伝わってほしい。
メールを送ったあと、ベッドに仰向けになって、ただ天井を見ていた。
携帯が鳴ってる・・・いつから?
ベッドの下に落ちていて、すぐには見つけられなくて慌てる。
手に取ると、ぴいちゃんの名前。
それを見ただけで、泣きそうになる。
『藤野くん?』
通話ボタンを押しても、何も言えないでいる俺に、ぴいちゃんが呼びかける。
その声から、彼女が俺のことを心配していることがわかって、ますます泣きそうになる。
「うん。」
『どうしたの? 何かあった?』
あったよ。
だから、ぴいちゃんと話したくて・・・。
「ぴいちゃん。」
『はい。聞いてるよ。』
「・・・・・どうして。」
ダメだ。
のどがつかえるような感じがして、うまく話せない。
『藤野くん、大丈夫?』
ぴいちゃんの気遣わしげな声が聞こえる。
「どうして、俺とちゃんと話してくれないんだ?」
ぴいちゃんがハッと息を飲む気配がした。
やっと出た言葉は、まるで彼女を責めるような。
うっかりすると涙が出そうで、しかも悲しい気持ちでいっぱいの頭では、きちんとした文章にならない。
『あ。あの・・・、でも・・・。』
ぴいちゃんが困ってる。
俺が彼女を困らせてる。
俺は何をやっても、彼女を困らせてしまう。
「ごめん・・・。」
『あの・・・、謝らなくていいよ。あたし、藤野くんに冷たかった?』
「・・・うん。」
そうだ。全部、言ってしまおう。
そうすれば、彼女を俺のそばに引きとめることができるかもしれない。
「ものすごく悲しい。」
ぴいちゃんが黙って離れて行ってしまうから。
「どうして、一人で勝手に決めちゃうんだ?」
俺とぴいちゃん、二人に関係があることなのに。
『・・・ごめん。・・・あたし、藤野くんのこと、傷つけたんだね。』
静かな彼女の声に、また涙が出そうになる。
「さびしくて・・・悲しい。」
ぴいちゃんがいなくなることが、こんなにつらいなんて。
『うん・・・。』
「一人で勝手に決めないでくれよ。俺に話してほしい。それから・・・、」
俺の一番大きな願いは。
「一緒にいてほしい。ずっと。」
これからも、ずっと。
『うん・・・。ごめんね、気付かなくて。・・・藤野くんのこと、ちゃんとわかってなくて。』
ぴいちゃんの声が悲しそうだ。
俺の気持ちは伝わったんだろうか?
目をつぶって、ゆっくりと深呼吸をする。
「あのウワサ。」
『え?』
「ウワサを聞いたんだろう? 俺と小暮の。」
『うん・・・。』
「あれは本当のことじゃないんだ。」
『え?』
「初詣の帰りを誰かが見かけただけなんだよ。」
『あの・・・、でも日にちが。』
日にち?
『あたしが聞いたのは、1月3日って・・・。』
余計な間違いだな・・・。
だけど。
「ぴいちゃんは、その話だけを信じた? 俺と小暮が2人で出かけたって?」
『・・・うん。ごめんなさい。』
「どうして・・・?」
『え?』
「どうして、そんなウワサを簡単に信じるんだ? 俺は前から」
『そうだよね。ごめんなさい!』
あれ? 泣いてる? まだ話の途中なんだけど・・・。
強く言いすぎたか?
けっこうしっかり泣いちゃってるらしい。
電話を通して、ぴいちゃんのしゃくりあげる声が聞こえる。
『ふ、藤野くんが・・・そんなにすぐに心変わりするわけないのに。ご・・・ごめんね。しん、信じてあげられなくて。』
「あ、あの、そうじゃなくて。」
『ま・・・間違ったウワサ流されて、つらい思いしてるときに、・・・つ、ついててあげられなくて。あ、あたしまで・・・みんなと一緒になって』
「違うよ。俺の話を・・・。」
『藤野くんの気持ち、考えないで・・・、ふ・・じのくんを一人ぼっちに・・・。あの・・・ホントに、ごめんね。』
今は電話の向こうで泣いているぴいちゃんの方が興奮状態で、その分、自分が冷静になってきたことに気付く。
どうしたらいい?
・・・とりあえず、彼女の誤解を解かないと。
「ぴいちゃん?」
『・・・はい。』
呼びかけると、どうにか返事をしてくれた。
「俺が好・・・好きなのは、ずっと前から」
『うん。わかってる。』
何をわかってるんだ!
最後まで言わせてくれよ!
せっかく決心したのに!
『ふ、藤野くんには大切な人がいるのに・・・』
「いや、あの、」
『そ・・・その子が大きくなるまでは、あたしが一番の友達って言ったのに。』
なんか・・・ “大きくなるまで” って、ちょっと引っかかるな。
ぴいちゃん、いったい何を考えて・・・?
いや、今はそんなことで悩んでる場合じゃなくて。
「あ、あの、ぴいちゃん?」
『藤野くん、ごめんなさい。もう、勝手に結論出したりしないよ。ちゃんと相談する。ふ・・・藤野くんがさびしい思いをしないように、いつも一緒にいるよ。』
あー・・・。
たぶん、俺の希望とはビミョーに違うな・・・。
だけど、こんな状態のぴいちゃんに、これ以上、電話で説明するのは無理な気がする・・・。
仕方ないか、今日のところは。
ため息ひとつ・・・。
「ありがとう、ぴいちゃん。」
・・・そうだ。
この週末で。
「明日か明後日、会えるかな?」
『・・・あさって、模試に行くことに・・・。』
「・・・そうだったね。」
あさって部活を休むから、明日は休めないな。
仕方ない。
模試の帰りにでもちょっと、時間をとってもらおう。
「じゃあ、そのときに。」
『うん。』
「おやすみ、ぴいちゃん。電話してくれて、ありがとう。」
泣かせちゃって、ごめん。
『おやすみなさい。あさってね。』
うん。あさってに。