第4話 遊園地に誘え
『東別院香織を遊園地へ誘え』
この一文を見た瞬間、俺は慌ててスマホを手に人が少ない校舎裏に移動した。
「おい未来、一体これはどういうことだよ」
--------------------------------------------
『うん? 君が彼女を誘うだけの簡単なお仕事じゃないか』
--------------------------------------------
「それが簡単ならこんなこと言わねえよ。彼女居ない歴=年齢をなめんな!」
--------------------------------------------
『寂しい人生を送ってるね|(TдT)』
--------------------------------------------
うっせえ、余計なお世話だ!
--------------------------------------------
『ここはボクに任せてくれたまえ。ボクの指示通りに動いてくれたら大丈夫だ』
--------------------------------------------
本当かよ? しかし現状話すことすら無理な状況を知らないからな。
「待ってくれ、東別院について今日あったことを話すから」
その後、全く相手にされてない現状について説明をした。
--------------------------------------------
『ふむ、なかなか困難な状況だね。まずは普通に会話できるようにならないとお手上げだね』
--------------------------------------------
全くその通りだ。会話すら出来ないのに遊園地に誘うなんて論外だからな。
「で、どうするんだ?」
--------------------------------------------
『う~ん、流石に会話すら拒否なんて想定外だったからねえ。今ボクに出来ることは彼女のパーソナルデータを教えることぐらいかな』
--------------------------------------------
個人情報か。特に知っても会話できないんじゃ役に立ちそうにないな。
--------------------------------------------
『まず上から79・58・80だね。最近胸の発育を気にしてお風呂上がりに毎日マッサージをしているみたいだ』
--------------------------------------------
「おい、それ本当なのかよ!」
それより今のサイズが本当だとしたらあいつ盛りすぎだろ。制服姿だと普通に胸があるように見えたのに。
--------------------------------------------
『ボクの情報収集能力を舐めて貰っては困るよ。あと毎朝牛乳を350ml飲んでるね』
--------------------------------------------
すげえ、無駄にすげえ。
--------------------------------------------
『あとは最近はヨガなんかも取り入れてるみたいだよ。努力家だね~』
--------------------------------------------
しかしこんな情報を知っても「胸を大きくする方法を教えてやるよ、異性に揉まれると大きくなるぜ」なんて言ったら即セクハラで捕まりそうだよな。実際迷信だし。
--------------------------------------------
『後は6ヶ月前にペットの猫が増えたみたい。どうも彼女は猫が好きみたいで、中等部に迷い込んだ猫を引き取って家で飼っているみたい。今は5匹の猫がいるみたいだよ』
--------------------------------------------
猫好きか。俺は犬派だけど。
しかし意外と優しいところもあるんだな。まあ今はこれ以上聞いても活かせそうにないからいいか。
「もういいよ、とりあえず明日から会話できるように頑張ってみるよ」
そうしてアプリは終了した。
しかしこれは思った以上に大変そうだ。
教室に戻って野郎共の登録が終わりスマホを鞄に入れようとしたときに瑞季さんに声を掛けられた。
「黒田くん、番号とメールアドレス教えて?」
女の子からこんな事を聞かれたのは初めてだ。
感動に打ちひしがれているところに「毎年みんなに聞いてるんだ」という追加の言葉に凹んだ。
まあそれでも等価交換ということで彼女のメアドと番号をゲットできたので大満足である。
その後何事もなく授業が終わり、さて帰宅するかと思ったときに恵に呼ばれた。
「ヒロくん、今日暇かな?」
「いや特に何も用はないが」
「実はね、昨日姉さんにヒロくんの事を話したら是非会いたいって言われたんだ。よかったらこれから生徒会室に行かない?」
弟にこんな格好をさせる変態姉か。どうもよくない予感がするな。しかし恵と友達でいる限り、いつまでも避けては通れないだろう。しかも厄介なことに生徒会長という権力者に位置するからな。ここは覚悟を決めて会いに行くか。
「ああ大丈夫だ、じゃあ行こうか」
「うん、ありがとう」
「ところで恵の姉さんはどんな人なんだ? おまえが女装ならもしかして男装でもしてるのか?」
「ううん、姉さんは普通だよ」
「そうか。言いにくいことなら答えなくてもいいんだが、なんでそんな格好をするようになったんだ?」
「ん~、物心付いたときからだから習慣なのかな。多分姉さんに憧れて格好を真似し始めたんじゃないかと思うよ」
色々複雑な家庭事情でもあるのかね。そんなこんなで生徒会室の前まで来てしまった。
ドアをノックし「お姉ちゃん連れてきたよ」と言って恵が中へ入っていった。ここは相手を刺激せず無難に乗り切るしかないな。意を決して中へ入っていった。
「やあ、ようこそ生徒会へ」
中に入ると恵をそのまま大人にして、さらに体付きを色っぽくしたような人が待っていた。
「初めまして。弟が世話になっているね。私が恵の姉である、白石雪だ。よろしく頼むよ」
「黒田ヒロです。恵のクラスメイトでこちらこそお世話になってます」
そういって頭を下げた。
「ははは、そんなに畏まらないでくれたまえ。恵は見ての通りの格好なので、なかなか友達が出来なかったんだ。よければこれからも仲良くしてやってくれると嬉しいな」
「いえ、こっちも恵がクラス唯一の男子ですからね。それに恵のおかげで他の女の子達となんとかコミュニケーションを取れてますし、有り難いです」
この会話を聞いて、えへへ~と恵が照れていた。
しかし思ったよりまともそうだな。
「立ち話もなんだからこちらのソファーで座って話そうか」
そういって側のソファーを勧めてきた。
「おっと、恵すまないがどうやら茶葉を切らしてしまっているようだ。悪いがカフェテリアに行って買ってきてくれないか」
「うん、いつものやつでいいんだよね」
そういって恵は生徒会室から出て行ってしまった。
……これはワザと追い出したな。ということはここからが本番か。手のひらに汗を感じながら正面の生徒会長と対峙した。
「さて、黒田ヒロくんだったね。君は恵とはどこまで進んだんだい?
