「やっぱり職場に近い方が便利です」

 この分だとさっき言ってた運動の部分が圧倒的に足りてないのじゃ? いやこの体だからすぐスタミナ尽きそうだししょうがないのか。

 どうやらそんな考えが顔に出たらしく、先生は俺の顔を見ながら言った。

「これでもここに通っていたときよりは大分体力がついたんですよ。学生時代なんて、50m走ったら倒れそうになりました」

 それから考えると確かにめざましい進歩かもしれない。

「って先生ここの卒業生だったんですか?」

「実はそうなのですよ~。通っていたときの恩師に憧れて教師を目指したんです。残念ながらその方は2年前に定年退職されてしまいましたけどね」

「へ~。ん、ということは先生もお嬢様!?」

「確かに家はそれなり大きいですけど」

「よくご両親が教師になるのを許してくれましたね」

「確かに最初は反対されましたけど、私は三女ですしなんとか我が儘を聞いてくれたんですよ。もっともこの学園以外なら無理だったと思いますけど」

「ここはセキュリティが厳しいですし職場としては安心でしょうね」

「はい。それに今住んでいるマンションまでの通学路もカメラで安全なように監視されてますし」

「え、そうなんですか」

「この学園は、ほとんどの方が車で送り迎えされてますからね。予めナンバーが登録されている車以外が近付くと警備員に通報が行くようになっているんです」

 すごいな、流石はお嬢様学校。

 自転車を手押ししながらそんなことを話していたらあっという間に先生が住んでいるマンションの前に着いてしまった。うん、見るからに超高級マンションだな。

「ではまた来週ですね。今日は手伝ってくれてありがとうね」

「いえいえ、また何かあれば言ってください。では」


 そういって別れて自転車に跨がり家に向かって走り出した。

 しかし子供先生が本当に大人だったとは。いや当たり前なんだけどね。

 なんにせよ先生の年齢の疑問が解決してよかった。これでぐっすり眠ることが出来そうだ。



ストックががが

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