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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
それぞれに、春は来る。
94/99

コンビニのベンチで

ぴいちゃんが、何か困ってる。

月曜日から、ため息をついてばかりいるし、みんなで話しているときにもちょっと元気がない。無理して笑っているようにも見える。

そういう彼女を見るのはさびしい。

俺に相談してくれればいいのに。



水曜日、卒業式の前日準備で部活が休みだったので、ぴいちゃんに、一緒に帰ろうと言ってみた。

みんなと同じ下校時間に、全行程を2人で帰るのは初めてだから、予想どおり、彼女は迷った。

迷った表情と一緒に、俺に何か問いかけるような視線・・・?

でも、最後には恥ずかしそうに微笑んで「うん。」と言った。



「今日はバイトがない日だから、部活に出られる貴重な日だったのに。」


廊下を並んで歩きながら、ぴいちゃんが残念そうに言う。


バイトがないってことは、急いで帰らなくていいってこと?

ちょうどよかったじゃないか!


「じゃあ、途中のコンビニで、肉まんでも食べて帰る?」


「肉まん?」


ぴいちゃんが不思議そうな顔をした。

あまりにも “どうして?” っていう顔をしているから、思わず笑ってしまった。


「食べたことない? 俺たち、部活の帰りによく買うけど。」


「ふうん、そうなんだ。あたしって、家が遠いのとバイトで、普通のことをあんまりやってないのかな。」


「じゃあ、今日は普通のことをしよう。」


「そうだね。」


彼女が楽しそうににっこりする。

やっぱりぴいちゃんは、そうやって笑ってなくちゃ!



途中のコンビニで肉まんを買って、店の横にあるベンチに座ってかぶりつく。

まだ風が冷たくて、ほかほかの肉まんが嬉しい。


翌日の卒業式の話題から、部活の先輩の話や、中学の卒業式の思い出へと話題が移る。

話しながら、笑ったり、驚いたり、ぴいちゃんが元気になっていくのがわかった。

先に食べ終わって、そんな彼女をほっとして見ていたら、パクリと肉まんに噛みついたぴいちゃんと目が合った。


そういえば。


「文化祭のとき、そうやってるぴいちゃんを見たな。あのときは、顔じゅうクリームだらけだった。」


思い出したら笑いがこらえきれなくなった。

遠慮なく笑う俺の背中をぴいちゃんがバン! と叩く。


「藤野くんだって、岡田くんと仲良く寝てたくせに!」


その写真は恥ずかしいけど、今となってみれば笑うだけ。


お互いに、今までの失敗や笑い話を思い出しながら、2人で大笑いする。

ぴいちゃんの冗談に俺がおどろいたこと。

内緒でノートを直したこと。

浴衣姿の写真でふくれっ面をしていたこと。

俺の女装を想像して、ぴいちゃんの笑いが止まらなかったこと。

それから・・・。


笑いながら、俺たちにはこんなにいろんな思い出があるんだとわかって、嬉しくなる。


「元気が出た?」


ようやくひと段落ついたとき、ポロリとひと言出てしまった。

本当は、彼女のことを心配してるなんて言うつもりなかったのに。


ぴいちゃんが、ハッとして俺を見る。


「ごめん、こんなこと言うつもりじゃ・・・。」


だめだな、俺って。

ぴいちゃんが、せっかく楽しい気分になっていたのに。


「わかってた?」


彼女が俺の視線を避けるように、下を向いて言った。


「うん・・・。月曜日から、何か困ってるなって思ってた。」


ぴいちゃんがあきらめたように小さく笑いながら、ため息をつく。


「あたしが困ってるってこと、いつもわかるんだね、藤野くんは。どうしてだろうね?」


「そうだな。たぶん、ぴいちゃんのことが好きだからじゃないかな。」


いつも見てるからね。


「ん? ・・・・・あれ?」


ぴいちゃんが眉を寄せて俺を見る。


「もしかして、今、“好き” って言った?」


あれ?


「ほんとだ。なんだか当たり前な気がして、言ったことも気付かなかったけど。」


なんだ。

“好き” って言うのって、こんなに簡単なことだったんだ!

なんか・・・楽しくなってきた。

なんだか変だけど、可笑しくて笑いがこみ上げてくる。


「それって・・・、それって “お友達” のじゃなく?」


真剣な顔をして、ぴいちゃんが尋ねる。


「え? ああ、うん、そう。 “お友達” のじゃなく。」


どうしてだろう?

くすくす笑いが止まらない。


「そうか・・・。」


ぴいちゃんは前を向いて、何か考えている。


「そうか・・・。」


ゆっくりと同じ言葉を繰り返し、それからくすくすと笑い出した。


「なーんだ。藤野くんじゃないから悩んでたんだ。」


そう言って、彼女が楽しそうにまっすぐ俺を見た。


「あのね、今のひとことで、今まで悩んでたことが全部解決した。なんか・・・よかった! ありがとう!」


全部解決?


にこにこしている彼女を見て、今度は俺が困惑する。


「そ・・・れは、よかったね。」


でも・・・、何がどう解決したんだろう?

それに、俺はこれから、どうしたらいい?

その「ありがとう」はどういう意味?


