第一話「真理の扉を開く男」
始めちゃいました。
始まりはよく解らない。いつも通り、日常というものを楽しんでいた。知人が言うには、俺の日常は少し変わっているらしいが。
とにかく日常を楽しんでいた俺は、家で読書をしていた。読書家である俺は、見聞を広めるために旅に出たい思いを抑え、その知識欲を読書することにより紛らわしていた。
ここまでは普通であろうか。いや、結局の所普通でなかったかなんて解らない。自覚有る異常なんてあるのだろうか。たとえ自覚があるとしたら、それは異常でなく狂人の普通であっただけではないだろうか。何を以って普通なんてことは人によって変わるものだと、俺は思う。…話がずれた。
さて、目ぼしい知識は粗方得てしまった俺は、新しい知識がないかネットで探していた。最近のネットワーク社会の成長には驚きを隠せない。知りたい事について検索するだけで、知りたいことが解ってしまう。本で見るよりも早く知ることが出来る。その情報が正しいかどうかは解らない。でも、紛れもない今の情報を知ることが出来るのはありがたい。
…また話が逸れてしまった。
ネット検索で新たな知識を探していると、ふと目に付く文があった。
『この世界の真理について』
俺は、その文の続きが気になってしまった。このような話は何度も見たことはあるのだが、何故か心惹かれた。とりあえず続きを読む
『世界の真理について
この世界は創造神様によって作られた箱庭である。
故にこの世界の全ての者は所詮は“創りモノ”である。
では何故、その存在を許されているのか。それは、諸君らが我ら神の…
“家畜だからだ”。』
家畜?そんな疑問が浮かぶ中、文を読むのは止めない
『神とは世界を創造し、調整し、管理し、傍観するモノである。
しかし、いくら神といえど創造は簡単に出来ないのだ。
だからこそ君たち人間がいる。いや、地球があるのだ。
創造神様が唯一作ったこの地球。全てのオリジナルであり、全世界の原初とされる場所。
そして、最初に人間が産まれた場所でもある。そしてその人間たちは
神に縋りながらも、神に頼ることなく進化し続けた。
その人間たちの想像力は豊かであり、存在しない世界すらも作り上げた。
我ら神はそれを“可能性”と呼ぶ。
そして我ら神たちは可能性を元に自らの世界を創る。
なぜなら、創造神以外の神は基本的に無から有を創れないからだ。
だからこそ、可能性を元に世界を創造するのだ。
それ以外に人間の価値等ない。
すなわち人間とは』
ということは、俺たちは…
「『可能性を産む神たちの家畜』ということか。」
そう思考したところで、俺はパソコンを閉じた。
「可能性を産む神たちの家畜、ねぇ…」
何故だかわからないが、この事が頭を離れない。
グルグルと、頭の中に渦巻く。思考が止まらない、止められない。勝手に考える。そこに自分の意思なんてものはなく、勿論自重なんてものもない。だから
「くっ、頭が…割れる。なぜ思考が止まらない!」
なぜか幼少期から今までの知識が氾濫する。小さい時から貪欲に知識を求めた。その日々が走馬灯のように、そして記憶でなく知識として頭に流れる。
俺が産まれて初めて話した言葉は「本が読みたい」だった。
3歳の頃、広辞苑などの辞典を読み尽くした。旅に出たいと思った
5歳の頃、外国語を知る。そして勉強を開始。旅に出たいと思った
7歳の頃、ほぼ全ての言語を習得。父親の仕事である、機械関連の事に興味を示す。旅に出たいと思った
10歳の頃、PCの組み立てに成功。その他にも、多くの電子機器を組み立てた。旅に出たいと思った
12歳の頃、ネット社会の成長に伴い、ハッキング、ソフト、OSの習得及び開発を開始した。旅に出たいと思った
15歳の頃、全世界の政府に一斉ハッキングし、一躍時の人に。といっても、完璧なハッキングで特定されずに済んだので、捕まってはいない。旅に出たいと思った
18歳の頃、知識欲が爆発。全ての分野について調べ尽くす。旅に出たいと思った
20歳の頃、知識欲が収まってきた。調べ尽くしたからだろうか?旅に出た。でて5秒で、金銭面の問題に気づいて、断念。
24歳の今、俺に知らないことなんてあるだろうか。あるだろう。もっと知りたい。もっと俺に知識をくれ。
記憶の奔流が止まり、知識の奔流が止まり、目を開けるとそこには1冊の本があった。
「あ、ああ…ああああ…。」
なぜか解ってしまった。そこに何があるのか、その中に何が書いてあるのか。そうか、これが…
「知識か。」
俺はその本を手に取り中を読む。
「これじゃない、これじゃない…」
知ってることばかりだ、もっと俺の知らないことを。知りたいことは書いてないのか!