「へ? いや普通に電話番号とメールアドレスを交換しただけですけど」
「なんとそこまで進んでいるのか! 少し目を離した隙にもう連絡先まで入手しているとは」
なんだろう、この会話の微妙なズレは。
「いやクラスメイトですし普通だと思うのですが」
「ふむ、そうやって恵から聞き出したんだね。だが、私が居る限り恵は渡さない!」
間違いない、この姉はシスコンだ。
「いや俺にその気はないですよ、至ってノーマルです」
ジトーーーといかにも疑っていますという目で俺の顔を見ながら
「そうかい。ならばこれ以上深い仲にはならないように忠告をさせてもらおう。いざとなれば生徒会の全権力を使って君を追い詰める!」
「そんな気ありません!」
と言い争っているところに恵が戻ってきた。
「あれ、もう姉さんとヒロくん仲良くなったんだ」
「ああ、もちろんだとも」
「・・・・・・あはは」
俺は疲れ果てて乾いた笑いしかでなかった。
結論。恵の姉は極度のシスコンで変態でした。
なぜかその後、姉である白石雪のメールアドレスと電話番号まで交換させられた。
登録名は変態シスコン姉としておくか。
なんだか迷惑メールや電話が掛かってきそうだ。いざとなれば着信拒否すればいいか。
その時はそんな風に軽く考えていた。
ふう今日も一日お疲れ様っと。
部屋に戻って制服を脱いでやっと落ち着いた。
変態シスコン姉にこれから粘着されるのかと思うと気が重いな。
おっとスマホを充電しなければ、と机の上の充電器に繋げようとした時にメールの着信に気付いた。
--------------------------------------------
メール着信・・・・・・152件
--------------------------------------------
な、まさか奴か!
慌てて送信者を見るとやはり変態シスコン姉だった。
とりあえずメールを開封せずに全部削除。そしておもむろに恵に宛ててメールを作成。
--------------------------------------------
タイトル:友達の姉がこんなに変態なわけがない
恵の姉がメール攻撃をしてきます。弟の恥ずかしい写真を紹介されても困りますので早急に対処してください。
--------------------------------------------
よしこれでいいな。送信っと。
10分後、白石雪から猛烈な抗議の電話が掛かってきました。
「ちょっと待ってくれたまえ、一体キミは僕の可愛い恵に何を吹き込んだんだい。キミのおかげで僕の貴重な写真コレクションの大半が没収されてしまったじゃないか!」
本当に持ってたのかよ。変態め。
「どうせバックアップがあるんでしょ。問題ないじゃないですか」
「確かにあれは観賞用だから問題ないと言えるが、存在自体がバレたのが問題なのだよ。これから被写体に警戒されてしまうじゃないか」
「いや本人が嫌がってるんだからやめたらどうです?」
「キミはわかってないな。その嫌がる表情もいいのではないか」
「・・・・・・嫌われるぞ」(ボソ)
「!!!」
「・・・・・・そ、それは非常に困る。な、なんとかならないだろうか」
嫌われるの一言だけで、もの凄い効き目だな。しかし確かに言い過ぎたか。
「まあオレの方でもフォローしておきますので、雪先輩もあまり本人の嫌がることはやらないでくださいよ」
「本当か! そうかキミは良い奴だな。恩に着るよ」
「いえ、それとオレにメールをいっぱい送るのもやめてくださいね」
「うっ、わかった。その、一日に5通くらいならいいかな?」
「まあ、それくらいなら」
「おお、ありがとう! 望と同じクラスだし、これで授業中の弟の様子もバッチリ記録できそうだ。早速明日カメラを渡すよ」
「だから盗撮から離れろと。あと誰がやるか!」
「くっ、喜ばせておいて。なぜそうやって意地悪を言うのだキミは」
「全然意地悪じゃない。あと人に盗撮を依頼するな」
「どうしたら協力してくれるというのだ。むむむ、ならば秘蔵の弟の可愛い寝顔写真をあげようじゃないか」
「だからまず弟から離れろよ!」
「なんだと、私に死ねというのか!」
まったくこの変態姉は。自分の目の届かない、授業中の恵の情報が欲しかったのか。
「ん、もしかして他の人にも弟の情報収集を依頼してるんですか?」
「うむ、やはり僕一人ではどうしてもカバー出来ないところが出てくるからな。そしてその情報を元に、週一でメルマガを発行している。じわじわ購読者も増えて居るぞ。今週のベストショットなど人気だ」
まじかよ、変態の癖に無駄に行動力があるな。
「もう少し自重してください。バレたら本当に恵がグレますよ」
「むっ、それは困るな。わかった、少し方向転換することにしよう。我々はあくまでも淑女だからな」
変態淑女か、笑えないな。
「ええ是非そうしてください」
「ふむ、やはりキミに相談してよかった。これからもよろしく頼むよ」
「まあ役立つかはわかりませんが、こちらこそよろしくお願いしますよ」
変な方向に暴走されても困るからな。こっちである程度誘導できれば大丈夫だろう。
とりあえず電話も終わってフォローのメールを恵に送信して一息ついた。
まあ変態シスコン姉と対立を避けられたし、これで生徒会を不用意に恐れなくても良さそうだ。
問題は一つ解決したが、東別院香織とのコミュニケーションという一番の問題に頭を悩ませるのだった。