「友達から」って・・・。
中間テストはなんとか終わった。
ぴいちゃんにノートを借りた効果で勉強する気になって、いつもよりは頑張った・・・つもりだったけど、結果はいつもと同じだった。
でも、生物だけは、俺も彼女も90点を超えた。
あのデタラメなノートで、2人ともよくぞここまで・・・と思う。
テスト最終日、再び「席替え〜」という声が上がり、大急ぎでくじを引いた。
明日の朝は、新しい席に座ることになる。
今度の席は教室のど真ん中。なんだか狭苦しくていやだな。
前には神谷さん、右には神谷さんグループの2人が前後に並んでいる。
左前、神谷さんの隣に岡田。おめでとう、岡田。がんばれよ。
俺の左隣はサッカー部の結城。神谷さんの取り巻きの一人。
なんとなく賑やかな席になりそうな気がする。
ぴいちゃんは・・・また窓際?うらやましい。今度は一番うしろか。特等席だな。
まわりは女子ばかり。隣に和久井?本当に偶然なのか?
今までみたいに話しかけるのは無理かな。せっかく話せるようになったのに。
次の日、新しい席に着いてみると、予想したとおり賑やかな場所だった。
神谷さんは話上手な楽しい人で、彼女の周りに人が集まるのもよくわかる。周囲はいつも笑い声が絶えない。
岡田は神谷さんグループでは新参者だけど、もともとお調子者だからすぐに馴染んでいる。
俺は・・・席がそこにあるからそこにいて、一緒に話に参加している。
確かに、前よりもよく笑ってるけど。
ぴいちゃんは?
ときどき気になって窓の方を見ると、彼女も今までよりはよくしゃべっているし、笑っている。
それは当り前か。
ぴいちゃんの前には神谷さんと仲のいい2人が並んでいて、彼女たちとは和久井も含めて4人で机を寄せ合って、授業中も内緒話をしたりしている。ごく普通の女子の風景。
4月にはクラスに馴染めるのか気になったけど、ああやって話している姿を見るとほっとする。
・・・なんだか、保護者みたい?
でも、ちょっと残念なような気がする・・・?
なんてことはない!
よかったじゃないか、彼女がクラスに溶け込んでて。
中間テストが済むと、9月の文化祭・体育祭の出し物や担当を決めることになる。
体育祭は誕生月で高校全体が6チームに分かれるので、クラスは関係なくなるけど。
3年になると、受験準備のために文化祭は自由参加となり、参加するのはごく一部の生徒だけになる。だから、今年が高校最後の文化祭になる生徒も多く、2年生が一番盛り上がるのだ。
LHRで文化祭の相談をし、うちのクラスでは白玉などの和風デザートの店を開くことになった。
店は女子が浴衣姿で接客をすることになり、目当ての女子がいる男が盛り上がる。
神谷さんたちはもちろん接客担当。誰も文句は言わない・・・っていうか、彼女が裏方を希望しても誰も承知しないだろう。
ぴいちゃんと和久井は裏方希望。家庭科室でひたすら白玉を作るのかな?
男子は呼びこみと運搬。
文化祭の話し合いがスムーズに決まったついでに、修学旅行の班決めの話が出た。
委員の1回目の打ち合わせは先月あって、9月の初めまでに班を決めて、それぞれの計画をたてるように言われていた。
俺はまだやらなくてもいいんじゃないかと思っていたけど、みんなはそうでもないらしい。
修学旅行は10月後半、関西方面に4泊5日。
班行動が基本になるから、ほぼ1日中そのメンバーで過ごすことになる。気になるのは当然のことか。
担任が「ついでにやっちゃえば」と言い、修学旅行委員になっていた俺と高橋さんが前に出る。
まずは男女別に2~4人でグループを7つずつ作り、それをくじ引きで合わせていくことにした。
男女それぞれのグループメンバーを、高橋さんが黒板に書きあげる。
俺は結局は、いつもの野球部のメンバー、岡田と映司との3人。
クラスの中ががやがやと騒がしいけど、ここまではすんなりと決まる。
ぴいちゃんはもちろん和久井と一緒・・・プラス、高橋?
そういえば、高橋さんは彼女たちの前に座ってたな。そんなに仲良くなったのか。
くじ引きの結果、俺は神谷さんと一緒のグループになった。
岡田の喜びようは見ていて恥ずかしくなるほどで、逆に映司の残念そうな様子が気の毒だった。
グループごとに集まって、一応、顔合わせをする。
女子は神谷さん、篠田さん、水内さん。3人ともチアリーディング部。
神谷さんから早々に、「さん付けで呼ばなくていいから。」と言われた。
はい。どうぞよろしく。
ぴいちゃんは結城たち、神谷さんの取り巻きメンバーと一緒だった。
なんとなく心配ではあるけど、和久井も高橋さんもいるから大丈夫だろう。
・・・また心配してるな、俺は。
「藤野くん!おはよう。」
それから2、3日後、朝練が終わって、部室から校舎に向かう途中で名前を呼ばれた。
「あれ、篠田?そっちも朝練?」
「うん。そう。」
篠田はチア部の中では小柄で、でも一番元気がいい。
去年の高校野球の地区予選では、ベンチ入りできずにスタンドで応援する俺たち野球部の間で、篠田の声がひときわはっきり聞こえていた。
チア部は高校野球の地区予選が近いこの時期、テレビに映るスタンド応援という大きな出番を控えて力が入っている。
でも、さすが女子。
練習してきたばかりでも、さわやかだ。
「修学旅行、よろしくね。」
「ああ、うん。」
そうだった。同じ班だっけ。
「あのう、藤野くん。」
そう言って、校舎に入る前で篠田が立ち止まる。
つられて俺も。
「藤野くんて、彼女いる?」
え?
もしかして、この展開って・・・、もしかして?
心臓がドキドキしてきた。
いや、勘違いだとかっこ悪いぞ。落ち着け。
「いや、いないけど。」
「好きな人とかも、いない・・・かな?」
それは。
「・・・今はいない、と思う。」
はっきりとは言い切れない。自分でもよくわからない。
「あたしじゃ、ダメかな?」
篠田が俺の顔をしっかりと見て言う。
決意に満ちた目をして。でも、声はいつもと違って弱々しい。
そんなふうに言われるほどの価値はあるのか、俺に?
篠田なら、ほかにいくらだって・・・。
「ごめん。考えてみたことがなかったから、よくわからない。」
混乱して、何て答えたらいいのかわからずに、そのとき浮かんだまま口に出てしまう。
「今すぐ彼女にってことじゃなくても、考えてもらうために、まずは友達からでいいから、お願いします。」
友達。
それを拒否することって、できるのか?
友達にさえなれないなんて、言えないじゃないか。
「ええと、とりあえず友達ってことなら構わないけど、先のことは・・・。」
それは保障できない。
「うん。それでいい。」
篠田がにっこりした。
「ありがとう。」
並んで教室に向かいながら話をする。
特に今までと変わったことはなくて安心した。
でも、本当にこれでよかったのか?