そして未知の境地へと至った。そこには知らないことが詰め込んであった。どうやら、知ってる事の後に知らないことが来るようになっているらしい。
一度、知っている知識を超えたら、待っていたのは未知との遭遇の連続だった。
「は、ははは!もっと知りたい!」
俺は読み進めた。どれくらい時間が経っただろうか。眠気も、空腹すら感じない程幸福な時間だった。しかし終わりが来たようだ。そして最後のページを読み進めた。そこにはこうあった。
「ここまでたどり着きし者よ、神に近づきし者よ、汝は罪を犯した。知らないことは罪である。だが知りすぎる事は、それもまた罪なのだ。汝、来世にて苦しみを味わうだろう。しかし心配は無用だ。我と共にある限り、死ぬことは無いだろう。それが、我からの呪い。全てを知ることの代償。だが忘れるな。死なぬのではない、死ねぬのであることを。忘れるな。神からの罰が下る事を。…ね。」
読み終わった直後、本が俺の手を離れて飛んでいく。俺から5mほど離れたところに停止した。そして俺の胸へ向かって突っ込んできた。
「ぐっ!なんだ…本が、俺の中へ取り込まれてる…?」
胸に当たったかと思うと、本はズブズブと音を立てて胸へ沈んでいく。完全に沈んだかと思うと、声が聞こえる。
『契約の完了を感知。真理の書を起動します。』
機械のような平坦な声。それは女性のような声だった。
『私の名前は、真理の書。全てを知りし者に仕える魔導書です。お願いします、マスター。』
…ん?今聞き捨てならぬ言葉が。
「すまないが、もう一度言ってくれないか?」
『はい、マスター。w「ちょっと待て。」…なんでしょうか。』
「なぜ、俺がマスターなんだ。俺は、全てを知りし者ではないが。」
「いえ、マスター。私が起動したということは、全てを知ったということ。私の起動条件は一つ。今いる世界の知識と真理の一つを知る事。マスターはそれをクリアしているということになります。そしてそれをクリアしたのはあなた様だけです」
待て待て。お前を読んだら、簡単にマスターになれてしまうだろ。なのに、俺が初めてのマスター?
「はい。それに関しては、マスターは勘違いをしておられます。まず一つ目、誰もが私を手に入れることが出来るわけではありません。世界の、今知ることが出来る全てを知らなければなりません。秘匿されたものに関しては知らなくても大丈夫です。知ることの出来るモノのみを知っていればよいのです。そして二つ目、私を最後まで読むこと。これにより、知ることの出来なかった、今いる世界の全てを知ることが出来ます。しかし、その情報量から大体の人が死にます。読めたとしても、真理を一つ知らなければ意味はありません。ちなみに真理は私を読んでも知ることは出来ません。」
つまり、俺は真理を知っていた訳だ。でもそんなもの見た覚えがないんだが…
とりあえず、俺は真理の書に話しかける。
「ところで、ここはどこだ?えーっと、真理の書だっけ?」
『ここは、真理の間です。私の名前については仮称でしかないので、呼びやすいようにお呼びください。』
「真理の間、ね。とりあえず君はナレッジ…だと少し変だな。ノーレッジでどうだい。愛称はノーレだ。」
『知識、という意味ですね。マスター、ありがとうございます。』
しかし、いつの間に移動したのだろうか。
『条件を満たすと、自動的に移動します。』
「…ノーレは心が読めるのか?」
『いえ、私とマスターは一心同体ですので、伝わってくるというのが正解です。』
「なるほどね。で、ここからどうやって出るんだい?」
俺は一心同体という言葉に、変なことに巻き込まれたな、と思いつつここから出る方法を聞いた。こいつなら知っているだろうと期待を込めて。しかし、返ってきたのは
『残念ながら、出る事は出来ません』
という、言葉だけだった。
「何故?と聞いてもいいかい?」
『はい。この世界へは一方通行です。今まで来た人が居たと言いましたね。』
「ああ。そいつらは餓死でもしたのか?出られないなら、まだここに居るはずだが。」
