そんなこと、信じたのか?
冬休みが開けて、あっという間に1月ももうすぐ終わり。
今日、自分が困った状況に陥ってることを知った。
先週から、ぴいちゃんの様子がおかしかった。
俺が話しかけると困った顔をする。
受け答えも、最低限の範囲。
まるで、去年の4月ごろの彼女に戻ってしまったようだ。
冬休みが明けてからしばらくの間は、相変わらず彼女は恥ずかしがり屋だけど、仲良くしていたのに。
自分が何かしたのかと思って、学校が始まってからのことを思い返してみた。
でも、思い当たることが何もない。
彼女に直接訊いてみようかと思ったけど、なんとなく彼女を責めているような感じがするし、きっとますます困った顔をするだろう。
その理由を、今日の部活が終わったとき、林に言われたひとことで知った。
驚き過ぎて、その場ですぐにわかった、というわけじゃなかったけど。
「藤野って、里緒ちゃんと付き合ってるんだってな。」
“寝耳に水” って、こういうことを言うんだと思った。
俺がすぐに否定したのはもちろんだし、映司と岡田も、その場で違うと言ってくれた。
なのに、林もほかの部員も、なかなか信じてくれない!
林は、
「どうりで修学旅行のときに、俺たちに里緒ちゃんを紹介するのを渋ってたはずだよな。」
なんて、勝手に解釈して、笑ってる。
あれはそんな理由じゃなかったのに。
どこからそんな話が出てきたのかわからない。
たしかに中間テストのときに、一緒に勉強してたり(岡田もいたし、岡田の方が一緒率が高かった。)、帰りに昼飯を食いに行ったりしたけど、2人きりのときはなかったはずだ!
今だって、小暮がいるときは、ぴいちゃんが必ず一緒にいる。・・・っていうか、ぴいちゃんが小暮と一緒にいるから、俺も小暮と一緒になることが多いだけだ。
そういえば、みんな、俺の目当てはぴいちゃんだって知ってたはずじゃないのか?!
「“将を射んと欲すれば” ってヤツ? 里緒ちゃんよりぴいちゃんの方が、仲良くなりやすそうだもんなあ。」
「おい! なんてこと言うんだよ!」
「藤野!」
からかう部員たちを本気で怒りそうになった俺を、映司があわてて止める。
だって、ひどいじゃないか!
ぴいちゃんのことをそんなふうに言うなんて!
お前たちにはわからないかもしれないけど、ぴいちゃんの方が、小暮よりずっと・・・。
映司が岡田に、俺を連れて先に帰れと言っている。
それから、
「ここは俺から説明しておくから心配するな。この話の出どころも訊いておくから。」
と言ってくれた。
林たちには言いたいことが山盛りにあったけど、俺が何を言っても言い逃れだとしか受け取らないだろう。
それに・・・胸が痛い。
ぴいちゃんのことをあんなふうに思われたことが、すごく悔しい!
冷静に話すことは、今は無理だ。
岡田に引きずられるようにして、俺はみんなより先に帰って来た。
夜、映司が電話をくれた。
『あいつらには説明しておいたぞ。誤解だって納得してくれるまで、ちょっと時間がかかったけど。』
「・・・悪かったな。ありがとう。」
『小暮はうちの部でも人気があるから、みんなヤキモチ半分で、お前をからかったらしいな。』
ため息がでる。
「その気持ちはわからなくはないけど、俺が吉野を利用したみたいに言われたのは許したくない。」
『ああ、それは。』
映司が電話の向こうでちょっと笑う。
『お前が怒らなくても、ほかのヤツが怒ってたぞ。』
え?
『林は小暮派だけど、池田とか、篠崎とか、吉野の方がいいって言うヤツもいて、すごい勢いで抗議してた。』
池田も篠崎も、USJで一緒にいたっけ。
ぴいちゃんを弁護してくれたのはありがたいけど・・・複雑な気分。
『それに、俺、言っといたよ。』
「何を?」
『藤野の方が、岡田よりも前から吉野のこと好きだったって。』
うわーーー!
なんか・・・!
そんな!
たしかにそうかもしれないけど!
そんなにサラッと言うなんて!
今まで彼女のことを、好・・・ “好き” って言葉で考えるのが照れくさくて、ずっと・・・!
どうしたら?!
とりあえず、礼を言うべきなのか?!
だけど!
「あの・・・、ええと・・・。」
ダメだ。
恥ずかしい!
『まあ、そこまではいいんだけど。』
「え?」
そこまではって、いったいどういう・・・?
『あの話、もうかなり広まってるらしいぞ。』
「ホントか?!」
『野球部の2年で知らなかったのは俺たちのほかには2人だけだった。1年も何人か知ってたし。俺たちは知ってて当たり前と思われて、誰からも教えられなかったんだろうな。』
「いったいどこからそんな話が・・・。」
力が抜けてくる。
『初詣のときじゃないか? 正月にお前と小暮が駅で一緒にいるのを誰かが見たって。』
「だって、2人だけじゃなかったはず・・・、あ。」
『心当たりがあるのか?』
「ほんのちょっとの時間だけど。お前と和久井と別れて、小暮をバス停まで見送りに行ったとき。」
『岡田も一緒にいたんじゃないのか?』
「映司たちと別れてすぐ、岡田がトイレに行くって言って、小暮はバスの時間が近いって言うから、先に2人で歩いてたんだ。」
『そのときの可能性が高いな。』
どうしたらいいんだろう?
「いったいいつから・・・。」
もしかしたら、ぴいちゃんは知ってるのか?!
「吉野は聞いたのかも、その話。」
たぶん、間違いない。
それで、あんな態度を。
『ああ、そうか。女子の方が、うわさが広まるのが早いからな。俺からなっちゃんに訊いてみるよ。何かわかったら連絡する。』
映司の心遣いがありがたかった。
だけど。
どうしてぴいちゃんは、そんなウワサを信じたりするんだろう?
俺を見ていてわからないのか?
俺が、ぴいちゃんと小暮のどっちと仲がいいのか、一緒にいてもわからないんだろうか?
一番仲良しの友達だって言ったのに。
何かあったとき、俺が頼ってるのはぴいちゃんなのに。
そんなウワサ、「本当か?」って、俺に訊いてくれればいいじゃないか。
どうして。
映司からメールがあった。
『なっちゃんは演劇部でその話を聞いたけど、その場で否定しておいたし、吉野には何も話してないって。吉野がその話をしてるところも聞いたことがないらしい。』
そうだろうな。
ぴいちゃんが和久井にその話をしたら、和久井がそのまま放っておくはずがない。
きっと、どこかで聞いた話を自分一人で納得して、俺から離れようとしているんだ。
俺から離れる・・・?
そんなに簡単に?
平気な顔して?
俺は、ぴいちゃんにとってはその程度の存在?
あまりにも悲しくなって、何も言うことを考えないまま、ぴいちゃんに電話をかける。
・・・出ない。
近くにいないんだろうか?
俺だから出ないんだろうか?
メールを打とうと携帯を見つめる。
・・・何を書いたらいいのかわからない。
ウワサのことを弁解したら、わかってくれるのか?
俺の気持ちを伝えるべきなのか?
『ぴいちゃん』
その一言だけを打って、手が止まったままになる。
これ以上は、今は・・・。
どうしたらいいのかわからない。
何も決められない。
でも、何もしないままではいられない。
一言だけのメールを送った。