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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
それぞれに、春は来る。
90/99

間違えてる!


小暮とのウワサが誤解だってことを説明して、ぴいちゃんが俺から離れようとするのはやめさせることができた。

これからは、何でも話してほしいって伝えることも。


だけど。

俺の気持ちはわかってもらえなかったらしい。


途中でぴいちゃんが泣き出してしまったせいでもあるけど、去年、成り行きで話した “運命の女性(ひと)” の印象が強烈だったらしくて、俺がその人のために、本当じゃないウワサで傷ついたと思い込んでいる。ある意味では間違いじゃないんだけど・・・その人が誰かってことを、ちゃんとわかってくれれば。


あのとき、ちゃんと言おうとしたのに、ぴいちゃんは聞けるような状態じゃなかった。

2日後の模試の帰りにでも、と思ったら、彼女は熱を出して、来られなかった。

月曜日は学校に来たけど・・・俺の方が気が抜けてしまって、その話をする気持ちを奮い起こすことができなかった。

こういうことを仕切り直すのは、タイミングが難しい・・・。


それから、ぴいちゃんと俺はもとどおり・・・ではある。

話しかけても困った顔はしないし、俺を信頼してくれていることは、彼女の態度からよくわかる。

でも・・・今ではそれじゃあ足りない。 “彼女” として一緒にいてほしい。


少し前は、まだ俺の気持ちに気付かなくていい、と思っていた。

彼女がやみくもに逃げてしまうんじゃないかと思ったから。

だけど今回は、俺の気持ちを知らないから、離れようとした。

どっちにしたって、彼女はすぐに逃げてしまう。

だったら、ちゃんと伝えて、ぴいちゃんが納得して俺の隣にいてくれる方がいいに決まってる。

それに、ぴいちゃんの信頼以上のものがほしい。


そうなんだけど・・・。

ぴいちゃんの安心しきった様子を見ると、言わない方がいいような気がする。

そんな話をしたら、やっぱり逃げてしまうかもしれない。

彼女は今、俺のそばで、安心して楽しそうに笑ってる。

それを失うのが恐い。

この前の、彼女が俺から離れようとしたときの悲しさが、まだ生々しい記憶として残っている。


そんなことをぐずぐずと考えながら、もう2月だ。

クラスメイトでいられる期間はあと少し。




2月14日。バレンタインデイ。


高校生になるとあんまり口には出さないけど、何日か前から野球部でも教室でも、みんな、なんとなくそわそわしている。映司みたいに、決まった彼女がいる男は別だけど。

俺は、ぴいちゃんからはもらえるだろうと思っている。俺にだけじゃなくて、岡田にも。つまり、 “お友達” のチョコを。たぶん、小暮もくれるかな。

とりあえず手ぶらで帰らなくて済むのはありがたい。茜にバカにされるのは嫌だから。

でも、できればぴいちゃんからは “特別” のチョコがほしい。


・・・無理だろうな。結局、自分が何もしていないんだから。

だけど、それは岡田も同じこと。

っていうのは、俺の勝手な思い込みなんだろうか?


朝練のあとにそんなことを考えながら上履きを履いているところで、「あのう。」と控え目に話しかけられて、知らない子からチョコを差し出された。

・・・びっくりした。

去年までは、クラスの女の子たちからのいわゆる “義理チョコ” しかもらったことがない。


もらっていいのか? 断るべきなのか? お返しとかするのか? どこの誰だか知らないんだけど?


差し出された包みを見ながら考え込んでいる俺を見て、岡田が笑いながら、俺の代わりに言った。


「サンキュー。もらっとくね。」


あ、そんな軽くていいんだ?


と思ったら、気楽に受け取ることができた。


「藤野は考え過ぎなんだよ。ただのイベントなんだから、とりあえずもらっとけばいいんだよ。」


おおざっぱな岡田らしい考え方だと思ったけど、きっとそれでいいんだな。


そのあとも、階段や廊下で、どこから出てきたのかと思うように女の子がやって来ては、包みを差し出してくる。

岡田にも2人くらいいたけど、教室に着いたときには、俺のカバンの中には5つの包みがたまっていた。

できれば、ぴいちゃん以外からはもらいたくない俺としては、岡田と映司のニヤニヤ笑い以上に、その包みが重荷だ。

ただ、1つだけ、去年のクラスメイトからのチョコは、その場で断った。一瞬、泣きそうな顔をされたけど、“これを受け取るのはまずい!” という勘が働いて。

それにしたって、なんで、今年はこんなにやってくるんだ?! もしかしたら、嫌がらせかも・・・。


教室に入ったところで、ぴいちゃんと和久井と小暮が待ち構えていて、俺たち3人に、それぞれからくれた。もちろん、和久井から映司に渡したのは特別製。

ぴいちゃんと小暮からのは、映司にはちょっと小さめで、俺と岡田には同じものだった。少しは期待してたんだけど。

ほかの部の朝練グループも戻って来たところで、神谷たちが男子全員に、お徳用のチョコの大袋から3つずつ配ってくれた。なんか・・・さすがだ。



放課後、部活に向かう途中で、また2個ほどもらい、カバンの中で、包みがガサガサいっている。

小暮が取っ手つきの紙袋でくれたから、ぴいちゃんと和久井がくれた分もそこに入れて、ほかのとは別にしておいた。


家に帰ると、母親が楽しそうに「チョコもらった〜?」とか訊いて来た。

「まあね。」と答えて、さっさと自分の部屋に行く。

よく考えると、うちの母親はいつも能天気で楽しそうだ。

この親に育てられた俺が、どうしてこんなにあれこれ悩む性格なんだろう?