俺はこの空間を見渡しながら言う。どこまでも続く白い床、白い天井。自分が立っているのか、座って居るのか解らなくなる。今まで無視していたが、意識すると違和感が半端ない。そしてそこには、自分以外何も存在していなかった。
『いえ、今まで来た人たちは、神に連れられました。』
「…神?」
『はい。神とは、世界の傍観者です。創造神とは別の存在で、世界を管理、創造などもしています。人間が生み出す、可能性を元に世界を創造するので、人間を家畜と思っている神も少なくないのです。そして、真理の間に来るということは、神に近づくこと。神は家畜に追いつかれるのに腹を立て、真理の間に来た人たちに呪いをかけて異世界に転生をさせます。』
もしかして。俺の知っている真理ってあれか。『この世界の真理について』か。これが本物だったのかよ。
『そろそろ、神も感付いてきます。これから説明に入ります。』
「…納得できないが、よろしく頼む。」
『はい。まず、これからマスターは転生させられます。その世界は、マスターの世界でいうRPGのレベルアップ制、スキル制の世界です。そこでは迷宮やダンジョンが存在します。これは詳しくは向こうで説明します。転生の際には、神から呪いが掛けられます。今までここに来た方は、この呪いで転生後すぐに死にました。が、マスターは私との契約をしていますから、死にはしません。ここまでで質問は?』
「…RPGね。ところで、転生先なんてどこで知った?神の呪いもだ。」
『はい。それは前ここに来た方々の知識も、私は持っています。なので、その方のしたことされたことを知識として共有出来るため、私は知ることが出来ました。』
「そうか。でも、そんなことお前には書いてなかったが?」
『はい。あくまでも、契約前にお見せ出来るのはマスターの元居た世界の知識だけですので。しかし契約した今なら、全ての知識を共有出来ます。私は、真理を初めとする、全世界の知識が詰め込まれています。』
「なるほどな。お前の存在は神は知っているのか?」
『いえ。私の存在は神に知られることはありません。そう作られているのです。』
「…誰に?まさかっ」
『はい。あなたの思った通りです。私は創造神様に作られました。』
衝撃の事実。創造神が創ったのなら、この性能にも理解できる。
「そうか。それにしても、俺は死なないようになってるのも、創造神のおかげなのか?」
『はい。私の知識に耐えられるように。また、知識を奪われぬようにと。』
「なるほどな。だから、神には知ることが出来ないのか。だが、呪われるのは回避できないのか?」
『出来ません。それゆえに、覚悟して頂きたい。』
「覚悟…?」
『はい。あなたは死なないのではなく、死ねないということを。呪いで苦しもうと死ぬことは出来ず、灼熱で焼かれようとも死ぬことは出来ない。その体は、成長はしても老いはしない。永遠を生きる覚悟です。』
想像はしていた。ノーレの最後のページにもあった。我と共にある限り、死ぬことは無いだろう。それが、我からの呪い。全てを知ることの代償。だが忘れるな。死なぬのではない、死ねぬのであることを。忘れるな。神からの罰が下る事を。と。
しかし、現実に直面すると恐怖が沸き起こる。体が震える。逃げたくなる、出来るなら逃げてしまいたい。そう思ってしまう程の、リアルを感じていた。
でも、それを超える感情があった。
「旅に出たい。」
ただそれだけ。
「冒険したい。」
ただ、それだけのことを考えるだけで、震えが止まる。逃げ出したいという気持ちが、消えていく。だから
「ノーレ。これから、一緒に生きていくことになる。嫌なところも見せる。お前が俺愛想を尽かすような出来事もあるかもしれない。それでも、俺と冒険してくれるか?」
俺の問いに、彼女は答えてくれる。
『はい、マスター。我が全てをあなたと共に。』
その言葉と共に、何もない空間が歪む。
『神が来たようです。』
「ああ。そのようだな。」
さて、神とのご対面だな。
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