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ぴいちゃん日記  作者: 虹色
平穏な日々?
79/99

やったー!!



中間テストは先週の木曜から始まって、火曜までの4日間。今日は3日目の月曜日。


今日まで毎朝、岡田と俺の競争が続いているけど、ぴいちゃん本人は何も気付かないらしい。

通学のときは、駅をまわってくる岡田の方が圧倒的に有利。

今日も雨が降って、ぴいちゃんと岡田は一緒にバスに乗って来た。

俺も同じバスに乗れたけど、混んでいるから2人のいる場所までは入って行けない。

この前みたいに乗れなければあきらめがつくけど、同じバスに乗っていて、ぴいちゃんと岡田の話し声がときどき聞こえてくるっていうのは、ものすごく気がかりだった!


テストが始まってから、帰りに昼飯を一緒に食べるっていうのは、彼女の中で、どうにか “友達” の範囲内に納まったみたいだ。

たしかに、2人きりじゃないんだから気にする必要はないと思うけど、ぴいちゃんにしてみたら、けっこう冒険だったんじゃないだろうか。

初日はハンバーガー屋、2日目はドーナツ屋に行った。今日はサンドイッチ屋の予定。

でも、それも今日で終わり。

明日のテスト最終日からは、また部活が始まる。


朝の勉強には、テストの前日から小暮が加わっている。

いつもよりバスが遅れた小暮たちが、ちょうど登校してきた俺たちと一緒になったことがきっかけだった。

数学でわからないところがあると言った小暮に、ぴいちゃんが、岡田が数学が得意だからと薦めたのだ。

小暮はちょっと遠慮気味だったけど、ぴいちゃんに褒められた岡田が持ち前の親切心を発揮して、張り切って面倒を見ていた。

俺はその隙に・・・っていうほど、彼女と話すような口実がなくて、ただ同じ教室にいるっていうだけ。ときどき、英語や古文の訳をきいたりはするけど。


テスト期間中は席は出席番号順だから、ぴいちゃんは、俺が初めて彼女に気付いた場所に座ってる。

それをあのときと同じ席から見ていると、ずいぶん懐かしい気がしてくる。

机に向かっている彼女はあいかわらずまじめで、大人っぽく見える。

でも、本当はいたずら好きで、ユニークで、人見知りな、かわいい女の子だ。


あれから9か月近く? 一年の4分の3が過ぎてしまう。

その間に、俺は彼女に信頼される友達になった。

もう一歩、先に進めるのはいつだろう?




「今日は里緒も一緒に行ってもいい?」


3日目のテストが終わって、あと1日だという安堵感が漂う教室で、ぴいちゃんが岡田と俺に尋ねた。


「いいけど、小暮は家が逆なんじゃないのか?」


「そうなんだけど、たまには息抜きに。駅まで行けば、里緒の家の方には別なバスがあるんだって。あたしたちがバスのときじゃないと、里緒とは一緒に行けないから。」


“あたしたち” とひとくくりで言われて、ぴいちゃんが自分と俺たちを仲間だと思ってくれていることに、あらためて気付く。

心の中が、ほんのりと暖かくなる。


今日は4人で教室を出て、一緒にバス停に向かう。

小暮がいると、ぴいちゃんは小暮とばっかり話すことになってしまうけど、それは仕方ないな。


・・・というわけでもなかった。


歩いているときやバスの中ではそうだった。

でも、一緒に昼飯を食べている間は、ぴいちゃんも小暮も、俺たちとたくさん話した。

世間知らずのお嬢様っぽいおっとりした小暮が、岡田の冗談に遠慮がちながらも鋭いツッコミを入れることもあった。

俺たちはそんな小暮を見て、驚いたり、笑ったりした。

人見知りの人は、それを乗りこえてしまうと、どんな素顔が出てくるのかわからない。


「そうだ! ねえ、来月、模擬試験を受けに行かない?」


「模試?」


「うん。なっちゃんに誘われて行くことにしたんだけど、梶山くんも行くことになって、あたしはちょっとお邪魔みたいな気がして・・・。」


映司が行くなら、部活は休んでもいい日だな。

今のうちに、模試を受けておくのもいいか。


「いいよ。いつ?」


という俺の返事にかぶせるように、岡田が大きな声で言った。


「それより、正月に初詣に行こうぜ!」


うん。それも行こう。





バスに乗る小暮を見送ってから、改札口までぴいちゃんを送って行く。


「お昼、つきあってくれてありがとうね。」


ぴいちゃんが笑顔で俺たちに言う。


「別にそういうわけじゃないよ。」


言い出したのは俺だし、少しでも一緒にいたかった。


「そう? でも、あたしは家が遠いから、すごく助かった。なにしろ、普段から3時間目にはお腹が空いてるんだもん。」


「明日から、朝飯をもっといっぱい食ってこいよ。」


岡田が笑いながら言った。


「今だって、ほかの女の子よりは食べてるよ! 女子はサラダだけとか、飲み物だけとか、そういう人が多いんだよ。あたしは卵とサラダとパンと果物と牛乳。それでも3時間目までしか持たない。」


「燃費が悪いんだな。」


「なんか、その言い方、やだ。」


岡田の感想に対するぴいちゃんの拗ねた言い方が可笑しくて、笑ってしまった。

ぴいちゃんが、軽く俺をにらむ。


「あ! ごめんごめん! きっと、満員電車は体力を使うんだな。」


「そうかも・・・。4月から電車通学を始めて、2か月で3kg痩せたもん。おかげでスカートがゆるくなっちゃって。」


満員電車って、痩せるほどたいへんなんだ・・・。

小さい体で頑張ってるなあ。





テスト最終日はいい天気になり、自転車で学校へ。

これなら、午後の部活は、外で目いっぱい体を動かせる。


今日も岡田がぴいちゃんと一緒に、駅からやって来るだろう。

いったいどこで待ち伏せをしているんだか・・・。まあ、俺も同じか。

でも、偶然を装うのはそろそろ限界かも。

毎日のことは、偶然とは言わない。


いつもより早めにコンビニに着いて、今日は店で買い物をする。

お金を払って店を出ると、ちょうどぴいちゃんが通りかかって、俺を見つけて自転車を止めた。

ラッキー!!