風呂と夕食を済ませて、落ち着いて、今日もらった包みを調べてみる。

別に不審な様子はないな。全部、普通な感じ。


ぴいちゃんたちからもらった分を、紙袋から出して並べてみる。

ぴいちゃんは、お菓子作りは無理だから買ったって言ってた。包み方がきれいだから、間違えようがない。

小暮と和久井は手作りらしい。小暮のは透き通ったビニール袋に入っているチョコレートケーキ。

和久井からは・・・まあ、いいや。


よく見たら、ぴいちゃんの包み紙の隙間に、小さいカードがはさまっている。


『いつも仲良くしてくれてありがとう。これからも、どうぞよろしくお願いします。吉野陽菜子』


うーーん。

もう一声! って感じだな。

ぴいちゃんらしくて、笑ってしまうけど。


いったん片付けようとして紙袋を持ったとき、中に便せんが落ちていることに気付いた。

小暮もか。女の子はみんな丁寧だな。


『岡田くん、好きです。結果はなんとなくわかってるけど、気持ちの整理をつけたいから、今日中にお返事ください。小暮里緒』?!


おいおい! 間違えてるぞ!

よっぽど緊張してたんだな。

どうしたらいいんだ?

「今日中に」って書いてあるし・・・。


仕方ないな!


急いで岡田に電話をかける。


『何だよ。』


のんびりした岡田の声。


「ちょっと間違いがあって。」


『何に?』


「今日もらったチョコレート。1個、お前用だった。」


『そんなことで、わざわざ電話なんかいらないよ。明日、持って来てくれよ。』


「いや、それが、緊急の用事みたいで。」


『なんでわかる?』


「手紙が入ってた。」


『見たのか?』


「うん。だから間違いだってわかったんだ。」


『まあいいや。聞いてるから読んでくれよ。』


「えぇ?! いや・・・、読み上げるのには向かないかな・・・。」


『なんだよ。急ぎなんじゃないのか? じゃあ、ファックスでいいや。』


「ファックス?! メールで送るよ!」


『携帯のメールじゃ、小さくて読みにくいだろう? ファックスにしてくれ。』


いいのか?

知らないぞ。


「わかった。すぐに送るから、ファックスの前で待ってるんだぞ!」


『わかったよ。』


めんどくさそうな岡田の声をあとにして、小暮の手紙を持って、家の電話のところへ。

あわてているのと、便せんが小さいので、セットをするのに手間取る。

自分あてじゃないのに、こんなところを家族に見られたらと思うと、気が気じゃないし。

岡田はきっとイライラしてるだろう。


送り先の番号に間違いないか何度も見直して、ようやく送信できた。よかった・・・。


部屋に戻るとすぐに、岡田から電話がかかってきた。


『藤野! どうしよう?!』


「岡田。電話をかける相手を間違えてるぞ。俺じゃなくて小暮だろう?」


『そっ、そうだな! だけど!』


「とにかく、落ち着け。」


『わかった。』


と言って、いきなり電話が切れた。

しばらくしてから、『明日の朝練は休む』と、岡田からメールが来た。

うん。断るにしても、ちゃんと顔を見て話した方がいいよな。


それにしても、小暮は勇気があるなあ。

あんなに内気なのに。


俺もがんばろう。




翌朝、俺と映司が朝練のあとに教室に着いても、まだ小暮と岡田はいなかった。

ぴいちゃんが俺と映司を見つけて不思議そうな顔をする。


「岡田くんはお休み? 珍しいね。」


そうだ。

小暮が落ち込んでいたりすると気の毒だから、ぴいちゃんにひとこと言っておいた方がいいな。


廊下にぴいちゃんを手招きして、小声で事情を説明する。


「小暮が告白したんだ。」


ぴいちゃんがハッと息を飲んだ。

それから、心配そうな顔で俺を見上げて尋ねる。


「返事はした?」


「さあ。たぶん。」


「たぶん・・・?」



「どうして、“たぶん” なの?」


あれ? ちゃんと伝わってない?

っていうか、勘違いされてる?


「ええと、俺じゃないよ?」


「えっ?! 誰?!」


「岡田。」


「ええええええぇ?!」


でっかい声!

そんなにびっくりする?


「ご、ごめん。予想外だったから・・・。」


ぴいちゃんがブツブツと弁解する。


「藤野くん、なんで知ってるの?」


「小暮が昨日、俺と岡田に袋を渡し間違えたんだ。」


納得したようにうなずく彼女。


「小暮の様子、見ててもらった方がいいと思って。」


「え? ああ、うん。そうか。わかった。」


そう言いながらも、ぴいちゃんは何度も首をかしげていた。



そのあと、教室にやって来た小暮と岡田を見て思った。


あんな心配、いらなかった。








最終章です。

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