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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
平穏な日々?
88/99

伝わってほしい。



メールを送ったあと、ベッドに仰向けになって、ただ天井を見ていた。

携帯が鳴ってる・・・いつから?

ベッドの下に落ちていて、すぐには見つけられなくて慌てる。

手に取ると、ぴいちゃんの名前。

それを見ただけで、泣きそうになる。


『藤野くん?』


通話ボタンを押しても、何も言えないでいる俺に、ぴいちゃんが呼びかける。

その声から、彼女が俺のことを心配していることがわかって、ますます泣きそうになる。


「うん。」


『どうしたの? 何かあった?』


あったよ。

だから、ぴいちゃんと話したくて・・・。


「ぴいちゃん。」


『はい。聞いてるよ。』


「・・・・・どうして。」


ダメだ。

のどがつかえるような感じがして、うまく話せない。


『藤野くん、大丈夫?』


ぴいちゃんの気遣わしげな声が聞こえる。


「どうして、俺とちゃんと話してくれないんだ?」


ぴいちゃんがハッと息を飲む気配がした。


やっと出た言葉は、まるで彼女を責めるような。

うっかりすると涙が出そうで、しかも悲しい気持ちでいっぱいの頭では、きちんとした文章にならない。


『あ。あの・・・、でも・・・。』


ぴいちゃんが困ってる。

俺が彼女を困らせてる。

俺は何をやっても、彼女を困らせてしまう。


「ごめん・・・。」


『あの・・・、謝らなくていいよ。あたし、藤野くんに冷たかった?』


「・・・うん。」


そうだ。全部、言ってしまおう。

そうすれば、彼女を俺のそばに引きとめることができるかもしれない。


「ものすごく悲しい。」


ぴいちゃんが黙って離れて行ってしまうから。


「どうして、一人で勝手に決めちゃうんだ?」


俺とぴいちゃん、二人に関係があることなのに。


『・・・ごめん。・・・あたし、藤野くんのこと、傷つけたんだね。』


静かな彼女の声に、また涙が出そうになる。


「さびしくて・・・悲しい。」


ぴいちゃんがいなくなることが、こんなにつらいなんて。


『うん・・・。』


「一人で勝手に決めないでくれよ。俺に話してほしい。それから・・・、」


俺の一番大きな願いは。


「一緒にいてほしい。ずっと。」


これからも、ずっと。


『うん・・・。ごめんね、気付かなくて。・・・藤野くんのこと、ちゃんとわかってなくて。』


ぴいちゃんの声が悲しそうだ。

俺の気持ちは伝わったんだろうか?

目をつぶって、ゆっくりと深呼吸をする。


「あのウワサ。」


『え?』


「ウワサを聞いたんだろう? 俺と小暮の。」


『うん・・・。』


「あれは本当のことじゃないんだ。」


『え?』


「初詣の帰りを誰かが見かけただけなんだよ。」


『あの・・・、でも日にちが。』


日にち?


『あたしが聞いたのは、1月3日って・・・。』


余計な間違いだな・・・。

だけど。


「ぴいちゃんは、その話だけを信じた? 俺と小暮が2人で出かけたって?」


『・・・うん。ごめんなさい。』


「どうして・・・?」


『え?』


「どうして、そんなウワサを簡単に信じるんだ? 俺は前から」


『そうだよね。ごめんなさい!』


あれ? 泣いてる? まだ話の途中なんだけど・・・。

強く言いすぎたか?


けっこうしっかり泣いちゃってるらしい。

電話を通して、ぴいちゃんのしゃくりあげる声が聞こえる。


『ふ、藤野くんが・・・そんなにすぐに心変わりするわけないのに。ご・・・ごめんね。しん、信じてあげられなくて。』


「あ、あの、そうじゃなくて。」


『ま・・・間違ったウワサ流されて、つらい思いしてるときに、・・・つ、ついててあげられなくて。あ、あたしまで・・・みんなと一緒になって』


「違うよ。俺の話を・・・。」


『藤野くんの気持ち、考えないで・・・、ふ・・じのくんを一人ぼっちに・・・。あの・・・ホントに、ごめんね。』


今は電話の向こうで泣いているぴいちゃんの方が興奮状態で、その分、自分が冷静になってきたことに気付く。


どうしたらいい?

・・・とりあえず、彼女の誤解を解かないと。


「ぴいちゃん?」


『・・・はい。』


呼びかけると、どうにか返事をしてくれた。


「俺が好・・・好きなのは、ずっと前から」


『うん。わかってる。』


何をわかってるんだ!

最後まで言わせてくれよ!

せっかく決心したのに!


『ふ、藤野くんには大切な人がいるのに・・・』


「いや、あの、」


『そ・・・その子が大きくなるまでは、あたしが一番の友達って言ったのに。』


なんか・・・ “大きくなるまで” って、ちょっと引っかかるな。

ぴいちゃん、いったい何を考えて・・・?

いや、今はそんなことで悩んでる場合じゃなくて。


「あ、あの、ぴいちゃん?」


『藤野くん、ごめんなさい。もう、勝手に結論出したりしないよ。ちゃんと相談する。ふ・・・藤野くんがさびしい思いをしないように、いつも一緒にいるよ。』


あー・・・。

たぶん、俺の希望とはビミョーに違うな・・・。


だけど、こんな状態のぴいちゃんに、これ以上、電話で説明するのは無理な気がする・・・。

仕方ないか、今日のところは。


ため息ひとつ・・・。


「ありがとう、ぴいちゃん。」


・・・そうだ。

この週末で。


「明日か明後日、会えるかな?」


『・・・あさって、模試に行くことに・・・。』


「・・・そうだったね。」


あさって部活を休むから、明日は休めないな。

仕方ない。

模試の帰りにでもちょっと、時間をとってもらおう。


「じゃあ、そのときに。」


『うん。』


「おやすみ、ぴいちゃん。電話してくれて、ありがとう。」


泣かせちゃって、ごめん。


『おやすみなさい。あさってね。』


うん。あさってに。








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