「ええと・・・」


「あれ?!」


ぴいちゃんが何か重大なことに気付いたように、俺の言葉を遮る。


「藤野くん! あたしは高校生だよ?!」


「はあ?」


今さら何を言い出すんだ?


「それは前からわかってるけど・・・?」


同じクラスなんだし。


「藤野くん、言ったよね? 藤野くんの好きな人にこういう話をするのはまだ早いって。あたし、てっきり藤野くんは小学生が好きなのかと・・・。」


「小学生?!」


それじゃあ、俺がまるで危ない趣味の持ち主みたいじゃないか!

なんで、そんなに飛躍しちゃうんだ?

想像力が強すぎる彼女らしいといえばそうかもしれないけど、それにしたって、どうやってそこまでたどり着いたのか、全然わからない。

・・・まあ、俺のことを変わった趣味の男だと思っていながら、軽蔑しないで、ずっと友達でいてくれたことには、ある意味感動するけど。


とにかく、今はそれは置いといて。


「あの・・・返事とか・・・?」


「返事?」


「だって・・・。」


ぴいちゃんは、ちょっと怒った表情のままプイと前を向いてしまった。


「・・・・・わかった。」


え?


「それだけ?」


「だって、質問なんてされてないもん。子どもだから、わからない。」


あれれ。

拗ねちゃったな。

それじゃあ。


「吉野さん。」


あらためて名前を呼ばれて、ぴいちゃんがちょっと身構える。

そんな彼女の顔をまっすぐに見て。


「俺は吉野さんが好きです。吉野さんは、俺のことをどう思ってますか?」


「え? ちょ、ちょっと待って。ここで? 今? やだ。」


店の横のベンチっていうことが急に気になりだして、周りをキョロキョロと見まわす彼女。

ベンチの前は店の駐車場だし、横の道路は人も車も通っている。


でも、もう言っちゃったもんね♪


「あの・・・、あ・・、ええと・・・。」


何度も口を開きかけては、言葉が出てこないまま困り果てる彼女。

それを、黙って見ている俺。


「あの、たくさんお話ししたい・・・。」


・・・・・。


「それだけ?」


全然、物足りない。


「ええと、一緒に帰ったり・・・、」


「うん。」


「一緒に勉強したり・・・、」


「うん。」


「おやつを食べたりする。」


「・・・全部、今までもやってるよ。」


笑いながら指摘する。

でも、恥ずかしがり屋の彼女が、そんなふうに俺への気持ちを表現するのがかわいくて、嬉しい。


これ以上の言葉を聞くのは無理かな。

まあ、いいや。これで十分。


“ありがとう” と言おうとして、口を開いたら・・・。


「たぶん、」


さらに小さな声になって、ぴいちゃんがもうひとこと。


「好き・・・かもしれない。」



―― 30秒くらい、息も心臓も止まった。もしかしたら、1分かも。



真っ赤になって下を向いている彼女を抱き寄せそうになって、あわててベンチの縁を握る。

やっぱり人目のないところで言うべきだった!


「たぶん」でも、「かもしれない」でもいい!

幸せすぎて、頭がぐるぐるする。

ダメだ。何も考えられない。

小さいころにテレビで見た、メロンパンナちゃんが必殺技を繰り出す声が聞こえたような気がした。



やられた・・・。



ベンチの背に寄りかかって目を閉じたまま、気持ちを落ち着ける。

ゆっくりと深呼吸をしたら、どうにか自分を取り戻すことができた。

ぴいちゃんは、俺が何も言わないので、心配そうにこっちを見ていた。


その彼女に笑いかけると、彼女も笑顔になった。


「帰ろうか。」


「うん。」




改札口で別れるとき、彼女がためらいがちに切り出した。


「土曜日は部活?」


「うん。日曜日に練習試合があるから。」


「そうか。残念。」


俺も残念だ・・・。

せっかくぴいちゃんから言い出してくれたのに。


「お誕生日なの。3月3日の土曜日。」


なんてタイミングが悪いんだ!!


「あ! でも、部活を休んだりしなくていいからね! いつか、時間がとれるときに。」


そんなとき、あるのかな・・・?

ぴいちゃんの家が遠くなければいいのに。


「ああ! 来週から、期末テスト前で部活は休みだよ。だから、次の土曜日なら。」


「え? でも、テスト前なのに?」


「俺は1日くらい、平気だけど。」


「あたしも、一日中勉強してるわけじゃないけど・・・。」


「じゃあ、ほかの日にめいっぱい勉強して、その日は休みにしようよ。」


「それもいいかな。・・・また朝に勉強する?」


「もちろん! 帰りも一緒に帰ろう。テスト中は、お昼を一緒に食べて。」


「うん。・・・でも、岡田くんがいないと、ちょっとさびしいかもしれないね。」


「・・・俺だけじゃ足りない?」


そりゃあ、岡田みたいににぎやかにはできないけど・・・。


ちょっとがっかりした俺に、ぴいちゃんがいたずらっ子のような笑顔を向ける。


「藤野くんと一緒にいるのに、さびしいわけないよ!」




最後に「じゃあね!」と言って手を振ったぴいちゃんは、見違えるほど元気になっていた。

自分が彼女を元気にしたんだと思うと嬉しい。


それから・・・。


さっきの彼女の告白を思い出して、またしても、心臓が止まりそうな気がした。








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