しかも・・・岡田がいない!


ニコニコ笑って手を振る彼女に「おはよう」と言い、自転車を出す。

岡田のことを尋ねそうになって、やめた。

いないヤツのことを、わざわざ話題にする必要はない。


今回のテストの見込みとか、睡眠時間とか、普通のことを、普通に話しながら一緒に自転車で走る。

それだけのことが、どれほど楽しいことか!


学校の自転車置き場に自転車を止めたところで、ぴいちゃんがツツっと近寄ってきて、「あの、これ。」と言って、小さめの紙袋を差し出した。


え?

あれ?

俺に?

なんとなく、プレゼントっぽいけど・・・?

なんだろう?

なんで?


その理由がわからなくて、嬉しいんだけど、受け取っていいのかどうか迷ってしまって手が出ない。

ぴいちゃんは恥ずかしいらしくて、ちょっとだけ俺の顔を見て、すぐに下を向いてしまった。


「あのっ、お詫びとお礼、なの! 前に、弟が失礼なこと言っちゃって。」


ん?

それって、ずいぶん前の・・・。


「あと、この前、ノートを貸してもらったから。」


「ええと・・・。俺がもらってもいいの?」


この状況では、それ以外、考えられないけど。


下を向いたまま、こくこくとうなずくぴいちゃん。

“しあわせ” って、こういうことを言うのかも!!


内心で大喜びしている俺を、ぴいちゃんが困った顔をして見た。


まずい!

これ以上迷って、引っ込められたら困る。


「ありがとう。わざわざ買ってくれたのかな?」


さりげなさを装って袋を受け取ると、彼女はほっとして、肩の力を抜いた。

でも、やっぱり恥ずかしいらしくて、顔が赤い。


「実は、真悟があんなことを言ったお詫びにと思って、あのあとすぐに買ったの。」


ってことは、1か月以上前だよな?


「でも、こういうものを、あたしがあげるのはいけないような気がして、ずっとそのままになってたんだけど、今回、ノートも借りたし・・・。」


ぴいちゃんが俺にくれたらいけない “こういうもの” って何だろう?

すぐにでも開けたいけど、ここじゃ無理か。


「あー! 間に合った! ぴいちゃん、おはよう!」


ああ! 岡田!

いいところだったのに・・・。


ぴいちゃんがあわてて俺にささやく。


「あの、それ、ほかの人には内緒にしてくれる? 特別な意味はないんだけど、ちょっと・・・。」


了解のしるしにうなずいて、急いで紙袋をバッグにしまう。

それを隠すように立って、岡田にあいさつをするぴいちゃん。

3人で一緒にいるけど、2人だけの秘密があるって、なんだかドキドキする。




学校では包みを開けられなくて、家に帰ってから開けてみた。


スポーツタオルだった。


それを見てすぐに、彼女がそれを俺のために選んでくれたことがわかった。

ものすごく嬉しい!

そのタオルにぴいちゃんの気持ちが詰まっているような気がする。


これは、単なるお詫びとお礼の品で、特別じゃない。

内緒にしたいのも、恥ずかしいからじゃなくて、誤解されると困るから。


そう自分に言いきかせても、あのときの彼女の様子が忘れられなくて、淡い期待を抱きたくなる。

あんまり嬉しくて、じっとしていられない!

立ち上がって一歩踏み出した途端、机の脚につま先をぶつけて、大声をあげて床に転がってしまった。


と。

ドスドスと廊下をやってくる音が聞こえて、勢いよく部屋のドアが開く。


「もう! 受験勉強中なんだから、静かにしてよ! あたしはちょっと勉強しただけでいい点取れるお兄ちゃんとは違うんだから!」


「・・・ごめん。」


高校入試を控えている妹の茜は、最近、機嫌が悪いことが多い。

中学ではイラスト部かなんかで文化系っぽく思われてるけど、実は、小さいときから空手教室に通っていて、夏ごろ、初段を受けるとかどうとか言ってた。

俺は、絶対に茜とは口げんか以上のことはしないように気をつけている。俺自身は平気だと思うけど、壁やドアに穴を開けられたりしたら困る。


俺を一にらみしてドアを閉めようとした妹に、そういえば、と思って声をかける。


「お前、どこを受験するか決めたのか?」


「・・・お兄ちゃんとこ。」


ええー?!

妹が同じ学校にいるのって、やだなあ・・・。


「そんな顔して、無理だと思ってるんでしょ!! 絶対、合格してやるから!」


そういう意味じゃないよ。


茜は俺の表情を勘違いしてますます怒って、ドアを勢いよく閉めると、またドスドスと行ってしまった。

同じ女なのに、ぴいちゃんとはえらい違いだ・・・。


だけど、どうしてぴいちゃんは、俺にタオルをプレゼントしちゃいけないと思ったんだろう?

もしかして、くれたけど、みんなの前で使っちゃ困るとか思ってたりして・・・。








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